前々から「あるな……」と思っていた。

 

 

「あるな……馬刺しの自販機が」

なぜか分からないけど、あるのだ。

知らない間に馬刺しを自動販売機で買える時代が来ていた。

 

 

私が住む千葉県では9台の馬刺し自販機が設置されているらしい。思ったより台数はあるが、割と固まったエリアにしかないのでレアな存在だ。

だから、見かける度にちょっと興奮しながら「あるな……馬刺しの自販機が」となってしまう。

 

 

自販機なので24時間いつでも馬刺しを買えるらしい。24時間と言われるとすごい。いつ馬刺しを食べたくなっても安心というわけだ。

……いや、ちょっと待ってよ。

馬刺し側に24時間OKを出されて、戸惑う自分がいることに気がついた。馬刺しっていつ食べたらいいんだろうか。今まで馬刺しをいくタイミングなんて考えたこともなかった。

 

 

一週間後、偶然だが公園を散歩している時に馬を見かけた。菜々緒みたいな魅力的な足腰の馬を見てハッとした。今、わたし馬刺しの気持ちになったかもしれない。

今夜だ、自販機で馬刺しを買うのは。

 

 

23時、思ったより遅くなってしまった。暗闇の中で輝く自販機の前に立ったら緊張してきた。こんな深夜に馬刺しを買おうとしているという状況に少し興奮もしながら。

 

 

改めて見ると、種類がたくさんがあって迷ってしまう。

お肉の種類はモモ、バラ、ロース、たてがみ。2品盛りもある。形状もブロック肉とスライス済みのお肉がある。

馬刺しに疎い者にとってかなりの難関だ。どれがおすすめなのか知りたいが、ここは自販機。頼れる人は誰もいない。

 

 

迷いに迷って、まずはやわらか馬さし(ロース)のスライス済みのものを選んだ。

 

「極柔」と書かれたら選ばないわけにいかなかった。

 

 

もうひとつは、馬さし2品盛りを選んでみた。あまりにも白すぎる「たてがみ」がどんなものか気になったからだ。

 

 

緊張しながら、タッチパネルで購入。

 

 

自販機から馬刺しが出てきた。自分でボタンを押したから出てくるのは当たり前だが、新鮮に驚いてしまう。

自販機で手軽に上等なものを買うという行為に、頭の理解が追いついてないのかもしれない。

 

しかし馬刺しを買ったら、そんなふわふわしたことは言っていられない。持ち帰りのタイムリミットは1時間だ。

私は正気を取り戻して馬の如く全速力で帰宅した。

 

 

 

馬刺しの解凍と盛りつけは時間との勝負

 

銀色の保冷バッグと中に入っていた保冷剤のおかげで、馬刺しはカチコチのまま持って帰れた。よかった。

馬刺しと一緒に会津の辛みそが入っていたのも嬉しい。

 

 

食べ方の説明書どおりに準備していこう。まずは解凍だ。冷蔵庫で30分~1時間置いておくらしい。

 

 

だめだ、1時間も待てない。流水で5分でやらせてもらう。馬刺しをいきたいのは今なんだ。

解凍はお肉に芯の感触が残るぐらいでちょうど良いようだ。

 

 

解凍している間にお皿をセッティング。立体感のある盛りつけにしたかったので、大葉の下にスライスオニオンを置いて高さを出してみた。

 

 

解凍後の馬刺しは時間との勝負である。なんせ生肉をそのまま食べるのだ。もたつけば鮮度は刻一刻と失われていき、そのまま味に影響を及ぼすだろう。

それを見越してスライス済みの馬刺しを買ってきているので、スピーディーに盛りつけたい。

 

 

緊張のパッケージ開封

 

 

え?

 

 

紙がとれた。おかしい

 

 

めくるところを間違えたらしい。危ない危ない

 

 

紙だ

 

私は馬刺し柄のメモ帳を買ってしまったのだろうか

 

無限紙地獄に落ちている場合じゃない。こうしている間にも肉の鮮度は死んでいっている、そう思うと発狂しそうになった。

 

 

急いで盛りつけを……!

(慌てふためいているが、お肉から出たドリップはちゃんと拭き取っている)

 

 

 

自販機で買った馬刺しを自宅で食べる

 

どうにか間に合った。馬刺しの鮮度は保たれた。

猛スピードでお醤油、玉子の黄身、塩&ゴマ油も用意した。薬味にわさび、生姜、辛みそ、にんにく、みょうがも添えてみた。準備万端だ。

 

 

見た目は同じように見えるロースとモモ、未知の白いたてがみ。

さっそく食べてみたいと思う。まずはロースから。

 

 

すごい、これは紛れもなく生肉だ。肉を食らっているという感じがする。

生食といえば魚のお刺身を思い浮かべるが、それとは全くの別ものだ。なんというか繊維が違う。歯を押し返す弾力がある。でもあっさりと嚙み切れるぐらいの柔らかさ。なんて複雑な歯ごたえなのか。

 

 

味は驚くほど食べやすい。たんぱくな味わいというか、臭みがまったくない。

馬刺しの味ってすごくシンプルだ。だから風味の強い薬味や辛みそが合うのかもしれない。

 

 

続いてモモに箸をのばした。先ほどのロースと見た目は似ているが、食べてみると本当にちょっとだけ違う気がする。モモのほうが繊維が多いような、噛むとちょっと密度を感じる。その分、口の中で肉感を味わえるので食べごたえがある……ような気がする。

モモとロースを食べ比べるとかなり曖昧な感想になってしまうが、ひとつだけはっきり言えるのは、どっちもおいしいということだ。原始的な旨みというか、パワーの味がする。もう難しいことは考えられない。馬肉、すごい、うまい、もっと食いたい!

 

 

気になっていた「たてがみ」は予想を裏切ってきておもしろい。

かじるとコリコリッと鳴る。意外な歯ごたえに驚いているとスワ~……と溶けて無くなる。無くなったー! とまた驚いてると脂の旨みが消えて後味さっぱり。裏切りの連続。なんなんだ、たてがみ。楽しいじゃないか。

 

 

あっという間に完食してしまった。私はロースをお醤油と黄身をつけて食べるのが気に入った。

 

生食できるお肉は貴重だ。それを自販機で買えて自宅で簡単に食べられるというのは、ありがたいなと思った。

馬刺しを24時間いつでもいける状況はとても幸せなことなのかもしれない。

 

 

 

「たてがみ」について補足

あとで知ったのだが、白いたてがみは赤身で巻いて同時に食べることで、霜降り肉のような味わいを楽しめるらしい。

確かに自販機の写真を見た時に「赤と白を交互に盛りつけててオシャレだな~」と思った気がする。思って、終わった。

次は赤と白を霜降り肉みたいにして食べてやりたい。

 

 

ブロス編集部より

かとみが色々なものをちゃんと見てしっかり堪能するシリーズ「チャントミー日記」ですが、普段はオモコロ有料会員コミュニティ「ほかほかおにぎりクラブ」にて連載しています。

 

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