世界の創生と最後の審判
世界の始まりには何があった?
「旧約聖書の創世記では、神が7日間で世界を作った様子が描かれてますが、ゾロアスター教にも創生の物語はあるんでしょうか?」
「ありますよ。最初に対立する2つの神がいて、世界の二大原理のうち“善”をアフラ・マズダーが、“悪”をアンラ・マンユが選択したそうです。アフラ・マズダーは光や善、生の世界を創造し、原人ガヨー・マルタンや原始牛なども創り出します。ちなみに原人の体は金属で作られていたそうです」
「ターミネーターのT-1000じゃん」
「善の神が世界を創造した一方で、悪の神アンラ・マンユは死や病気といった災難を創造し、世界を滅ぼそうとしました。原人ガヨー・マルタンも死んでしまいますが、最期の瞬間、原人の体から精液が放たれて木にかかり、そこから人類の祖先となる男女が生まれたそうです」
「人間って植物由来だったんですね……」
「さらに闇の神は、世界を破壊すべく暗黒竜アジ・ダハーカを生み出しました。アジ・ダハーカは3つの頭を持ち、蛇のような姿だったと言われていますね」
「ラノベみたいでかっこいい! それを統べるアンラ・マンユはものすごく恐ろしい存在なわけですね」
「そうですね、この世すべての悪の根源ですから。現世においてはヘビやカエル、亀といった爬虫類の姿で現れるとされてまして……今はしませんが、昔のゾロアスター教ではそれらの生き物を殺せば殺すほど徳になるという風習がありました」
「ゾロアスター教徒が『ガメラ』を見たら大騒ぎになりそう」
「終末論」世界の終わりはこうなる!
インド、ムンバイのジョキー・アギアリ寺院
「逆に世界の終わりはどうなると言われてるんですか? 聖書には黙示録の戦争があると書かれてますが」
「終末とか最後の審判というのは、そもそもゾロアスター教の影響で他の宗教に派生したと言われてます」
「おお、“終末といえばゾロアスター教”って感じなんですね! 詳しく教えてください!」
「終末を語る前に、まずは歴史観のお話をしますね。ゾロアスター教では、宇宙の始まりから終わりまでの期間は1万2千年とされ、3千年ごとに4つに分けられます。随分短い時間に感じますが、今とは数字の感覚が違うので、日本で言う“八百”のように“たくさん”という意味でしょうね」
「あぁ、八百屋とか八百比丘尼とか、“たくさん”って意味ですもんね」
「ちなみに、3千年ごとにこういう感じで分かれてます」
0年~3000年
霊的な創造の期間。物質としての世界は存在していません
3000年~6000年物質的な創造の期間。霊的な存在だった世界が、目に見え、触ることのできる物質的なものへと移行します。
6000年~9000年アンラ・マンユが侵攻を始め、世界が善と悪の闘争の場となった期間。死と滅亡が生じました。
9000年~12000年この3千年に現代が含まれます。預言者ゾロアスターが生まれることから始まり、最後の審判で終わります。
「ゾロアスターが出現したのは、宇宙の全歴史のうち、4分の3が過ぎ去ったあとなんですね! で、1万2千年目に最後の審判があると」
「最後の審判によって、善と悪は完全に分離されます。そして生者も死者も改めて選別され、善なる新世界で最後の救世主によって永遠の生命をあたえられます」
「“最後の救世主”ということは、他にも救世主はいるんですか?」
「千年ごとに3人が出現する予定ですね。預言者ゾロアスターが湖のほとりで妻に3度近づき、その度に精液をこぼしたそうで、それをアフラ・マズダーの使者が水の女神に託して保存しました。その湖で水浴びした乙女は子を身ごもり、その子が救世主になるんだとか」
「精液が好きな宗教ですね……。ていうか妻に3度近づいて、その度に精液をこぼすってどういうやり方してたんでしょうか」
「それは伝承に残ってません」
ゾロアスター教の変わった風習
親や兄弟姉妹と交わるのは善行だった?
ゾロアスター教の聖典
「キリスト教でいう、『聖書』にあたるようなものってありますか?」
「『アヴェスター』という聖典があります。ゾロアスターは思想を文字に残さなかったので、長らく口伝によってのみ語り継がれ、かなり後になってから本になりました。が、教徒たちが信仰の自由を求めて旅した時に散逸しまして、現存するのは4分の1ほどと言われてます」
「信仰の自由……?」
「一時は隆盛を誇ったんですが、イランに他の宗教が入り込んできてからは少数派になってしまい、新天地を求めて旅をしたんですね。脱出する際には様々な奇跡が起きたそうですよ。岩場に追い詰められて絶体絶命というピンチに、神に祈ると岩の壁が開き、その中に逃げ込んで難を逃れたとか」
「少数派か~……。もっと強引な勧誘をして数を増やすという考えはなかったんですか?」
「勧誘は、しないんです。そもそも外部の人間がゾロアスターに改宗することは、基本的には認められてません。例えばゾロアスター教徒ではない女性と結婚した場合、妻は(改宗できないから)ゾロアスター教には入れず、子供は(まだ宗教をもってないから)教徒になれます」
「じゃあ減り続ける一方じゃないんですか?」
「ゾロアスター教徒同士で結婚して子を増やすというのが一般的ですね。ちなみに昔は自分の親、子、兄弟姉妹と交わる最近親婚を最大の善徳としていました。ただこれは昔のことなので実際どうだったかは不明です。財産が散在するのを防ぐためだったんじゃないかという説もあります」
「性に関する概念って時代とか環境で簡単に変わりますから、時と場合によっては僕もオカンと…………いや、やっぱ無理だわ」
世界を楽しめ!大らか過ぎる戒律
「宗教によっては結婚してはいけないという場合もありますけど、ゾロアスター教にはそういう戒律は……」
「ないです。むしろ結婚は善行とされてるんで、聖職者は結婚しなきゃいけないんです。命は善の神が持ってくるものであり、子が増えるということは善の戦士が増えること、という考え方なんですね」
「なんかすごいユルユルの宗教ですね。牛肉を食べちゃだめとか、お酒はだめとか、そういうのは?」
「肉もお酒も大丈夫です。そもそも基本的な考え方として、『善なる神が創造したこの世界を楽しみなさい』というのがあるんです。世界=善なので、世界に触れることは良いことだとされてます。私がゾロアスター教に魅力を感じて研究してるのも、そんな大らかな考え方の宗教って素敵だな、と思ったからなんです」
「なるほど! 確かに堅苦しい宗教じゃなさそうで、ますます興味がわいてきました! 今日は楽しいお話をありがとうございました!」
「はい、ありがとうございました」
取材を終えて
結婚を推奨し、肉もお酒も大丈夫、さぁ世界を楽しみなさいという、大らかな考え方はすごく良いなぁと思ってしまいました。僕自身は何の宗教にも属していないので、「宗教=禁欲的で戒律が厳しい」というイメージでしたが、こういう教義のものもあるんですね。
そして中二病を患っている僕としては、創生の物語や終末論には完全にドキドキが止まりませんでした。僕は最後の審判で天国に行きたいので、今から善行(売れてないアニメのDVDを買うなど)を重ねたいと思います! ではさようなら~!
おわり