「生卵をすするシーンがある映画に駄作なし」という言葉をご存知でしょうか? 今、この瞬間に僕が勝手に作った言葉なので、知らない人が大半かもしれません。しかし生卵をすするシーンというのは実に良いものです。「生命」の込められた栄養豊富なジュルリとした液体が登場人物の口にひゅっと吸い込まれていく時、何とも言えないぞわっとした感慨がそこにはあるのです。

 

一口に「生卵を飲む」と言っても、映画によってその飲み方や状況は千差万別です。本日は見てるだけで月曜を乗り切るファイトが湧いてくるような、そんな生卵映画をご紹介いたします。

 

 

 

 

 

 

冷蔵庫から取り出した卵を片手で割り…

 

 

 

4つまとめてぐっ。

 

 

 

 

まぁぁぁ。「イタリアの種馬」にふさわしい豪快な飲みっぷり。口元から垂れる黄金の軌跡も美しいです。さすが名作の貫禄。このシーンに触発されて生卵を大量に飲み、お腹を壊した人が当時はたくさんいたと聞きます。

 

ちなみに16年ぶりにカムバックした2006年の「ロッキー・ザ・ファイナル」でも、生卵一気飲みは行われていました。やはりロッキーと生卵は切っても切り離せない関係と言えますね。

 

 

 

歴史的名作「ロッキー」以降、「精力をつける」という演出で生卵を一気飲みする手法が一般化されましたが、近年の日本映画にもそんなロッキーインスパイアの精神は引き継がれています。邦画のアクションシリーズ物としては、興行的にも評論的にも大成功と言っていい「探偵はBARにいる」の最新作、「探偵はBARにいる2 ~ススキノ大交差点~」でも生卵はグイグイ飲まれていました。

 

この作品の序盤では、大泉洋と麻美ゆまが何の説明もなくいきなり愛人関係になるという素晴らしく即物的なシーンがあるのですが、2人が爛れたセックスに溺れる中で、大量の生卵が登場します。

 

 

 

これ。一体何個あるんでしょうか。10個以上はありそうですね。ロッキーですら4個だったので、元祖の生卵レコードを大幅に更新する大記録です。

 

ただ惜しむらくは、3呼吸ほど飲んだ辺りでシーンがカットされていて、恐らく大泉洋はこれを全て飲み干してはいないであろうということ。この量の生卵を一気飲みするのがハイリスクであることは言うまでもありませんが、生卵飲みファンとしては、形だけでも本邦からの「ロッキー越え」を観たかったものであります。次回作に期待してます!

 

 

 

再び邦画から。印象的な生卵飲みシーンではこちらも有名作、伊丹十三監督の「タンポポ」です。見るとめちゃくちゃ醤油ラーメンが食べたくなる映画ですが、生卵も実に印象的なアイテムとして登場しています。「ロッキー」や「探偵はBARにいる」では、みなぎる男の精力を表していた生卵ですが、ここでは男と女が互いに与え合う快楽の象徴としての生卵の姿を見ることができます。そう、生卵を使ったラブシーンです。

 

 

 

ぬろん

 

 

 

もろん

 

求め合う男女の間を、寄せては返す快楽の波のように行きつ戻りつする生卵。おぞましくもエロティックな光景です。

 

 

 

結局三往復した後に、口元からだぁ。卵黄が弾けると同時に、「たまらん」といった様子で快楽に打ち震える女。ビクンビクン。子供の頃にこの映画を始めて観た時には、「変わったことを考える人がいるなぁ」と思ったものです。

 

「タンポポ」では他にも、乳首に塩とレモンを振ったり、へその上で活きエビを紹興酒に漬けてピチピチ跳ねさせたりといった創意工夫の凝らされたシーンがありますので、最近夜の生活にアミューズメント性が無いとお困りの方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

エロスと言えばこちらの作品からも。この映画は、世を憂い尼ヶ崎のドヤ街に流れ着いた若者が、臓物焼き鳥屋に住み込みで働き出し、ボロアパートで毎日臓物を串に刺す仕込みをするという実に陰々滅々とした作品なのですが、性と破滅、出口のない絶望と暴力の気配が怪しげに交錯する独特の雰囲気を持った良作です。インテリの堕落を描いた作品という意味では、近年の「苦役列車」にも通じる世界観ですね。

 

主人公が住む尼ヶ崎のボロアパートの住人たちは、全員一癖も二癖もある奇人たちですが、中でも重要な役割を果たすのがコワモテの彫物師を演じる内田裕也、そしてその愛人の寺島しのぶです。主人公は寺島しのぶに惚れてしまい、「この世の外へ連れてって」と言う彼女の言葉に翻弄されていくのですが、この「ドヤ街で泥水すすって暮らす」女のパーソナリティを表現するアイテムとして生卵が登場します。

 

 

 

寺島しのぶとの食事シーンに降臨する生卵。これは主人公が残した卵をとりあげて、寺島しのぶが食べてしまうシーンなので、卵かけご飯と生卵が「ダブル」状態となっています。

 

生卵好きにはこれぞ夢の共演ですね。これ、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが初共演した「ヒート」みたいなもんじゃないですか?

 

 

デ・ニーロこと生卵を豪快にグイっと飲み干し、

 

 

 

この表情。イイですね。この映画の寺島しのぶは別段美人というわけではないのですが、リアルな艶かしさが大変グッときます。

 

ちなみにこの映画で共演している大西滝次郎(現在は大西信満に改名)と寺島しのぶは、江戸川乱歩の「芋虫」を映画化した2010年の「キャタピラー」でも共演し、今度は寺島しのぶが男の顔に生卵を塗りたくる というシーンを演じています。

 

「ロッキー」と同様、一度生卵に魅入られたものはそこから抜け出すことはできないのかもしれません。

 

 

 

卵を飲み干した後の器には真っ赤な紅が。

 

この映画、冒頭で主人公がボロアパートに始めて来るシーンにも生卵をすするババアが登場しており、「下品で生命力の強い女は卵をすするんじゃい!」という作り手の主張がビンビンに伝わってきます。

 

卵とは関係ありませんが、この映画には「内田裕也が花札を手裏剣のように投げてニワトリを殺す」という「嫌すぎるゼルダの伝説」みたいな味わい深いシーンもあり、個人的には大変好きな作品です。

 

 

 

 

バーテンダーという職業の存在を世の中に知らしめたトム・クルーズの青春映画「カクテル」も立派な生卵映画です。学歴社会に挫折を感じ、「とりあえずバイトせな」というきっかけでバーテンダーの道を歩み始めるトム・クルーズ。そのバイト先の店長が、「バーテンダーの朝飯はこれじゃなきゃ始まんねーよ」と差し出すのが、「レッドアイの生卵入り」です。

 

 

 

レッドアイとは、ビールをトマトジュースで割ったカクテル。そこに様々なスパイスを入れ、生卵を一つトポンと落として迎え酒ってことらしいんですが、こんなもの飲んだら逆に気持ち悪くなりそうな気がしてなりません。

 

 

 

冒頭で「生卵をすする映画に駄作なし」と言いましたが、「カクテル」は中身すっからかんのジコチュー野郎映画で、正直あまり面白くありません(トム・クルーズも後に出演したことを後悔したらしい)。ただバーテンダーと生卵の地位向上には一役買った映画だと思いますので、生卵市場への影響を鑑みて選出させていただきました(最早何が目的なのか分からなくなってる)。

 

 

 

「二日酔いには生卵が効く」という逸話を広めた存在としてもう一本、職人的な仕事で知られる硬派な社会派監督シドニー・ルメットの名作「評決」です。おちぶれたアル中の弁護士の心に徐々に正義の炎が灯っていくハードボイルドな作品。「ハードボイルドじゃ固茹で卵になっちまうだろが!」と思いきや、しっかりと生卵が登場します。

 

「評決のとき」「評決の行方」という紛らわしいタイトルもありますが、何もつかない「評決」ですのでご注意ください。この作品でアル中の弁護士を演じるポール・ニューマンが、酔いざましにと手を出すのが「生卵水」です。

 

 

 

 

バーのカウンターで水?の入ったグラスに生卵を割り入れるポール・ニューマン(水だという確信はありませんが、多分水だと思います)。ここまでご覧になっていただいた方にはすでに馴染みの光景ですね。さぁくるよ~、きちゃうよ~。

 

 

 

はい、生卵飲みいただきました!

 

しかし「ポール・ニューマン+卵」の組み合わせと言えば、映画好きな方はもう一つ思い出す作品があるかもしれません。永遠の反骨精神映画、「暴力脱獄」です。

 

 

 

暴力脱獄と言うほどバイオレンスな内容ではないので、原題の「クール・ハンド・ルーク」の方がしっくりくる映画ですが、この作品の中でポール・ニューマンは刑務所仲間に「俺は卵を50個食える」といきなり言い出します。

 

 

 

 

「俺、卵50個いけちゃうけどどうする? できるかできないか、どっちに賭ける?」。生来の反骨精神がくすぶり、いきなりとんでもないことを言い出してしまうポール・ニューマン。

 

 

 

「こいつ何言ってんだ?」と呆れる仲間たち。

 

卵50個! 実にとんでもない数字です。これを全て生のまま飲んでたら歴史に残る「生卵映画」となれたのですが…残念ながらポール・ニューマンが出した条件は「15分間茹でた卵50個を、1時間で食べる」というものでした。あちゃ~! 茹でちゃったよ!

 

 

茹で卵50個を飲み干すために腹の皮を伸ばすポール・ニューマン。それができたから何なんだよ。でもそんな馬鹿げたことに命(タマ)張っちゃうのが男って生き物なんですよね…。勝負のシーンでは「殻をむく時間を含めて1時間なのか、それ含めない1時間なのか」みたいなディティールまでしっかり討論されます。こまけぇ!

 

卵を茹でてしまったがために「生卵映画傑作選」からは漏れてしまった「暴力脱獄」ですが、こちらも大変素晴らしい映画ですので、未見の方は是非。ポール・ニューマンが卵50個を食べたのか食べれなかったのかは、実際の目でお確かめください。

 

 

 

ここまでお付き合いいただきました「生卵すすり映画7選」、最後の一つは「一命」です。最近の映画なので、ご覧になった方も多いかもしれません。三池崇史監督による、1962年の名作時代劇映画「切腹」のリメイク作品です。「十三人の刺客」に続き良いリメイクだったと思いますので、三池崇史監督には名作時代劇をバンバンリメイクしてもらいたいと思います。

 

この映画の生卵すすりシーンはちょっとショッキングで、瑛太演じる貧しい侍が病気の妻に滋養をつけようと、大切な蔵書を売り払ったわずかな金で薬と卵を買うのですが、その貴重な卵を何と子供がぶつかってきて割ってしまいます

 

 

なけなしの金で買った卵を子供に破壊される瞬間。バカヤロー! 歩きスマホの時代でもないのによそ見すんじゃねぇ!

 

 

 

ああ~~~なんてこった…。生卵ファンとして大変心の痛む光景です。子供はさっさと逃げちゃうし、これどうするよ!

 

 

え…? まさか…………

 

 

 

うわぁ~~~~~~!!! いった~~~~~~!!!!!! 生卵映画史に残る超大技「生卵オン・ザ・アース」誕生の瞬間です。人としての誇りより、明日を生きて妻と子供を救うことを第一に考えた男の胸を打つ行動です。

 

しかし生卵はただでさえサルモネラ菌が繁殖しやすい食品ですので、こうして地面に落ちた卵を食べるのはかなり危険を伴う行動です。「こうでもして栄養を補給しないとマジやばい」という「一命」のような状況下でない限りは、地面に落ちた生卵をすするのは絶対に止めましょう。

 

瑛太演じる侍は、このあと妻子を救うためにめちゃくちゃお腹が痛くなる行動をとりますが、そうでなくとも食中毒で早晩お腹が痛くなっていたかもしれません。

 

 

さて、「卵すすり映画傑作選」、あなたは何本ご覧になっていたでしょうか? 他にも生卵を酒のアテにする山田洋次監督の「下町の太陽」や、かんざしで卵の殻に穴を開けるシーンが印象的な「紀ノ川」など、卵すすり映画はまだまだ存在します。

 

「だからなんだよ」って話ではありますが、卵に含まれる栄養素を熱で壊さずに摂取できる「生卵すすり」は、健康的にももっと奨励されるべきだし、それ以上に何とも言えぬ色気のある行動だと僕は思うのです。なのでこうして映画で生卵をすすってる場面に出くわすと、「おっ、いいな~。俺も精のつくもの食べて明日も頑張ろう!」と思うんですよね。「あの人精気がないな」と思ったら、まずは卵すすり映画を見せて卵をすすりたくさせればいいじゃん! そうすればいいじゃん!

 

何を言ってるのかよくわからなくなってきましたが、とりあえず卵をすするシーンのある映画を見かけたらオモコロ編集部までご一報ください。ありがとうございました。