高校入りたての頃、「チロル」というあだ名を付けられたことがある。

 

 毎日お昼休みに購買でホワイト&クッキーのチロルチョコを2つ買う僕の姿を見て、クラスメイトの女の子がそう呼んでくれたのだ。

 

 チロルなんて恥ずかしいな、女の子みたい、と照れながら頭を掻く僕をからかうように、彼女たちは何度もチロル、チロルと呼び続けた。呼ばれる度に、なんだか体がくすぐったくてモジモジと足のつま先を見つめてしまう。

 

 あーあ、入学して最初に付けられたあだ名がよりによってチロルか。困っちゃうな。卒業後もチロルって呼ばれ続けて、知らない人から由来を尋ねられたら一体なんて説明しようか、とこれからの僕を憂いて苦笑した。

 

 

 一日で廃れた。

 

 コーヒーガムの味だってもう少し長持ちする。

 

 彼女はその名を広めてくれるどころか、あの後一度さえ呼んでくれなかった。人を馬鹿にしている。誰かが二代目チロルを襲名したなら話は別だ。8万円くれ。

 

 それとも全ては僕の妄想だったのか。そんな女の子は存在しなかったし、僕がモジモジと見つめていたのはつま先じゃなくて四方を囲むフワフワの白い壁だったのかもしれない。(発作で暴れても自分の体が傷付かないように柔らかい素材で出来ている。やさしいね)

 

 ともかく、あだ名というのはなかなか思惑通りに定着しないものだ。

 

 これまで僕に付いたあだ名を列挙すると、「チロル」、「キョンキョン」、「毒郎」、「すけボン」、せいぜいこれくらいだ。「キョンキョン」と「毒郎」は僕の本名をモジって付けられたもので、「すけボン」は説明しなくても分かるだろうから割愛する。

 

 「チロル」といい「毒郎」といい、食べ物関連のあだ名が多いのは偶然か。結局どれも長続きせず、ずっと苗字で呼ばれ続けた。

 

 僕に限らず、案外あだ名というのはそんなものなのかもしれない。

 

 皆さんも子供の頃を思い返してほしい。校庭を駆け回り、身体中のヒザを擦りむかせていたあの頃を。

 

 坊や哲とか雁屋哲とか、そんな凝ったあだ名で呼ばれていた人が居ただろうか?大抵は、本名の一部をトリミングして、それに「くん」とか「ちゃん」とか「っち」とか「陸戦型」とかを付与しただけの安易なあだ名ばかりだったはずだ。

 

 理由は分かる。

 

 あまり捻りすぎたあだ名は、呼ぶ方も妙に照れてしまってなかなか難儀するのだ。

 

 それに、凝ったあだ名で呼ぶということは、そのあだ名のセンスを認めることに他ならない。下手に変なあだ名で呼んでしまうと、自分のダサさを露呈することにもなりかねないのだ。

 

 これには反論する方もいるだろう。ではその人に尋ねたい。

 

 あなたは、ツイッターのことをヒウィッヒヒーと呼べますか?

 

 

 

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