はじめまして。JETと申します。

 

これまではオモコロ本体のほうで「嘘」ばかり書いていましたが、「なんぼでも、もうなんぼでも働かせてくださいよ」と頼み込んだ結果、ブロスのほうにも書かせていただけることになりました。今後ともよろしくお願いします。

 

自分から進んで手を上げたはいいものの何を書いたものだろうと考えあぐねていたのですが、編集部から「貴様はせっかく大阪で暮らしているのだから、ナニワについて書いてみるのはどうか」とアドバイスいただきました。出身は違うのですが、大学を出てから初めての就職先で配属されたのが大阪で、かれこれ8年住んでいます。オモコロライターに関東在住者が多いということもあって、僭越ながら私がナニワのおすすめの飲食店・居酒屋を紹介させていただきます。

 

さて、関西在住者以外の読者の皆様は「ナニワ」についてどういったイメージをお持ちでしょうか。現在日本テレビ系列で放送されている『秘密のケンミンSHOW 極(毎週木曜21:00~)』でしょっちゅう特集されるような、「ガサツで」「笑いに厳しく」「オチを気にする」ような人間性の集団、といったところでしょうか。なにぶんあの番組で紹介されている町中の人々は残念ながらテレビ局が作成した「オートマタ(自動人形)」なので実際には存在せず、相当に誇張された演出ではあるのですが、独特の「粗さ」「思い切り」があるのは事実であると体感しています。

 

と、前振りはそこそこにしておいて、今回はある居酒屋を紹介させていただきます。場所は大阪市の「天王寺」にあります。



 

天王寺とは、梅田、難波に次ぐ大阪第3の繁華街で、2014年に開業した『あべのハルカス』をシンボルとし、近くには「てんしば」と呼ばれる広い公園、天王寺動物園、もう少し南に降ると通天閣で有名な新世界があり、開発の進むドヤ街・西成があって、といったごった煮のエリアでここにも大阪ならではの粗さ、適当さがあります。

 


 

今回訪れた【種よし】さんは、JR天王寺駅の北口から出てすぐの「阪和商店街」の中にあります。写真左手に写っている猫カフェはたしか昨年オープンしたばかりですが、その前はダイコクドラッグであり、さらに遡るとラブホテルだったようです。

商店街の入り口です。

ちなみに阪和商店街の雰囲気はこんな感じです。右側に写っている公衆トイレを利用した経験はまだありません。

 

 

店舗外観です。実はこの写真、うっかり取材当日に店舗外観の撮影を忘れてしまい、2月10日の金曜日21時ごろに改めて撮影したものになります。取材時は火曜日だったため店舗から溢れるほどの客数ではなかったのですが、この通りコロナ禍以前の活気を取り戻しつつあるようで喜ばしい限りです。ちなみに、コロナ禍前は店内も完全立ち飲みでしたが、以降は客数を間引くためかカウンター着席式となっています。

 

大阪の立ち飲み界隈では相当に有名店である種よしさんですが、確かに一見では躊躇してしまう存在感を放っているのも確か。ですが、一度立ち寄れば、特に天王寺近辺で仕事をしている方々にとっては間違いなくおすすめと言い切れます。観光で大阪に訪れた場合でも、ある種の特殊体験として心に残るであろうことは間違いありません。

 

 

 

引き戸を開けて店内に入ると、まずこの情報量の洪水に圧倒されます。『攻殻機動隊』で草薙素子が見ていた景色はたぶんこんな感じだったのだろうと思います。視界に入るだけでも「アメリカザリガニ」「イモリ干焼」「はちの子」といった、おそらく口にした機会のある人は少ないであろう、言葉を選ばなければ「ゲテモノ」に属する、一昔前のテレビ番組で罰ゲームで食されていたようなメニューに目を惹かれます。日本全国、のみならず世界の珍味がこの決して広いとは言えないカウンターの内側に集結しているのです。しかも、壁に貼られた短冊だけでなく別途日替わりの「おすすめメニュー」があったり、さらに言えば女将さんがアドリブでより奥底にあるメニューを教えてくれることもあります。深淵のそのまた更に深淵です。

 

 

 

私はまずおすすめメニューの中から「ホッケの刺身」を注文しました。飲み物はバイスサワーです。このお店は日本酒の銘柄も豊富に取り揃えており、私は日本酒も大好きなので是非飲みたいところなのですが、翌日も平日できちんと勤労が控えており、日本酒は翌日残るので泣く泣くパスしました。ホッケは鮮度の落ちるのが非常に早い魚であるため、生食としては北海道内での消費がほとんどで本州に出回る量は決して多くありません。そんなホッケの刺身も、リーズナブルなお値段で提供されています。ホッケの旬は7月〜11月ごろらしく、少しシーズンは外していたのですがそれでもみずみずしくて美味しかったです。

 

 

次に「サメの唐揚げ」を注文しました。私の地元(新潟県)でサメは主に煮付けとして食べられており、北のほうで食されるイメージだったのですが調べてみると山陽〜山陰では「ワニ」と呼ばれ生食されていて、広きに渡って郷土料理として親しまれているようです。サメといえば、元旦に視聴した「ジョブチューン」では、宮城県の気仙沼でフカヒレ用に養殖されたサメの身に利用価値を見出すべくスシローさんが開発した「フカの天ぷらにぎり」が勝負メニューとして取り上げられていましたが、結果は惜しくも不合格でした。あの「ジョブチューン」を観ていると、職場で小一時間詰められている自分の姿が脳裏をよぎり頭を掻きむしりたくなってしまいます。それはそれとして、この「サメの唐揚げ」にはカレー塩が添えられていて、油も軽くいくらでも食べられてしまいそうな味わいでした。フィッシュ&チップスみたいにしてタルタルソースをつけて食べても間違いなく美味しいでしょう。

 

 

ここで女将さんにおすすめをお訊きしたところ、「フジツボ」でいいのが入っているとのことで従いました。フジツボの「いいの」とはなんでしょうか。フジツボをご存知ない方に説明すると、防波堤の消波ブロックの裏側にびっしり張りついている甲殻類の仲間です。船底に付着すると航行に支障をきたすおそれがあるので、漁師さんたちは定期的に船の底をガリガリと掃除します。人間やほかの海洋生物にとって害となる存在でもあるのですが、そんなフジツボも茹でてしまえば食用になります。と能書きを垂れてみましたが実際に食すのは初めてでした。

 

どうやって食べるんですかこれ?と質問すると「殻を割って中の汁と身を吸い尽くせ」とのご指示をいただき従いました。するとまさしく”磯爆発“といった鮮烈な味わいで、私はアオサやホヤなど「磯丸出し」の食材が大好きなのですがどれも及ばないほどの”磯”でした。磯好きでフジツボをまだ試せていない方には是非経験してほしいです。日本酒が飲めないのが悔やまれました。いかんせん可食部が少なすぎるのがネックではありますが。そのころ、隣の席では背中を丸めた四十代ぐらいの男性が「イナゴの佃煮」を美味そうにつまんでおられ、「うまいすか?」と訊いてみると「うまいすね」と返してくれました。

 

 

と、やおら女将さんからサービスとして一本の串が提供されました。なんの肉でしょうか。

 

正解は「熊」です。「熊のサービス」はさすがに聞いたことがありません。「兄ちゃんおすすめやから食うてみて」と言われるがままに味噌を少量つけて串から身を引き剥がすと、噛めば噛むほど闘争本能を刺激するような野生の脂が滲み出てきました。「滋味」ですやんかと感慨深くサービスベアを噛み締めました。脂が白ネギともよく合います。

 

 

少し女将さんと話をする機会がありました。どうしてこれほどまでに品揃えが豊富なのかと尋ねてみたところ「旦那が日本中を飛び回り、美味いものを見つけたら交渉して手に入れてくる」とのことでした。たぶん江戸時代に生まれていたら国中の販路を開拓しまくって「豪商」と呼ばれる存在になっていたのでしょう。今度「オモコロ」っていうインターネットのサイトに載せても大丈夫?と交渉すると「オモゴロ?ああなんぼでも載せてくれていいよ」と快諾していただき感謝の思いでいっぱいです。「オモゴロ」のほうがカッコいいですよね。ステゴロみたいで。そういえば、飲食店の店員さんとタメ口で会話できるようになったのも大阪で暮らすようになってからです。客と店とのあいだに上下関係はなく、福沢諭吉もそういうのがいいよね、と確か書いていたように思います。こんな感じで、ぼちぼちと「ナニワ」を紹介したり、あるいは全く関係ないことをやってみたりしていけたらありがたいです。以上です。

 

【店舗情報】

「種よし」

大阪市天王寺区堀越町15−13(JR天王寺駅北口徒歩1分)

営業時間 16時〜23時(日曜定休)

 

【告知】

2022年秋の文学フリマ東京で出展した『まったくドルフィンキックしたもの』の電子書籍版が発売されました。4人の成人男性が力を合わせて執筆した短編集です。是非読んでみてください。

created by Rinker
¥800 (2024/04/25 16:18:39時点 Amazon調べ-詳細)