プロローグ
はぁぁぁ。また月曜がきてしまった。
あの資料、課長からなんかコメント入ってたっぽいなあ。嫌だなあ、コメント開きたくないなあ。
11時からの会議、準備終わってないなあ。
ずっと後回しにしてた部内飲み会の店予約、したくないなあ。
洗濯物、かなり溜めちゃったなあ。さすがに今夜やらなきゃマズいなあ。
金曜にカード会社から電話きてたの、無視しちゃってるなあ。
来月の法事行けなくなったってお父さんに連絡するの、嫌だなあ。
ダメだ。つい考えてしまう。考えるだけで憂鬱だ。
考えても仕方ないんだから、一旦忘れよう。
スッ
こんな感じで、ホームに着いたらすぐさま取り出されるスマホ。
隙あらばスマホ。とりあえずスマホ。私たち現代人の最大の習性といえるでしょう。
こんな時、あなたはスマホで何をしますか?
SNSチェック? 漫画アプリの巡回? スマホゲームのデイリーミッション回収?
僕は……
何も考えたくないからスマホを見るのに、スマホを見ることで逆に余計なことを考えさせられたら本末転倒ですよね。
SNSも、マンガも、考えさせられることが多すぎやしませんか?
考えさせにも色々と種類があります。
ウシジマくんの登場人物に「カード会社からの電話を無視している自分」が重なってドキッとする、直接型の考えさせもあります。
日本社会の未来を漠然と憂う羽目になるニュースを目にしてただただ気分が重くなる、間接型の考えさせもあります。
ほっこりニュースとか日常系マンガなら安全かというとそうでもなくて、「この犬は悩みがなくて良いなあ」とか「二度と取り戻せない青春を謳歌しててうらやましい」とか思い始めて余計に落ち込むパターンもあります。
SNSもマンガも「情報」のかたまりなので、何も考えたくないという願いとは相性があまり良くないと思っています。
じゃあゲームなら良いのか?
いやいや、ゲームだって…
ストーリーやキャラクターが「考えさせ」を食らわせてくる仕組みは、マンガと同じですよね。
それに加えてゲームの場合は、
タスクや戦略を考えないといけない、全く別の「考えさせ」が発生する構造もあります。
その週で獲得できる経験値の合計が1000だとして、その1000をどうやって各キャラに配分するか?
デイリーボーナスは回収したっけ?
そうだ、カビゴンにお昼ご飯をあげ忘れるかもしれないから、17:50くらいにアラーム掛けとくか?
無料ガチャが3回分あるから、1回は今週のイベで使って、あと2回は来月あるらしい別のイベで使うのがベストか?
ああ、考えることが多すぎる。
そもそもこんなにマジに考えたところで、誰に勝とうというのか?
でももう9カ月以上やってきたし、今更やめるのもなんだか勿体ない気がしてならない。
そうだ、これだけじゃなくて、あのゲームも、あとあのゲームも、ログインだけはしとかないと連続ログインが途切れてしまう。
ああ、もう会社へ着いてしまった…。
スマホを開いただけで脳の水分が搾り取られていく。
知らず知らずのうちにLPが下がり続け、いつの間にかゲージが赤になっている。
そこですかさず、さっきの「11時の会議の準備をしていない」「お父さんに電話しなければならない」といった重い記憶が、振り子のように戻ってきて腹をガツンと殴る。
わかっていただけましたでしょうか?
スマホは「考えさせる」ことに非常に長けています。体力がある時は便利で楽しい装置ですが、しんどい時はそのしんどさを増幅させる装置に豹変する。
かといって、いじらずにはいられない。
ふとした時にいじってしまう。憎いが手放せない。それがスマホ。
だから私たちは、
真の意味で「何も考えなくて良い」スマホゲームに興じる必要があるんです。
一旦、スマホをいじりつつも脳の回転を極限までゼロにしなければならない。冷却しなければもたない。
これは、もはやスマホ無しでは電車を待つことすらできなくなった私たち現代人の生存戦略です。
今までのおさらいも兼ねて、どんなゲームなら「真に何も考えなくて良いのか」を確認しましょう。
①キャラクターやストーリーがない
感情移入する隙間を排除すれば、何も考えなくて良い!
そのため、ストーリーはもちろんなし。キャラクターもなし。
ちなみにゲーム内に登場する物体がキャラクターに該当するかどうかは、「人格が認められるかどうか」となります。
どう考えても人格のないいぶりがっことかコイン精米所が主人公のゲームなら、感情移入しようがないので、何も考えなくて済むということですね。
②積み上げ式じゃない
積み上げ式、というのは僕が勝手にそう呼んでいる用語で、以下のような要素が挙げられます。
何年プレイしているとか、デイリーボーナスのアイテムをどれだけちゃんと集めているかとか、そういうの関係なし!
アプリを開いた瞬間、誰もが等しくスタートラインに立っている。
経験値の配分も、アイテムの使いどころも、何も考えなくて良い!
……そんなゲーム、面白いのか?
この要素を満たすスマホゲームを、僕は「一発ゲー」と呼んでいます。
たしかに、ただ本当に「何も考えなくて良い」だけの一発ゲーはすぐ飽きてしまうので、長続きしません。
僕は数年かけて、さまざまな一発ゲーを探し歩きました。ダウンロードしては消し、また戻し、また消し。
その結果、「何も考えなくて良いのに面白い」と胸を張って紹介できるゲームをいくつか発見しました。
これらにはすべて、「音楽がめちゃくちゃ良い」という共通点があります。
音楽に凝っているから、長く愛される一発ゲーに昇華しているのでしょう。
今日は僕の「名作一発ゲーコレクション」からいくつか、皆さんにご紹介いたします。
(1)Super Hexagon
https://apps.apple.com/jp/app/super-hexagon/id549027629
▲の形の物体を操作して、六方(Hexagon)から押し寄せる壁をよけるゲームです。
良いですよね、▲。なんの人格も感じない。
操作も非常にシンプルで、画面の左をタップしたら反時計回りに、右をタップしたら時計回りに、▲が軸回転するだけです。
時間経過するごとに壁の押し寄せ方が速くなったり複雑になったりして、難しくなっていくゲームです。
一番下のステージがHARD(難しい)というくらい、最初から結構難しい設定です。
最初は普通に六角形の壁をよけていくだけですが、
急にカメラアングルがドローンみたいに浮き始めたり、
六角形だった壁が
突然五角形に減ったり(椅子取りゲームみたいで面白い)、
四角形に減ったり(椅子取りゲームみたいで面白い)。
スコアは「経過した時間数(秒)」のみ。ライフはたった1つ。
パワーアップアイテムなし。救済措置なし。一時停止なし。何も考えずただ壁をよけるだけのゲーム。
壁にぶつかったら即ゲームオーバー表示がされます。いわゆる死にゲーです。
しかし、ゲームオーバー画面でワンタップすれば、すぐに0秒からリトライできる。この素早さも一発ゲーとしてはGood。
これの音楽の使い方がめっちゃくちゃ良い。
1つのステージにつき長めのBGMが1つあります。
ゲーミングPCみたいな画面テイストに合った、ギンギロ系のデジタルミュージックです。
それが、リトライする度に「違うポイント」から音楽が始まり直すんですよ!!
最初のトライではAパートから音楽が始まって、壁にぶつかってゲームオーバー⇒リトライすると、今度は全然違うDパートから音楽が始まります。次はB、次はEと、毎回ランダムに異なるパートから演奏が始まる仕様なんです。
一発ゲーって、音楽がずっと単調でげんなりするイメージありませんか?
特にゲームが難しかったりすると、最初のうちずっとAパートの開始数秒を繰り返し聴きながらリトライし続けるハメになったりするんですよ。
正直、げんなり要素がある一発ゲーなんてすぐやらなくなります。
それが、このSuper Hexagonは毎回違うポイントから音楽が始まるので、全く飽きないんです。
これはすごいことですよ。BGMに飽きがこない上に、BGMの全貌を把握したいがためにどうにか音楽を一周させようとするので熱中できるんです。ただ壁をよけるだけのゲームなのに。
ゲームへの鍛錬を駆動させるのは、ログインボーナスでもアイテムでもなく、「曲の全貌を知りたい」という根源的な欲求だということを教えてくれるゲームです。
僕のハイスコアはそこそこがんばって70秒ちょいですが、まだ一周できてません。おそらくフルで3分以上あるBGMです。
模式図では区切りをA~Eにしていますが、実際はFGHくらいまであります。
聞き覚えのフレーズ(F)と、聞き覚えのあるフレーズ(G)がたまにブリッジする瞬間に出会うと衝撃的です。こんなつなぎ方だったのか…!と。
パートの区切り方も絶妙で、初聴だと「BGM変わった!?」と思うくらい曲調の変化を感じられます。
ブツ切り感全くなしで、1パート1パートが1つのBGMとして完成されている。
そして、迫る壁が音楽に合わせて鼓動します。スーパーマリオワンダーみたいに。
もう確実に、このゲームは音楽が中心であることを、開発側がわかってやっている。
そんな素敵な一発ゲーは、Apple Storeなら400円でダウンロードできます。
『え、有料なの?』
そうです。有料です。本当に良質な一発ゲーは有料でも買った方が良いと思います。
「真に考えなくて良いひととき」は、最早タダでは手に入らない時代なのですから。
(2)Q
https://apps.apple.com/jp/app/q/id909566506
かなり有名になったアプリで、Nintendo Switchにも移植されたそうです。
いわゆる物理演算パズルのゲームで、画面上に線や図形を描いてミッションをクリアするというものです。
こういうミッションに
こういうのを描いて
あっ
できた。
というゲームです。
もちろんパワーアップアイテムなし。キャラもストーリーもなし。身一つで楽しめるゲームです。
僕は2015年ごろにハマっていましたが、何年かに一度、急激にQをやりたくなる瞬間があります。いつ起動してもそこから即また楽しめる、出遅れ感を感じさせないパズルゲームです。
Qの音楽がすごいという話は、僕がわざわざ言わずとも既に有名かもしれません。
作曲者はビバオール斎藤さんという人で、Soundcloudにて楽曲が大量に公開されています。
https://soundcloud.com/vivaall-saito/sets/liica-q-bgm
パズルゲームのBGMは、主張が強すぎたら邪魔になるし、かといって単調すぎたら楽しくない。その絶妙なラインを突き続ける良質なBGM群に圧倒されます。
そして、Qの最大の魅力が、BGMを自分のタイミングで移行できることです。
まず説明しなければならないのが、Qはステージ選択画面⇒ゲーム画面という手順で遷移します。
たとえば「PRIMARY 1」というステージ群であれば、下図のようになります。
で、PRIMARY 1というステージ群に対して専用のBGMが1つ用意されていて、その構成は以下の通り「前奏」と「本奏」に分かれています。
そう。
この「前奏」がステージ選択画面と、「本奏」がゲーム画面と対応しているんです。
ステージ選択画面にいる間は、前奏パートがループ再生されるので、勝手に本奏パートに移行することはありません。
ステージ画面をポチッと押せば、即座にゲーム画面に移行して本奏パートがドーンと始まる、という仕様になっています。
ビバオール斎藤さんの作曲センスがものすごいので前奏パートのループだけでも聴きごたえ抜群ですが、本来は前奏⇒本奏にピッタシ移行させることで初めて音楽が完成するという、何ともニクい仕様なんです。
つまり
ステージ選択画面からゲーム画面に移行するポチッのタイミングを調整することで
初めて完全なBGMが聴けるようになるんです。
気分はDJ!!
BGMの妙にここまでこだわっている一発ゲーが、世の中にどれくらいあるでしょうか?
ちなみに僕が一番好きなBGMは、PRIMARY 2です。
https://soundcloud.com/vivaall-saito/qprimary2-mix
前奏から本奏に移行するタイミングは0:47です。ぜひ、お試しください。
(3)Pivvot
まだ紹介したい一発ゲーは色々あるのですが、最後に1つだけ、もう配信していないゲームをぜひ紹介させてください。
PIVVOT
僕は自分のスマホに入ってるので問題なくプレイできますが、もう配信されていないようなので布教することができない。なんとも歯痒い日々を過ごしております。
推薦文を読んで「やってみたい」と思った方は、僕が直接スマホをお貸しします。お貸ししますとも。そのかわり、ドリンクバーをおごってください。
ゲーム内容は非常にシンプルで、
左上に映っている王冠みたいなのを
こうやってよけるだけです。
画面右を押すと時計回り、左を押すと反時計回りに、O>みたいなのが軸回転します。
何か壮大な物語の序章みたいなBGMとともに、障害物をよけていきます。
目まぐるしく変わる画面の色を尻目に、王冠を4つよけていくと、チェックポイントみたいな◎(右上)が現れます。
これを通ると
ッッッ
ッパァーーンッ!!!
画面の色が全て反転して、音楽も裏BGMっぽいものに変わります。
すると、新たな形の障害物が同じノリで登場するので、
同じノリでよけていきます。
ガンガン色が変わりながら、4つ同じやつをよけると、
またチェックポイントが現れて、
ッパァーーンッ!!!
と、オモテ面に戻ります。BGMも最初のものに戻ります。
オモテ面に、先ほどウラ面でやっつけた障害物が…!
異世界で遭遇した魔物が、時空の裂け目を通じて人間界に出没してしまうやつと全く同じ構造ですよ。これは。
あれ、王冠もまだいる…!
ッパァーーンッ!!!
また裏面だ。
また新たな障害物が…!
…これを繰り返すゲームです。
図に表すと、こうなります。
ウラ面で新たな障害物に出くわす度に、オモテ面に登場する障害物の種類が増えていくという仕組みです。
ウラ面が修行パート、オモテ面が実戦パートですね。
裏面では1種類のみ登場するので、よけ方をしっかり練習してからオモテ面に臨むことができます。
もちろんパワーアップアイテムなし。救済措置なし。ライフは1のみ。
ウラ面のBGMが本当に絶妙に「本来のBGMの裏」っぽいトーンになっています。曲調はオモテ面と同じ、でも何か音が足りない気がするし、くぐもっている。
あっ、今自分は「裏」にいるんだなということをBGMでしっかりわからせてくる。
最初の方は簡単な障害物ばかりですが、段々と
こんなのとか
こんなのと戦うことになります。
面をクリアしていく度に、よけられる障害物のレパートリーが増えていく。
アイテムによる強化ではなく、「己」の中に経験が貯まっていくこの感じ、一発ゲーが到達できる極致といえるでしょう。
そして、やっつけた敵が次々とオモテ面で総攻撃を仕掛けてくる。
後半に進むにつれて、オモテ面で登場する障害物の予測が不可能になってきます。
短いステージの中で、どんどん成長していかなければクリアすることができない。
ただただ、その場で鍛錬していく力だけが求められる世界。
そしてこのステージのタイトルが
VOYAGE(旅)
センス、爆発していませんか?
Voyageのオモテ面BGMは、すごいドラマチックです。何かが起こりそうな序章から始まって、じわじわと盛り上がっていき、音楽を一周聴くだけで未知の世界を探検したような気分になれます。
障害物にぶつかったらリトライですが、BGMは失敗したポイントの続きから始まるので、もう1回ドラマを第1話から見直すというげんなりも回避できます。
こんなこと言ったらアレですが、配信停止した現在でも有志がYouTubeにBGMを(オモテ面だけ)アップしています。
気になる方は検索してみてください。現在、再生数はたった360回。
一発ゲーのBGMなんてそんなもんでは?
いえいえ、Super HexagonのBGMは再生数が240万回を超えています。
そう、このゲーム、こんなに面白いのに、インターネットの海にほとんど情報が残ってないくらいド・マイナーなんです。
僕たちの小さな声の積み重ねが、このゲームを復活させるかもしれない。
それが、僕がこれを書いている理由なのだから…
………
はぁぁぁぁ。
今週中に対応しますって言っちゃったあのトラブル、全然放置したまま月曜になったなあ。
メールボックス開きたくねぇ~~~。
今考えても仕方ないから、とりあえず会社着いてから考えなきゃ…。
ダメだ。つい考えてしまう。
そうだ。
こんな時こそスマホで一発ゲーに興じて、さっぱり忘れよう。
スッ
いやこれスマホじゃなくて
King Crimsonの『USA』かい。