―光の神と闇の神との戦いによって終末が訪れ、最後の審判が行われる。世界は更新され、完全なる幸福の時代がやって来るだろう―
こんにちは、ライターのギャラクシーです。大作ダークファンタジーのプロローグみたいな始まり方で申し訳ありません。
みなさんはゾロアスター教という宗教をご存知でしょうか。歴史の授業で習っているはずなんですが、ほとんどの人が
・遺体を鳥に食べさせる『鳥葬』を行う。
・光の神と闇の神が戦ってるらしい。
くらいしか憶えていないのではないでしょうか。
そこで今回は、ゾロアスター教について学ぶべく、研究者である香月法子さんにお話を伺ってみました。
香月法子
ゾロアスター教について、各地で定期的に講座やセミナー、勉強会を開いている『マズダ・ヤスナの会』を運営。
Twitter=@MazdayasnaM
ゾロアスター教ってどういう宗教なの?
鳥葬をやらなくなった理由は「都会になったから」
「はじめまして! 今日はゾロアスター教についてお聞きしたいんですが……まず最初に、鳥に遺体を食べさせる『鳥葬』ってほんとにやってるんですか?」
「最初の質問がそれ!? まあ、歴史の教科書に載ってる中では、もっとも目を引く項目ではありますが……。結論から言うと、最近はあまりやらないようですね」
「あ、そうなんですか」
「まず、なぜ『鳥葬』をするのかというと、遺体は最も汚れた存在とされているため、遺体によって神の創造した火、土、水を汚さないように、ですね。限られた空間で行われるもので、『ダフマ』(一般には沈黙の塔と呼ばれる施設)で行われたりもします」
※沈黙の塔という呼び名は、鳥葬の習慣を聞いたイギリス人記者が名付けたものであり、正式なものではない
「最近になってその風習がなくなってきたのは、どんな理由なんでしょう?」
「現在ゾロアスター教徒が多いのはインドなんですが、都会になってきたからですね」
「へ? 都会になるとなぜやめるんですか?」
「まず鳥が少ないですよね。そして建物が高くなってきたから、上から中身が見えちゃうんです。といって鳥を入れる必要があるから施設の屋根を塞ぐわけにもいきません」
「あぁ~。せっかく買ったマンションのベランダからその光景が見えると、鳥葬という文化を知らない人はショックかもしれませんね。そもそも見せ物じゃないんだから、遺族の方もイヤでしょうし」
「あと、鳥はついばんだものを袋に入れて持ち帰るわけじゃないんで、施設の周辺にまあまあ落としていくんですよね。ポタポタと」
「なるほど。最近になってやらなくなった理由はよくわかりました」
教義や、善悪二元論という考え方
「鳥葬の話には満足できたので、ここからはゾロアスター教の起源や教義について教えて頂きたいと思います」
「順番逆じゃないですか?」
「ゾロアスター教というのは、そもそもどういう宗教なんでしょうか」
「紀元前6世紀頃(諸説あります)の人物である、預言者ゾロアスターの思想を中心に興された宗教ですね。源流となったのはペルシャ……現在のイラン周辺の古代宗教といわれています」
「ゾロアスターっていう人が作ったからゾロアスター教なんですね! キリストが作ったキリスト教みたいな?」
「“キリスト”は救世主という意味であって人名ではないですけどね。そしてゾロアスターはキリストよりかなり前の人物です。『ザラスシュトラ』とか、ドイツ語読みだと『ツァラトゥストラ』とも呼ばれます。ニーチェの本でも主人公に名前が使われてるでしょ?」
ニーチェが主人公の名をツァラトゥストラにした理由
「善悪二元論を唱えたゾロアスターは、道徳についての経験を最も積んだ者であり、真理への誠実さを持っているはず」とニーチェは考えていた
「ゾロアスターさんは、神様の子とかそういう特別な存在なんですか?」
「いえ、ゾロアスターは普通に人の子です。古代宗教の神官の家に生まれて、戦争で死にました。特別というと……通常、赤ん坊は泣きながら生まれてきますが、ゾロアスターは将来的に悪が滅び、善が勝つのを確信していたので、笑いながら生まれてきた、というエピソードがありますね」
「『へっへへへ……』って笑いながら出てこられたらちょっと怖い気もしますが、なるほど、開祖であるゾロアスターのことはわかりました。宗教的な特徴などはありますか?」
「平たく言うと、“光であり善の神アフラ・マズダーと、闇であり悪の神アンラ・マンユの抗争の場が、この世界である”という、善悪二元論が最大の特徴でしょう」
ゾロアスター教の守護霊「フラワシ」
「善と悪が戦い続けてるんですか? 今も?」
「物事にはすべて善悪の二面があります。あらゆるものの良い部分……光や善、生をアフラ・マズダーが創造し、逆にあらゆるものの悪い部分……闇や悪、死をアンラ・マンユが創造していて、それらは常に抗争を続けています」
「あ~、例えば光の神のおかげで人が生まれて、闇の神のせいで死ぬ、その繰り返しで世界が構築されているというわけですね。なるほど。ゾロアスター教では、そんな世界をどう生きるべきと説いてるんでしょうか」
「三徳と呼ばれるものの実践を求められます。『善なることを思い』『善なることを語り』『善なる行いを成す』というものですね。それを実践したかどうかで、天国へいくのか地獄へ行くのかが決定します。この考えは他の宗教……ユダヤ教やキリスト教、イスラムなどに大きな影響を残しました」
「まあまあすごい宗教だったんですね。そりゃ授業で習うわ……。もう手遅れかもしれませんが、これからは善行を積みたいと思います」