救急車で運ばれたことが2回ある。

 

1回目。はじめて救急車に乗ることになるその日は、家族や友だちと川にバーベキューをしに来ていた。やんちゃな小3男子だった僕は、バーベキューそっちのけで河原を駆け回っていたところ、釣り針が落ちているのを発見した。

 

拾い上げると、糸がつながっていた。

 

やんちゃなので、糸を振り回さずにはいられない。針が風を切り、ヒュンヒュン鳴るほど高速で回した。これは気分がいい。悦に入っていたのも束の間、急に音が止んだ。「なんで?」と思ったら、右の人差し指に釣り針が刺さっていた。

 

抜こうと思って引っ張る。しかしビクともしない。釣り針は簡単に抜けないようにフック状に作られている。すぐ抜けるようでは魚に逃げられてしまうからだ。誰なのだ、こんな厄介な針を発明したのは。

 

「た、助けて……!」

 

親の元に走る僕。親や友だちも僕と同様に釣り針を引っ張って抜こうとするのだが、引っ張れば引っ張るほど逆に先端が食い込んで痛い。ほんとに誰なのだ、こんな厄介な針を発明したのは。

 

何をどうやっても抜けないので、親は公衆電話まで走り、救急車を呼んだ。

 

救急車の中で、僕は付き添いの母に「おれ、死ぬのかな?」と聞いた。「死ぬわけねーだろ」と一笑に付された。別に冗談で聞いたわけではなく、救急車で運ばれている現状の「ただ事ではなさ」が、小3男子に「死」を想像させたのだ。

 

病院に着いたら先生が一瞬で針を抜いてくれた。本当に全然死ななかった。

 

 

2回目の救急車は、それからほんの数年後。まだやんちゃな小学生をしていた僕の家に、親戚が遊びに来ていた時のことだ。

 

親戚に自分のかっこいいところを見せたかったのだろう、僕はソファの上で、でんぐり返しをしていた。

 

何度も何度も転がっているうちにバランスを崩し、ソファの横のテーブルに置いてあったコップのふちに、かかと落としをするような格好で激しく転倒してしまった。

 

コップの割れる音がして、驚く家族と親戚。その数秒後、親戚が叫び出す。

 

「いっちゃん、すごい血が出てる!!!!!」

 

かかとがパックリ割れて、めちゃくちゃ血が出ていた。いっちゃんこと僕は青ざめ、母はすぐに救急車を呼んだ。友だちとバーベキューに行って釣り針が刺さったり、親戚といるときにかかとが割れたり、いっちゃんはいつでもゲストへのサプライズを怠らない。

 

救急車が到着し、母と一緒に乗り込んだ。親父は救急車のうしろを車でピッタリマークして、片時も離れず必死で追いかけてくれた。

 

病院に着き、手術が終わった。「危なかったですね。あと数センチずれていたら、アキレス腱を損傷する大怪我でしたよ」と先生に言われた。5針縫ってもらっただけで、すぐ家に帰れたのは不幸中の幸いだった。

 

その後日、親父は警察に呼び出された。救急車と同じ数だけ信号無視していたからだ。

 

 

 

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