コミュニケーションは難しい。ほんの少しのズレで不快に思われ、嫌われることもある。

私はそれを間違え、めちゃくちゃ怒られたことが沢山ある。

 

私は居酒屋でバイトしている。

そこには毎週やってくる常連さんが沢山おり、皆さん気さくでいい人で、働きながらもお話しするのが楽しみの1つである。

 

しかし、今は労働中。この会話も接客なのだ。

私の悪い癖として、どんな時もウケたい、面白いことを言いたいという欲に溢れている。

そのせいで、「は?」と言われることもしばしば。しかしやめないのである。

 

よく来る常連さんの1人の方がいらっしゃった。その人は丸い頭をしていた。

私はその佇まいを褒めようとし、口を開いた。

 

「正岡子規みたいですね!」

 

しばしの沈黙が続いた。

あれ…何か間違えか…?

 

「なに言ってんだお前!」

マスターの怒声が響いた。

やばい…かなりやばいことをした…という事実に直面しその発言をする前にタイムリープしたくなった。

 

「なんだ正岡子規って!

それってよ…それって…

ハゲてるってことじゃねぇか!!!!!!」

 

一際大きな怒鳴り声だった。

 

ハゲという言葉が店中に響いた。一番の核心の部分である。

 

私は、正岡子規みたいという言葉は褒め言葉だと思っていた。偉大な俳人であり教科書に載ってるし…。

しかし、正岡子規のチャームポイントはツルツルの頭なのである。

どんなに偉い人でもハゲはハゲなのだ。

私の軽はずみな発言で常連さんを傷つけ、マスターからの信頼を失った罪は大きい。それを機に私は言葉に気をつけることを徹底し、ウケようという気持ちは抑えることにした。

 

あの怒声がまだ、私の頭の中に響いている。

 

 

 

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