リックェです。
突然ですが、本当のSFを読みたくはありませんか?
それならこれ!
短編集「あなたの人生の物語」です!!
2016年の映画「メッセージ」(こちらも記事書いてるので読んでね!)の原作である「あなたの人生の物語」を含む、短編集です。
1編は30分からせいぜい3時間くらいで読めちゃうので、ぜひ。
収録されているのは以下の8作品。
・バビロンの塔
・理解
・ゼロで割る
・あなたの人生の物語
・七十二文字
・人類科学の進化
・地獄とは神の不在なり
・顔の美醜について
どれもハズレ無しにおもしろいのですが、
まず前半4つを紹介させてください。
バビロンの塔
あらすじ
バビロンの塔をひとりの石工が塔を昇っていく。
塔を昇るごとに変わる景色、そこに住まう人々。そして塔はついには”天”に届くが、その先にあるのは……?
キーワード
バビロンの塔
バビロン(バベル)の塔は、創世記に登場する完成しなかった塔。人間が神に近づこうと建て、神の怒りに触れ途中で壊されてしまう。しかし、短編内では、神はいるのかいないのか沈黙していて、塔は”天”に届いてしまう。
ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』(1563年)
見どころ
高所の描写
「地上から空へ向かって、夜がこの塔を昇ってくるのが見られるぜ、動きは早いがちゃんと見えるはずだ」
<中略>
ヒラルムは無言だった。生まれてはじめて、夜の正体を知ったのだ。夜とは、大地そのものが空に投げかける影であることを。
高い塔から大地を見下ろして日が沈めば、きっと本当にそうなるという説得力があるんすよね。
さらには、太陽や星々を追い抜いてのぼっていくのですが、そのへんも単なる空想になりそうなのにしっかりSFしてるんですよ。
30分くらいで読めるしオススメの短編です。
理解
あらすじ
ホルモン治療によって、知性と記憶、感覚器官が超人になった主人公。
その能力を軍事・経済利用したい政府に追われる。さらにはもうひとりの超人が現れ、対決はさけられないが……
見どころ
頭脳バトル(知性バトル)
自分の頭がどんどん良くなったら、何のために使う?
主人公の知性の向き先は「真理の探求」でした。
そして現れる真の対立者は、同様に治療を受けた超人で、彼の知性の向き先は「人間愛」。
この2人の超人はお互いの存在に気がついたときから衝突が避けられないことを悟ります。
ここの描写がいいんです。
いわゆる「頭脳バトル」ですが、小説ならではといった趣。
ビジュアライズされない描写
マンガや映画ならド派手な攻撃描写があってしかるべきなんでしょうが、知性お化けの2人ですから、行動の前に超読み合いになる。そこに選択しなかった1000の攻撃があって、その「未選択」こそがビジュアライズされない超頭脳部分なんです。そしてそこから導き出される1つの攻撃!カッコいいだろうが!
ゼロで割る
あらすじ
数学上の公式を発見する主人公。その公式は数学を壊してしまうような発見だった。
キーワード
1=2の証明
ちょっと知られた1=2 の証明を乗っけときますね。
式変形(等式は両辺に同じ計算を行っても等式のまま)ってルールしか使わない中学生でできるやつです。
b = a があります。
a + b = 2a 両辺にaを足します
a – b = 2a – 2b 両辺から2bを引きます
(a – b) = 2(a – b) 整頓します
両辺を(a – b)で割ると
1 = 2
わーお!
1=2が証明できました!
っていう茶番なんですけど、見ての通り、b=a なんだから 最後の(a – b)で割る、が実は0なんですよね。これがタイトルの「ゼロで割る」なわけです。わーおクレバー。「ゼロで割る」っていうのは、数学では「禁止事項」。
つまりこの証明は失敗してるってわけ。
見どころ
主人公は、この「ゼロで割」ってない正真正銘の1=2 を証明してしまい、病んでいってしまうとこです。
なんでそんなことで病むのか?
これがテッド・チャンが描きたかったところだと思います。1=2なら1=3にも1=1000にもできるのですが、これは単に「数学」っていう一部の学問の革命って話じゃなくて、数の崩壊、社会の崩壊、世界の崩壊なんです。1億円と1円が同じ。1分と1日が同じ。そうやって世界が無価値になってしまった。
わかんなかくても、とりあえず、まわりの人達の心無い「どうせゼロで割ってる」的な空気とか感じてください。他の作品よりかなり数学寄りの話ではあるんですけど、数学と世界が密接に関係しているということを、垣間見させてくれます。
あなたの人生の物語
あらすじ
異星人「ヘプタポッド」と言語学者である主人公が、異星の言語を学んで、コミュニケーションを試みる。ヘプタポッドの言語の解析をすすめるにつれて、主人公の認識にも変化が。
見どころ
異言語を明らかにしていく過程
最初、簡単な単語の組み合わせだったものが、段々と複雑な組み合わせになっていき、ジグソーパズルの全体像が見えてくるようにお互いが結びついていく、あの感じ。楽しい。
新しい時間物のSF
これがねえ傑作よ。
作者の広い知識と、それを横断して物語を形作る能力に驚嘆しますわ!
言語が文化背景を通して時間の物理学につながっていくんですが、それがすごい。
ざっくりいえば、言語の背景に異星人達ならではの文化があって、文化はその背景に、世界の認知があって、世界の認知ってのは今の物理学の大きなテーマなんです。そこから「時間」の扉が開くんですけど、それが全然、荒唐無稽じゃないんですよ。
映画「メッセージ」視聴済みならさらに深く楽しめるでしょう。
特に、映画より「言語」・「時間」の話が厚みがあります。
次回後編もお楽しみに!
これが本当のSFってもんだぜ!