どうもご苦労様です。JETです。前回は天王寺の居酒屋「種よし」さんを紹介しましたが、今回もまた、あるお店を紹介します。

皆さんは「大阪市平野区」を訪れた経験があるでしょうか。大阪市民でさえ「ほな、平野区に遊び行ってくるから」と家を飛び出すなんてシチュエーションは想像しにくい、居住者や隣接自治体(東住吉区や松原市民など)の住民でなければあまり目指すことのない場所です。大阪市を構成する24行政区のうちで最も人口を擁するのに、特に用事のない場所、平野区。そんな平野区にある串カツ屋「武田」さんの情報やエピソードを皆様にお届けしたいと思います。

営業日時と住所は以下の通りです。

 

■串カツ・どて焼き「武田」

■住所:〒547-0044 大阪府大阪市平野区平野本町1丁目ー5

■営業日時:月曜日から水曜日の16時から19時半ごろまで、木金土日祝休み、雨天休業、その他臨時休業あり

 

と、一般の勤労者、就学者にはかなりハードルの高い営業日時になっております。この条件をクリアしようと思うと、近隣の会社や学校に通っていないとすれば、平日に休みないし半休を取得し、19時半までに大阪メトロ谷町線平野駅ないしはJR平野駅に到着していなければならない。と、大阪市民でも難しいのに、都道府県をまたいでくる観光客にとって来店はかなり厳しいといってもいいのではないでしょうか。よし、次の週末にでも行ってみよう、と決めた時点でもう無理です。閉まっているから。それにプラス、天候に恵まれなければアウト。この、天候が重要になる理由はのちほど説明します。 

 

 

というわけで、私は火曜日に有給休暇を取得し、会社に迷惑をかけ、平野区にやって参りました。会社に迷惑をかけているのは決して武田さんのせいではありません。原因は自分です。有給休暇という名の自由の翼を生やした私は健やかな空気・心に包まれました。春から晴れて新入社員デビューを果たした方もおられるでしょうが、自由の翼を生やすのはエナジードリンクによる元気の前借りでは決してなく、有給休暇を取得することです。生きるためには権利をガンガン使用してください。

余談はさておき、私、そして友人の2名は夕方ごろに「武田」さんを目指したのでした。さまざまな条件・制約を突破したとしてもなお「臨時」休業があり、もうそうなるとどうしようもないので私は祈る気持ちで店のある辺りに歩みを進めました。

 

すると、オレンジのテントが夕闇の路地にぼう、っと現れ、我々はほっと胸を撫で下ろしまし た。やった。営業している。この「テント」様式というのがミソで、営業時間が終わるとテントは格納されこの道路から姿を消します。野ざらしなので、荒天になると営業しない、というか「できない」のです。

先客も何人かあり、テイクアウト待ちの方もおられました。このお店はテイクアウトのお客さんもかなりの割合を占めていて、近隣で暮らしている方々がパックに揚げたての串カツを詰め、家に帰っていきます。うらやましい。

 

大阪府内のほとんどの串カツ屋では、お店のメニューに「どて焼き」があります。もしかしたら馴染みのない方もおられるかもしれませんが、牛のすじ肉を白味噌で甘く長時間煮込んだ料理で、器に盛られているか、このように串に刺された状態で提供されます。もうすでにとろとろに煮込まれた状態なので、スピードメニューとしても重宝されます。このどて焼きが信じられないほどビールに合います。あまりにも串から外しやすいのでAdoさんも憤慨せずに済むのではないでしょうか。

 

 

このお店の最大の特徴、それは串カツを揚げる女将さんと我々客との距離が「近すぎる」点です。隔たりが一切ありません。カウンター上にある銀バットに、フライヤーから揚げられたばかり、というか「刹那」の串カツが提供されるのです。今回、記事にするにあたり、女将さんの手捌きを表現したい、と手元を凝視していたのですが、誇張なしで、視認できませんでした。ふと虚を突かれた瞬間、自分の目の前に串カツが顕現しているのです。もう「串聖」の域にまで達しておられるのだと思います。

 

 

次に目を惹くのが、フライヤーの横に並べられた食材の数々でしょう。こう美しく並べられると、あれも、これもと注文したくなり抑制が効かなくなるのです。ヘレ肉やかしわ、ウインナー、ちくわといった定番ももちろん、季節によって旬のものをラインナップに加えられており、この日は筍、菜の花、ハモなどがありました。私はまず、筍、エリンギ、紅生姜を注文。友人はそこに「きんちゃくねぎ(油揚げ巾着のなかに小口ネギを刻んで入れたもの)」を注文していました。

 

 

西日に照らされた黄金色の串カツが美しいですね。まず、紅生姜を手に取り、口の中で噛むと薄揚げの衣と紅生姜の爽やかな味わいがじゅっ、と広がり至福でしかありません。揚げ物は揚げたてであればあるほど美味しい、というのは当然の摂理であるとして、そのうえで、ほんとうに目の前で揚げられているのだから「速さ」においてもう理論値に達していると言えるわけです。串カツのTASです。これ以上早くすることは「無理」なのです。スーパーマリオ64のTASやRTAで数年にコンマ何秒更新する。みたいな熱い争いが行われていますが、串カツにおいてはもう武田が永世串聖の座に就いているといえるでしょう。

水分が多い食べ物であればあるほど揚げるのにコツがいるのですが、やはり「速さ」が利点となっていて、水分が飛ばずにきちんと衣の中に閉じ込められているのです。次に手に取った「筍」を噛んだ瞬間、鮮烈に筍の味わいが広がってソメイヨシノが咲きました。おいしすぎる。串カツで、というよりも「揚げ物で」いちばんおいしいかもしれない。と興奮しました。 エリンギも、しっかりと繊維が残っていて噛み応えがありました。

 

 

レバー、菜の花、納豆きんちゃく、ハモです。レバーは新鮮でとろっとしていてコクがありますし、菜の花は揚げる際の豪快な音が印象的。ほろ苦い味わいはこれもビールに合う。納豆きんちゃくは、素早く揚げられているので納豆のねばねばが失われておらず、おいしい。ハモはサービスで、と一本だけ残っているのを提供いただいたのですが、身のほぐれがよく、当然うまい。こんな多種多様なタネを、次から次に的確な揚げ時間で捌き続ける女将さんの演算能力はどうなっているのでしょうか。一方通行(アクセラレータ)でしょうか。いろいろ喩えて申し訳ないのですが、私は9年大阪に住んで、こちらの串カツが一番美味しいと思います。他の串カツは衣が厚揚げの店があって私は基本厚揚げ派なのですが、武田は薄揚げでも別格に美味しい。

 

少し、女将さんとお話をする機会があったので伺ってみると、「武田」さんを開かれてからもう54年になるとのことでした。54年串を揚げ続けているからこそ、あの一切の無駄のない流麗な串捌きが完成されていったというわけです。使われているソースは、大阪西成の地ソースである「ヒシ梅ソース」で、サラッとしており甘めの味付け。

 

 

かしわヘレを追加しましたが、例えば、「ヘレを10本」「かしわを10本」とか、尖った串構成にするのもありかなと思います。あまり頻繁に来られるわけではないのであまり攻めるのは躊躇するのですがいつかは試してみたいです。とくにかしわ。鶏の唐揚げグランプリって大体銀賞~ 金賞受賞の印が色々な唐揚げ屋さんに掲げられていると思うのですが、もし審査員が武田の唐揚げを食べたら剥奪されるに違いありません。 

 

たらふく串カツを食べ、我々は大満足で店を後にしました。すると会計の際、こちらのショップカードをいただきました。女将さんのお孫さんが東京で串カツ屋を開かれており、武田の味が東京でも楽しめるということです。これは関東在住の方は行くしかないでしょう(お店は路面でなく、店舗型のようです)「たけちゃん」さん。JR田町駅から徒歩2分、土日祝、休み!やっぱり平日だけ!

 

いきなり映画『ブレードランナー』の街並みを見せられても、と思われたかもしれませんが、これが武田の近くの商店街「平野中央本通商店街(サンアレイ平野)」の様子です。サイバーパンクにしか見えませんが日中はわりあいお店も営業していますし賑わっています。看板や屋号には昭和、もっと言えば「戦前」の空気が色濃く残っている場所です。 

 

いにしえの朝日新聞販売所。朝ドラのセットのようですね。こちら調べたところ依然現役で営業されている新聞配達業を営む会社さんで、創業明治22年とのこと。134年前。パリ万博と同期です。

 

わらふぢなるおの石碑です。

 

AMだとしたら相当気合い入ってますね。

と、最後おまけのような形で駆け足でいろいろ紹介してみましたが、天王寺など繁華街に出やすく、暮らすにはとてもいい街ですし、商店街の居抜きで若い人たちがカフェや居酒屋を出店していてきちんと新陳代謝もしているので、みなさんもぜひ平野区に足を運んでみてください。それではまたお会いしましょう。

 

“帰ろう、おいらの生まれたあのサンアレイへ

帰ろう、細い路地のあのサンアレイへ”

『ロッド・スチュワート/サンアレイ』