第38回「スタンガンで電気を流せば食事をもっと楽しめるのでは?」

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OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
唄/森の子町子

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こんばんは、神田です。

突然なんですがこれ、何だかわかりますか? そう、スタンガンです。先っちょの電極から電気を放出し、暴漢から襲われたときに身を守るための護身用具です。対象を無力化することを目的に設計されたものなので殺傷力はありません。なぜ私がスタンガンを持っているのかというと、

かっこいいから

という純粋興味はもちろんなんですが、こちらのマンガを読んだことが一番の理由です。

 

決してマネしないでください。(2) (モーニングコミックス)
決してマネしないでください。(2) (モーニング KC)

こちらは工科大学を舞台に身近なギモンを科学実験で検証していくマンガ。その中に「鶏むね肉を通電することで高級地鶏に変える技」として肉に通電する場面が出てきます。これってすごくない?? もしかしてスタンガンでも食べ物をおいしくできるのでは?

 

何かとネガティブなイメージを持たれているスタンガンも「食べ物をおいしくする装置」として再発見されるのではないでしょうか。でもなんでそうなるのかはよくわからないので詳しい人にお話を聞くことにします。

 

サイエンスライター・川口友万さんに仕組みを聞いた

今回は様々な科学実験を行い、自身もライターとして活躍されている川口友万さんにお話を伺いました。

 

川口友万さん
1966年・福岡県生まれ。富山大学理学部物理学科卒。「サイエンスにもっと笑いを!」をモットーに科学をテーマにした執筆活動を行う。「あぶない科学実験」(彩図社)、「ラーメンを科学する」(カンゼン)など著書多数。食に関する実験を行う「科学実験酒場」の主催をしている。

 

「はじめまして。いきなりなんですが、鶏肉に電気を流すとおいしくなるというのは本当なのでしょうか?

 「そう言えるでしょうね。まずは食べてもらったほうがわかりやすいのでさっそく実験してみますか」

実験…?

 

 「持ってきた通電装置をセットして」

 

 「電極をつないで電気を流せば…」

 

ジジジジジジジジジジジジジ

「状況が飲み込めない」

 

1万5000ボルトの電圧の電気を1分ほど流します。電圧はもっと低くても大丈夫なんですがやっぱり派手な方が絵的にもいいので」

「どういうことなんだ」

 


「左が通電させた肉、右がそのままの肉です。なんとなくですが違いがわかりませんか?」

 

通電させたほうが片方に比べ肉の繊維が若干広がっている気がしますね。肉質もプリプリしている」

「でしょ〜? それでは調理したものを食べてみてください」

 


「あっ、確かに普通のものに比べて、肉質が柔らかくなっていますね。肉がきゅっと締まって食感も良くなっている…。風味に関しては貧乏舌なのでよくわかりませんでしたがけっこう変わりますね」

「わりときちんと変化が出るでしょ? うま味に関しては以前に味覚センサーで検査しましたが、通電後のほうがうま味成分が上というデータが出ました」

 

おいしくなる仕組みとは?

「実験いただきありがとうございました! 通電前と後のもので違いを感じて驚いたんですが、どうしてこのような変化をするのでしょうか」

 「その理由は電気を流すことによって、お肉に含まれるATP(アデノシン三リン酸)という化合物が分解されうま味成分であるイノシン酸に変化するからです」

 「なるほど。その化学変化がお肉をおいしくする仕組みなんですね」

 「そうですね。ただ厳密に言うと電気を流すことで風味が変わるわけではないんです」

 「??? どういうことですか?」

 「肉のATPは処理後時間をかけてイノシン酸に変わっていきます。これが世間一般に言う熟成です。簡単に言えば電気刺激が肉の熟成を早めてくれるんです」

 「電気が直接風味に作用するわけではないんですね! 電気を流せば、てっきりなんでもおいしくなるんだと思っていました」

 「ATPが多く含まれているものであれば通電によって風味が変わりやすいですね。特に落としたての新鮮な肉や魚はATPの残留値が高いので、味そのものの変化は感じやすいと思います」

 


「なるほど…。じゃあ自分が持っているスタンガンを使って、色んな食材をおいしくすることは可能ということですかね?」

「なんでそんなの持ってるんですか。まあ、きちんと通電させることができるのならば原理上は可能でしょうね」

「ありがとうございます! さっそく試してみます!」

 

飲み会もスタンガンを使えばよりおいしく楽しめる?

旅館でくつろぐ団らんのひととき。そんな飲み会のときにスタンガンがあればつまみをもっとおいしくできるのではないでしょうか。新鮮なお刺身を用意しました。

 


「新鮮なお刺身うまそっ」

 


「ちょっと待って! スタンガンを使えば刺し身がもっとおいしくなるはずだから!!」

 


マグロの刺身にスタンガンで電気を与えます。おいしさ用スタンガンの本領発揮といったところでしょうか、充分に通電させれば準備はOK。日本のまほろばの心をスタンガンが暴力的に引っかき回すさまは風流とは違った粋(いき)を感じさせてくれます。お味は果たして…?

 

「ちょっと柔らかくなった気はするけどケミカルな臭いがすごいする

???????

鶏肉で実験したときは上手くいったのにそんなはずは…!

 

 

「くっさ」

肉質は柔らかくなった気がしますが、何か昔のテレビのような科学的な臭いが邪魔をします。これはいったいどういうことなのでしょう。

 

調べてみたところ、この臭いは放電することによって空気中の酸素分子が結合しオゾンが発生したためのようです。オゾンは殺菌性が高く、半導体部品などの洗浄に用いられている気体。あまり身体にはよくないようです。

どうやらスタンガンは刺し身をおいしくするには向いてないのかもしれません。空気放電ではなく直接電極を差し込めばあるいは…!

 


ですが原理的には可能なので、飲みの席でスタンガンを使用するにはまだまだ改善の余地がありそうです。今度は科学の知識をより踏まえた上でどうすればおいしくなるのかを突き詰めたいですね。

 


最後にスタンガンを当ててお別れです。

 

 


痛い

 

(おわり)

 

※神田は特殊な訓練を受けているので良い子は決して真似しないでください