クルクルクル……

 パシッ

 

おい、そこのお前。

僕ですか?

 

え、なんでですか……。

理由(ワケ)は、おいおい話す。

この、これでやるから。なんか、いっぱいはんだ付けできそうだったから。あと、完成したら音に反応してピカピカ光って楽しそうだからだ。

はい……。

 これが注文したはんだ付け練習用の電子工作キットの中身。中国製なのか、ラベルに書いてあることは何一つわからない。とにかくわけがわからない部品がたっぷり詰まっているのが一目でわかるぜ。いかにも繊細そうだ。俺の手に負えるだろうか。

 

 使うものはこんな感じだ。これらを使ってこれから嫌になるほどはんだ付けをしていく。

やる

 これが基板だ。これに細かい部品をはんだ付けしまくっていく。これからこれに空いている穴の数だけはんだ付けすることになるのだ。

1,2,3,4…………441箇所か。合ってる?

知らない……。

 

 幸いにも日本語の説明書が入っている。どの部品をどこにつければいいのかは全て書いてあるので、部品の意味なんかわからなくても説明書に従ってはんだ付けをしまくればいいはずだ。

助かった。電子工作なんかさっぱりだからな。

え、じゃあなんでこんなことを。

理由(ワケ)は、おいおい話す。

 

 最初はこの「抵抗器」というやつをつけていくらしい。針金に青いTENGAみたいなのがくっついている。

 縞の色で種類を見分けるらしい。かなり見づらい。茶色と赤が合ってるのか心配になる。黒と茶色も近い。黄色もモノによっては茶色に見える。ふざけんなよ。

 

 とにかくこれを折って正しい場所に差し込んで

 

 裏側からはんだ付けする。今更ながらはんだ付けとは、熱したはんだごて(右の道具)ではんだと呼ばれるこの細い針金みたいなやつを溶かし、端子とかを繋いで主に電気とかがちゃんと流れるようにしてやる行為のことだ。とても繊細で、世界一かっこいい作業の一つと言える。

 説明が合っているかはわからない。やり方も正しいのか知らない。誰かに教わったわけではないから。

電子工作はやったことないのにはんだ付けはできるの?

エレキギターの修理とかでちょっとやったことがあるくらい。でもここまで細かいのは初めて。

ふーん……。

 

 はんだ付けができたら余分な線を切ってやる。

 

 とりあえず一つできた。

見て。

できてるね。

 

 この調子で抵抗器を黙々とはんだ付けしていく。溶けたはんだの独特な臭いが鼻につく。

 

 とりあえず抵抗器をすべてはんだ付けし終えた。慣れない作業だからか、この段階で3時間くらいかかった。説明書によると完成までの行程が18セクションにわかれているが、1つ目がようやく終わったことになる。先が思いやられるペースだ。

あ〜〜〜〜〜

 

好きなんだよな、こういう黙々コツコツとした作業。

帰ってもいい?

見届けてくれ。

 

 次はピカピカ光る発光ダイオードを128個はんだ付けしていく。一つにつき2箇所のはんだ付けがいるので256回はんだ付けすることになる。たまらないぜ。

おい、おいちょっと待て。この説明書を見てくれ。

はい。

 

説明書の通り作ったら多分こんな感じに光ることになるわけだけどさ。

そうなんだ。

 

絶対こっちがいいって。

なんで?

横軸が音の高さで縦軸が音のデカさだとしたら、音がデカい時に赤が光るほうがそれっぽいから。

そうなんだ。

俺は普段こういうのは絶対に説明書の通りにやるタイプなんだよ。信じてくれ。知育菓子も絶対に作り方に従って作るし。でもこればかりはアレンジさせてくれ。絶対こっちの方がかっこいいから。

知らんよ。

 

 発光ダイオードはこんな感じになっている。ヘアピンくらいのサイズに電気で光る仕組みが詰まっていて不思議〜!!!! なあ!! みんなもそう思うよな!!

 

 ただ、なんか棒に出っ張りがあって途中で基板の穴につっかえてしまう。完成図を見た感じもっと奥まで差し込むっぽいんだけどな。

 

 こうなったら出っ張りから上で切って、光るところの中の構造でプラスマイナスを見分けるしかないか。そんなことしていいのかな。まあ、いいだろう。多分。

 

 切って

 刺して、はんだ付けしていく。多分大丈夫。電子工作って途中で上手くいってるのか確かめられないから気が狂いそうになるな。好きなVTuberの長尺配信とかを流しながら黙々と作業していく。VTuberの人、クソ長い配信をしてくれてありがとう。

そろそろ、理由(ワケ)を説明するか。

早くして。

俺が子供の頃、近所に模型店があってさ。いつもはミニ四駆とかを買ってたんだけど。俺って理科大好きボーイだったから、電子工作キットがいつも気になってたんだよ。ロボットを作ったりするやつ。

それでついに一つキットを買ってみることにしてさ。音に反応してゆらゆら歩くロボットができるやつ。すると店のおじさんが「作り方わかるか?」って聞いてきてさ。「わからないけど、やってみたい」っていうとさ。おじさんが「じゃあ今度作り方教えてあげるよ」って言ってくれて。日時を約束してさ。その日はおじさんの店に買ったキットを預けて帰ったんだ。

いい思い出じゃん。

後日、約束の時間に店に行くとおじさんがいて「ごめん、用事ができちゃったから」って言ってさ。

あら

 

電子工作の部分だけ全部作ってくれてたんだよね。

そこを一番やりたかったのにさ。あとはもう、歩く機械の部分を組み立てるだけになっててさ。そんなのゾイドと同じじゃねえかよ。ふざけんなよ。まあそんなこと言えなかったから「ありがとうございます」って言って持って帰ったんだけどさ。

 

結局、それ以降電子工作キットを買うこともなくてさ。でもずっと今までそれが心残りで。

もう大人なのにまだそんなこと言ってんの。

人っていつか死ぬじゃん。死ぬ時に「ああ、あの時本当は電子工作やりたかったな。完成に思いを馳せながらはんだ付けしたかったな」って思い出すとしたら最悪じゃん。もっとエッチな思い出とかに走馬灯の尺を割きたいじゃん。

エッチな思い出あるの?

路上で露出狂におっぱい見せられたことある。

 

それで、嫌になるほどはんだ付けする電子工作やったらあの時の電子工作への未練も断ち切れるかなって。

わかるような、わからないような。

ふう……

 

疲れたから今日はここまでな。

明日は来なくていい?

来て。

 

翌日

頑張るぞ。

……。

 

昨日あのあと髪からはんだの臭いして最悪だった。

今日もするだろうね。

 

 発光ダイオード128個のはんだ付けができた。全18セクションのうち、2つ目までが終わったということだ。まだ2つ目かよ。でも確実にはんだ付けのスピードと正確さが上がっている気がする。

残りの部品は128個あるやつとかないから意外と早く終わるんじゃないの。

そうかも。あとはダイジェスト気味にやろうかな。

 

 あとはなんかセラミックコンデンサなる丸いやつをつけたり。

 電解コンデンサなるものをつけたり。

 トランジスタなるものをつけたりする。トランジスタってなんか聞いたことあるな。トランジスタラジオとか。トランジスタグラマーとか。

トランジスタグラマーってトランジスタラジオからきてるらしいよ。

それは調べるのに部品の役割は調べないんだ。

トランジスタといえば麻雀ファイトガールでイヨちゃんが「トランジスタにビンビンきてます」とか言ってたな〜。ロボメイドキャラの。

知らんよ。

 

 トランジスタが何をするものなのかわからないが、とにかくつけ終わった。

 

マイクと、可変抵抗。

マイクと、可変抵抗。

 

ピンヘッダーなるもの。

 

……。

ピンヘッドは絶対関係ない。

 

 給電用のUSB Type-Cのジャックだ。身近な部品が出てくるとテンション上がるな。これを自分の手ではんだ付けすると「ここがこう繋がってんのか」みたいな素直な学習の喜びがあるな。

他の部品も直接触れる機会がないだけで多分身近なものだと思うよ。

なんだ急に、ちゃんとしたことを言いやがって。

 

 水晶振動子。文字の意味はわかるけど言葉の意味がまるでわからない。

 

 あとはこの、ICソケットを取り付けたらいよいよはんだ付けは終わりだ。ラスボスに相応しいはんだ付けの数だぜ。

 

おりゃ〜!!!!

早くなったじゃん。

はじめて褒めてくれたね。

 

 あとはこのICをつけたら

 できた。はんだ付け441箇所。俺の初めての電子工作だ。

 

テスト、するか。カバーつける前にやるべきだった。

これって一箇所ミスってたらどうなるの?

わからない。一応頑張れば付け直しはできるけど、やりたくない。

 

 ジャッ

 ビシッ

「麻雀ファイトガール!」

 

おお。できてるじゃん。

うん……。

未練、断ち切れた?

うん。もう当分はんだ付けしたくない。でもさ。

めちゃめちゃ楽しかったわ。またやろうかな。電子工作。

そう……。