突然だが読者の皆さんはコミュニケーション能力はあるだろうか。俺は全然無い。
ご存知の通り、現代社会はコミュニケーション能力が無い者に非常に厳しい。人間はコミュニケーションを通じて敵味方を判別するからだ。仕方がない。人間が虫を容赦無く殺せるのは虫とコミュニケーションが取れないからに他ならない。
そういうわけでコミュニケーション能力が無いものが社会を生き抜くには、付け焼き刃でもコミュニケーション能力を身につけるしかない。
さてどうしたものかと悩む日々の中で一冊の本を手に入れた。これだ。
『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』だ。
「必ず人をひきつける」ときたもんだ、これだ。俺に必要なのはこの本に違いない。俺はこの本で会話名人コミュ力モンスターになって楽に生きてやる。いまに見てろよ。
少しばかり古い本に見えるかもしれないが、それもそのはず。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P262より)
奥付けを見ると、昭和二十七年発行と書いてある。昭和二十七年。俺は平成生まれなので全然ピンとこないがウィキペディアによるとGHQがようやく廃止されたり鉄腕アトムの連載が開始された年らしい。ようするに、戦後だ。発行所は「主婦と生活社」あの「主婦と生活社」だ。そんな昔からあったんだ。
戦後の主婦のための会話本。きっと、現代の何倍もコミュニケーション能力が重要だった時代のはずだ。これは期待できる。俺にコミュ力を授けたまえ。
本書には様々なシチュエーションでの会話がかなり具体的な例文で載っている。いくつか紹介しよう。
(※めちゃめちゃ古い本の話をしますので現代だとガチガチに差別用語とされる言葉が出てきたりします。ご了承の上お楽しみください)
誕生日に招かれて
誕生日会に招かれたときの言葉だ。十分現代でも起こりうるシチュエーションだろう。そんな時にはどう挨拶すれば良いのか。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P18より)
……すごい語彙力だな戦後の主婦。もう早速マネしたい。「なんだか愉快ではなくて?」って言いてえ。
姪の女学校卒業を祝う
親戚が学校を卒業した時の祝いの言葉だ。これも現代でも起こりうるシチュエーションだ。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P19より)
これもすごい。卒業という言葉を「業(ワザ)を卒(オ)えたんじゃなくて、」と言い換えているのがめちゃめちゃかっこいい。かっこいいけど文字で書かないと伝わらないような気もするぞ。
持ちものを褒める
持ち物を褒められて悪い気がする人は少ないはずだ。とりあえず持ち物を褒めとけという感覚は戦後も今も変わらないはずだ。ではどう褒めれば良いのか。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P102より)
こうだ。コミュニケーションにおいて程よい謙遜は会話の潤滑剤になることだろう。「洞穴の眼なんですわね、ホホホ。」なんて謙遜がスラスラ出ると良いに違いない。「洞穴の眼なんですわね、ホホホ。」言いてえ。
失業した友には
失業した友人にかけるための言葉だ。慰め、励まし、いったいどんな言葉をかければ良いのか。それもこの本は教えてくれる。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P92より)
言いてえ。失業した友人に「おやおや、ミス・浪人?」言いてえ。すごいぞ戦後センス。
開店した未亡人へ
この本は本当にありとあらゆるシチュエーションに備えた会話が掲載されている。当然「開店した未亡人へ」送るための言葉もだ。なんだよそのシチュエーションは。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P96より)
未亡人関係ないのかよ。
待ち合わせする
待ち合わせの約束の際はどのような言葉を交わせば良いのか。そう言った基本もこの本は抑えている。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P131より)
これは夫との待ち合わせするときの言葉らしいが、見慣れない言葉がある。「パン助」ってなんだ。調べてみたら戦後の在日米軍相手の娼婦の呼び名だった。これは真似しないほうが良さそうだ。読者の皆さんも真似しないようにしよう。
服装を褒める
持ち物同様、服装を褒められて嫌な気になる人は少ないはずだ。服装を褒める言葉を覚えておいて損はないだろう。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P101より)
恐るべし戦後センス。たまらねえ。「ライラックの花の精のようよ」なんて褒め言葉、この本を読まなければ一生思いつかなかっただろう。今すぐ誰かの服装を褒めたい。ライラックの花の精と言いたい。
警察の人に良人(夫)の友人の動静をきかれたとき
本当になんなんだそのシチュエーションは。俺が知らないだけで戦後あるあるなのか?
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P165より)
後ろに付け足された注釈が良い。「適当に主婦の頭で判断して、明快な返事をすること」とある。戦後の主婦には高度な判断力が求められたのだろう。
坊ちゃんが花を折る
せっかく育てた花を知らないクソガキがへし折ったときにどのように声をかけたら良いのか。これは現代でも役に立ちそうだ。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P69-70より)
怖い。
モダンな話し方
会話の相手から「こいつは古いしダサい」と思われると悔しくて泣いてしまう恐れがある。それを避けるためにもできるだけモダンな会話を心がけたい。そのためのテクニックも掲載されている。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P223-224より)
か、かっこいい……、使いたい。「とんでもないアプレ・ゲールね」言いたい。アプレ・ゲールが何か知らないけど。(調べたら「戦後古い考えにとらわれず行動した若い人々」みたいな意味でした。覚えましょう)
後半の「何々的」とか「何々性」はツイッターでよく見かける気がする。モダンだ。
会話で使わない方がいい言葉。
当然使わない方がいい言葉も掲載されている。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P216より)
わかった、絶対こういう言葉は使わないぜ!
みんなも絶対に使わないでくれよな!!
以上、『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』より紹介した。戦後の主婦向けの本ではあるが、平成の成人男性が読んでも十分に為になる本だった。
また良い古書を手に入れたら紹介して行きたい。
巻頭の養命酒の広告がめちゃめちゃ良かった。
(主婦と生活社『必ず人をひきつける 実例本位 上手な話し方の事典(主婦と生活九月号付録)』P3より)