数年前、俺は連休を利用して地元に帰省していた。

 久しぶりに会う友人とのドライブ。頻繁に帰省してはいるものの、そのたびに少しずつ変わっていく故郷の景色。それを見るのが間違い探しのようで楽しくもあり、少し寂しくもあった。

 

 車は中学校の前に差し掛かった。母校ではないが知っている学校だ。地元にいた頃はこの近くにもよく来ていたのを思い出す。

 

 だが、何かが変だ。その場に相応しくない何かがいる。

 

 校門の前にズボンをおろした中年男性が立っているのだ。ショッキングピンクのパンツが嫌でも視線を引きつける。

 

 そしてそのパンツからは“何か”が出ている。男は手でその“何か”をしごいていた。“何か”っていうか、まあチンコなんですけど。白昼堂々中学校の校門でセンズリしている男がいたのだ。

 

 いくら自然が豊かな熊本県とはいえこれは許されない。連休中とはいえ部活などで生徒がきている可能性もある。そんな生徒がこいつと鉢合わせたら……やはり見過ごすわけにはいかない。

 

 だが中学校の校門でセンズリしてるやつに直接注意したくはない。だって、話せばわかる奴だったら最初からそんなことしないし。

 かくなる上は手段は一つ。

 

 

「警察ですか、〇〇中学校の校門の前でチンコ出して触っている男がいます」

 

 

 生まれて初めて警察に通報した。一度でいいから警察に通報してみたいと思っていたので夢が叶った瞬間でもある。

 

 警察はすぐに警察官を向かわせてくれた。俺と友人にも話を聞きたいので警察署にきて欲しいとのことだった。

 

 署へ行き事情を話すとすぐに担当者が現れた。

「現場に向かった者から連絡がありました、いたそうです

 よかった、さすが警察だ。

 

「後で顔の確認して欲しいんだけど、覚えてます?」

「顔……はちょっと自信ないです、パンツが派手すぎてそっちに目がいって」

「どんなパンツでした?」

ピンクでした、パンツは間違いないです」

「なるほど、もう一度確認なんですけど、どんな状況でした?」

「〇〇中の校門の前に立ってて、ズボンをおろしてパンツからチンコを出して触ってました」

 

「右手で触ってました? 左手で触ってました?」

 

 右か、左か。

 

 さすがに覚えていない。友人も覚えていなかった。覚えていないけど、その情報、いるの? いるから聞いたのだろうけど。右か左かで罪の重さが変わるのだろうか。あるいは俺が「右」と言ったのに男が「左」と言ったら釈放になるのだろうか。まあ、覚えていないものは仕方がない。

 

「覚えてないです」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 警察官は真面目な顔でメモを取っていた。「チンコ触っていた手、不明」などと書いていたのだろうか。

 

 その後連行されてきた男は間違いなくあの男だった。俺と友人はその確認が済むと帰っていいよとなったので、男がその後どうなったのかはわからない。

 

 あの時男が使っていたのは右手だったんだろうか、左手だったんだろうか。そしてそれにどんな意味があったのだろうか。

 

 いまでも時々あの質問の意味を考える。

 

他の「文字そば」を読む