中学生の頃、私はヘタリアが大好きだった。ヘタリアとは国々を擬人化したコメディ漫画であり、アニメ化や舞台化もされた作品である。何もない田舎だが家族で共用のパソコンで必死に、キタユメという作者が運営しているホームページで情報を集め、グッズはAmazonで買い集めた。

クラスの友達には同じようにヘタリアが好きな子が数人おり、とても楽しく過ごしていた。部活は三年間バレー部に所属しており、その中には同じ趣味の子はいない事には少しの息苦しさを感じていた

バレー部の掟として髪はショートカットであった。理由としては集中して取り組むためらしいが髪を切ったからと言って上手くなるわけではないので、禊のようなものなのだろうか。

毎回美容院では首の半分より上の長さでお願いしますとしか言えず必然的に男子と同じようなヘアースタイルになるのである。普段はみんなジャージなので尚更男子である。

 

その中でも私は何か人と違うオシャレがしてみたかった。こんな髪型じゃポニーテールもツインテールもできないが、この頭でも何かないかなと思ったとき彼のことがよぎった。

 

日本である。

それは、ヘタリアのキャラクター。擬似化されたほうの日本である。このキャラクターの髪は普通のショートカットだがフェイスライン両サイドの毛が短めの姫カット(毛先が揃えてぱっつんになっている)なのだ。これはいい。

私もこんな髪型になりたい。田舎の中学でダサいジャージで全校生徒500人ほどのぎゅうぎゅうの無個性な空間で少しでも自分らしさを出せるのではないか!?と期待に胸を膨らませた。

短い私の髪でも両サイドの毛を揃えるだけだし自分で出来そうだ。行きつけのおばさんの美容院に行って「日本にしてください!」なんて言えるわけがないし。早速洗面台にハサミを持って走っていった。

 

ジョキジョキと髪を切るたびに、これ大丈夫か!?と不安が募ったが日本のキャラソンを歌う事で乗り切った。
完成した髪の毛を眺めた。

完璧だ。完璧に日本だ。

自分の中で初めての感情、好きなキャラになりきるという快感を得た。

 

この頭で登校しようとすると親に声をかけられた。

「なにこの髪の毛!?自分でやったの!?変なの!帰ったら美容院行って整えて貰いなさい」

 

日本なんだよ…これは日本なんだよ

という気持ちを堪え、これでいいの!と叫び学校へ向かった。

友達に言ってもらえるだろうか。この髪の毛日本みたいだねって…という期待にワクワクした。

しかし、何も言われずしかし自分から言うのも恥ずかしく、淡々と時は過ぎた。

 

おかしいなと思いながら部活動をしていると、顧問の先生に声をかけられた。

しまった!過剰なオシャレに怒られるのか!と不安になった。

「短くて可愛い髪の毛だね。でもちょっとガタガタだからオシャレに揃えて貰えば?」と笑いながら言われた。

オシャレが禁止な部活動でオシャレを勧められた。これ…変な頭だったのか…だから友達も気を使って何も言わなかったのか…その事実に愕然となった。

それから私は美容院で整えてもらった。

すると以前より髪は短くなり、何か人と違うものが欲しいと言う気持ちはドバドバと頭から溢れ出しそうになった。

 

 

 

 

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