友達がマジでひとりもいない。
といっても、インターネットで自分を卑下して「友達いない」とか「ぼっち」だとかのたまう連中とはレベルが違う。
大体、そういう奴等はよくよく話を聞くと大抵ひとりふたりは友達がいて、仕事終わりに楽しく酒を酌み交わしてたりするんだ、ふざけるな。
お前らはネット上の自分を着飾るために都合よく「ぼっち」という服を羽織っているだけじゃねえか、丸裸の俺を尻目に。え?。そいつはさぞ着心地いいウルトラライトダウンなんでしょうね、大事になさってください、さよならッ!
話が逸れた。
とにかく僕は本当に友達がおらず、ひとりで色々な経験を積んできた。
ひとりファミレスもひとり遊園地もこなしてきたが、さすがにひとりすたみな太郎はきつかったな。広大な四人掛けテーブルに座り続けるのが耐えられず、何度もわたあめ製造器に並んだあの日を想うと、涙が溢れてくる。カメラの前では決して見せなかった涙が。
おかげで僕のロンリー筋はバキバキに鍛えられたけれど、そんな中でも一番辛かったのは、九州在住なのに関東民限定のオフ会に参加した時だった。
それは数年前の8月のこと。
東京観光に訪れた僕は、見知らぬ土地でひとりの夜を過ごすのに耐えられず、2chの「関東民オフ会スレ」を開いた。ちょうどオフ会の告知レスを見かけ、迷ったあげく「参加」の投稿を投げつけ、瞬時に「やっちゃった」と後悔。
九州民の僕がどうして関東民のオフ会に参加するんだ。ダメだろ。僕の中に流れるラテンの血がそうさせたのか。しかし今さら引き返せない。
会場の居酒屋に着くと僕は少しでもシティボーイに見えるようにシャツの襟を遊ばせて、参加者の中に加わる。
九州民であることを必死に隠しつつ、それでも割と楽しく騒げていたのだが、話題が「隅田川花火大会」に移り事態は急変する。
他の人々が花火大会について口々に語り合う中、とうとう僕にもその話題が振られてしまった。
「夢顎くんは?花火見れたの?」
見れるわけがない。
九州生まれ九州育ちの僕が関東のイベントなんか知っているはずもない。だからといってボタン連打で乗り切れるような状況でもなく、追い詰められた僕は脂汗を流し「あー、うん、仕事で?……見れなかった、かも……?」とぎこちなく答えた。
途端に、周囲の懐疑的な視線が僕に集中する。
「こいつ、本当に関東民か?」
彼らの目は、確かにそう語りかけている。
「おい、余所者が紛れ込んでるぜ」
「なんかイオンくせえと思ってたんだよな、さっきから」
きっと、皆そう思っているはず。ただ、うなだれることしか出来ない僕だった。
その後、誰一人として僕に話しかけてくることはなくなった。
結局、こういう人の信頼を裏切るような真似ばかりしているから、僕には友達が出来ないんだろう。
でも僕が本当に関東民だったら、この悲劇は起こらなかったはず。
よし、上京するか。