「今日は月末だから、昼休み禁止なー!」
その命令はさも自然に、カジュアルに、まるで映画館の携帯禁止のように告げられる。古い体質のブラック企業では、こんなことがよくあった。
フロアの一角で驚いた顔をしている連中がいる、新卒たちだ。ふふ、わかったかい、君たちが入った会社は大ハズレだ。
4年目の僕は完全に慣れたもので、ノルマに達してない月末にこういうイベントが発生することを熟知してるし、予期もしているのでコンビニで色々買ってから出社している。
ちなみに昼休みを削ったくらいで達成出来るほど甘いノルマなど設定されていない。これは部長が「部下も積極的に協力してくれてここまでやったんですが駄目でした」と上に報告する為のくっだらないイベントだ。
上にはマネジメント力とやる気を見せる事が出来、下からは人望を普通に失う人外の技。
「その代わり、昼に全員分のハンバーガーをおごる!」
まだ新卒たちからの人望を失いたく無い部長は、こういう方向性に行き着く。奢ればいいだろという考えも古い体質そのものだ。現代のサラリーマンの昼休憩を奪う罪がハンバーガーくらいで償えると思うなよ。
連帯責任で昼休憩を失ったフロア付けの事務員さんたちは、1時間後にめちゃめちゃ嫌そうな顔をして200個のハンバーガーを持って来た。
1番安いバーガーを200個で20000円。サイドメニューやドリンクなどない。全員の希望なんか聞いてたら昼休みが終わるから。新卒たちも「仕方ないか……」といった表情でもそもそとハンバーガーを食べながら仕事を続ける。
俺は「今日はハンバーガーデイだろうな」と予想もしていたのでスープやカフェオレを用意する。驚けひよっこ、これが社会人経験の差だ。
しばらくして部長は会議のため消えていった。月末最終日なのに進捗が70%だから、多分めちゃくちゃ怒られているんだろう。そして戻ったら僕らを怒鳴るはずだ。社長の怒りは会社の怒りとして末端までチェインする。
少しでも怒りの要素を減らしたいので、ハンバーガーのゴミ捨てを一番仕事が出来ない浜田君にお願いし、ハンバーガーを咥えつつ仕事を進めた。
浜田は大きなゴミ袋にみんなの食べたゴミを回収して、袋を縛った。
そしてそのゴミ袋を、部長の机の上に置いて戻ってきた。
なんで? 何が起きた?
戻ってきた部長はゴミ袋を見ていつも以上にブッチ切れた。
「相手を思いやる心が無いから貴様は営業成績も悪いんだ!」
すごい正論。
「よくもこんなことが出来るな!」
ちょっと泣いてた。俺もそう思う。
「でも!部長が買ってくれたものなので!」
浜田も謎の応戦をする。喋るな。二度と喋るな。
ノルマは達成出来ず、部長は「未達成報告」というこの世で1番書きたくないレポートを死んだ眼で執筆していた。
「てりやきバーガーが良かったです」とか書いてある浜田の日報が部長の目に入る前に、サッと帰った。残ってしまった新卒は飲みに連行されたことだろう。
それから僕のいるフロアでは、昼休みを禁止することが無くなった。ハンバーガーでは古すぎる体質は変わらないし、理論でも変わらない、理外の理が変えるのだ。