コンビニのレジ係が外国人で、そのうえ「トレーニング中」の札がついていたりすると、だいぶ日本語がおぼつかないときがある。しかしやりとりで困ることはほぼない。
「ティーカドゥアムチデスカ?」
「あ、大丈夫です」
「サービャクゥーニエンデス。フーロァケマッカ?」
「お願いします」
「マタコシァセー」
発音は不明瞭でも、これまでの経験と文脈から「Tカードはお持ちですか?」「392円です。袋お分けしますか?」「またお越しくださいませ」と言っていることはわかる。しかるべきタイミングでそれっぽい音さえ発していればコミュニケーションはなんとかなるものである。
先日、外に打ち合わせに出かけた。
「いってきます」
会社に残る者たちは、パソコンから目を離さず言葉をかけてきた。
「…サス」
「…チェイース」
「……シャス」
「チャッッポンチ!!」
歯切れの悪い言葉がポツポツと上がる。ふと思った。
そもそも、彼らは何と言おうとしているんだ?
「マタコシァセー」は、言葉としては崩れているものの、「またお越しくださいませ」がベースにあることがわかる。しかし「いってきます」に対する返事のベースはわからない。
ふつうに考えれば、「いってきます」には「いってらっしゃい」である。しかし我々は大人だ。「いってらっしゃい」は家族っぽすぎやしないか。「お気をつけて」だろうか? 今度は距離感がすごい。侍を見送る茶屋の娘、くらいの距離になってしまっている。
考えていても仕方がないので、同僚に訊いた。
まず、ARuFaという同僚に
「さっき出ていったとき『サス』って言ったように聞こえたんですが、なんて言おうとしてたんですか?」
と訊ねてみた。
「『サス』って言った」
サスだった。サスのつもりでサスと言ってた。ちなみに「意味はない」とのこと。
続いて「チェイース」と聞こえた同僚の山口に同じことを訊いてみると
「『チェイース』って言った」
チェイースだった。なんなんだ。みんな意味ない言葉をそのまんま言ってるのか。
次に、「シャス」と言っていたマンスーンという男に訊ねると
「『シャラス』って言った」
シャスだがシャラスのつもりではあった。どっちにしろ意味ない。
最後に「チャッッポンチ!!」としか聞こえない発音をしていた永田という男に真意を訊く。個人的にはこれが一番気になる。
「そのとき思いついた言葉を叫んでる」
そんなのありかよ。どうりで毎回違う気がしてたし、先週は「ハマチャン!」だったわけだ。なんでそんなことするんだ。
「ストレス解消になる」
みんなも「いってきます」にはデタラメに答えて、ストレスを解消しよう。