上京するまで北海道にそいつはいなかったので、初めて対面するときは自分のパーソナルスペースをそいつに汚された不快感と、あまりの早さに驚きを隠せなかった。
数年前まで、シェアハウスで古めの一軒家に五人の女性と住んでいた。
こう文字にするとハーレム漫画みたいだが、私も女である。
漫画家志望の人たちで集まっており、和気あいあいと楽しく暮らしいてた。
ボロくても笑いあえる仲間がいれば、何も不満はなかった。
あいつと出会うまでは。
その日は夏真っ盛りで、私は近所のお祭りで焼きそばを売るバイトをしていた。
知らない土地に越してきたが、地域の人たちと触れ合うのはとても心が温かくなった。
帰宅して、自室で鼻歌を歌いながら焼きそばを食べていると颯爽とあいつは現れた。
脳が理解するより先にあいつは部屋の隅を走り回り、私を翻弄した。
しかし、殺さねばという強い意志が脳から体を支配するのにあまり時間はかからなかった。
この部屋でこいつを殺せる道具はどこだ。殺虫剤や洗剤はキッチンの共有のスペースにしかなかった。
何かを叩きつけ圧死させることを考えたが、足で潰す度胸はないしあいつが潰れるとよけい処理が大変だし不快だ。
この思考回路の末行き着いた答えは
リンスをかけた。
効かなかった。
ちょっといい香りが部屋中を漂い、心なしか身体がツヤツヤになっていた。
仕方なくキッチンから殺虫剤を取りに行き、殺すことが出来た。
わかったことは、あいつはどこにでもいるし
どんな時でも飛び出してくる可能性があるということ。
そして、リンスでは死なないことである。