ドラえもんに、もしもボックスというひみつ道具がある。
「もしも、こんな世界だったら」
と箱の中で願うだけで、その通りの世界になる夢のような道具。
蒸して暑い昼を過ぎて3時、タバコを切らせた私は国道沿いの、徒歩で15分もかかるコンビニまで歩いていた。
家に近くにコンビニはあるが、私が好んで吸うオレンジ色の煙草だけ嫌がらせのように売っていない。もしもボックスがあればレジの裏を全てオレンジ色に染めてやるのに。
なので歩く。熱射の中を歩く。多めに買っていざという時用にストックしておこうとか考えながら国道のコンビニの近くまで来た時、馬鹿みたいな笑い声が聞こえてくる。
スマホで時間を確認し、少し後悔した。
あのコンビニの近くには偏差値35くらいの高校がある。午後3時は、ちょうど無数の高校生がたむろしている時間だ。
35と言ったが、偏差値というシステム上、数字が30に近づくとあまり低い値にならない恩恵の上での35なので、実際の偏差値は7くらいだと思う。偏差値とはなんだろう。
なので今、このコンビニでは制服にサングラスをした男子高校生や、ルーズソックスの女子高生などを見かけることが出来る。ちなみにもうすぐ平成は終わる。
たちの悪いことにイートインスペースもあるので、そういう高校生の巣みたいなコンビニとなっていた。
入り口に近づくとジロジロチラチラと見られる、この時間に普通の人間はここに来ないからだ。もしもボックスがあったらこいつらを根絶やしにするのに。
店の前には証明写真を撮る機械があり、閉ざされたカーテン下からルーズソックスが見えた。その脇で2人の女子高生がかったるそうにスマホをいじっていた。友達の撮影を待っているのだろう。
特に気に留めることもなく、早く煙草買って帰ろうと歩を進めると、証明写真機の中から甲高い声が発せられた。
「ねえー! めっちゃブスになったんだけどー!」
声の方を向くと勢いよくカーテンが開き、めっちゃブスが出てきた。ビックリした。そういう手品かと思った。
タバコを買って外に出ると、先程の女子高生たちが「プリクラを撮ろう」などと話し合っていた。
証明写真機は現実を映すけれど、プリクラなら可愛くなれるのだろう。箱から出たその子の世界は、盛れた自分が生きている。もしもボックスみたいだ。