この腐った議論を終わらせたい。一言でズバッと刺さるような事を言って終了させたい。

 

初めて訪れた会社で記事の打ち合わせ。軽い雑談中の「インフルエンザになると息が熱くなる」という発言からどう発展してしまったのかわからないが、僕は初対面の女性担当者と「口から何か出すならどれが一番強いか」という議論をしていた。

ドラゴンのように火を吹くとか、リクームみたいにビームを放つだとか、そんな話をしていた。世界一無駄な時間。

議論は妙に活性化していた。1つ意見が出ると「それならこの能力は!?」と次から次へと色んな能力が提案された。先ほどまでやってた「俺がここでどんな記事を書くか」みたいな話題の数倍、担当の発言量が多かった。

 

帰っていいなら帰りたい。記事の話は終わってるから話すことはないはずだ。会議室の時間を2時間とったからって2時間いないといけないわけじゃないだろ。もういいだろ。

しかし結論は中々出なかった。色んな魅力的な能力は出るが、「一番」となると何か他に良い能力があるんじゃないかと思ってしまう。一撃で「これだ!」ってなるやつないかなーと考えていた時に、昔読んだ漫画を思い出した。

 

「死の息吹(レスピラ)だ」

「え?」

「なんか触れるものを老化させるんです、肉体も終わるし 、無機物も老朽化して腐ったりするんです。しかもすごい速さで。これが一番のはずです」

「なるほど……」

 

終わるはず。これ以上は無いはず。多分色んな作品から探せばあるとは思うけどすぐに浮かばないのなら議論は終わりだ。

 

「じゃあ……」

 

担当が口を開く。なんだ? 質問か? いいぞ。俺はバラガン・ルイゼンバーンに詳しい。質問にもサッと答えて終わらせよう。

そう思い軽く身構えたところ、衝撃的な一言が飛び出した。

 

 

 

 

 

「もしマキヤさんがその能力を持ってたら、今話してる私は痔になるってことですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ならないと思うよ?

 

なんで? どういう発想でそうなんの? そうだとしたら俺どこに話しかけてんの?

老いる=痔なの? 「ですよね?」じゃねえよなんでわりとそうだと思った上で聞いてるんだよ。せめて「ですか?」にしてくれ。

 

「腐らせる」という言葉に白紙に戻すという意味があるように、痔によって僕のアイデアは腐らされ議論は続いた。

無感情で話しながら不意に、オーディションに落選し号泣していた友人を思い出した。

彼女は友人たちになだめられながら、「でもまだ好き、だから、まだ頑張れる!」と叫んでいた。涙で顔をボロボロにしながら、腐らずに前向きなセリフ。言葉にあまりにも感情が入りすぎていて、無関係の僕の心まで刺さった。

 

「口から何か出すならどれが一番強いか」

 

無駄な議論は2時間を過ぎても続く。付き合わされながら思う。言葉が一番強いかもしれないと。それを相手に伝える勇気はとっくに腐っていた。

 

 

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