機械とのコミュニケーションが好きだ。
口から発される全ての「またお越しくださいませ」のうち、何パーセントが本心からの「またお越しくださいませ」なんだろうとよく思う。
1%にも満たない気がする。
コンビニやファミレスの店員が言う「またお越しくださいませ~」って、ほぼ意味を持たない呪文だ。「また来てくれよな!」という思いは別にこもっていない、ただの音。発音も「またお越しくださいませ」というよりは「マァゥッシァッャッセ」だし。
「客を見送るとき一定の音を出せ」という規則に従ってるだけなら、言うのは「腐れピエロの脱腸天国」でもいい。ファミマでカレーパン買ったときにそれ言われても、たぶんその場では気づかない。店を出て、紙袋からカレーパンを取り出し、一口かじった時点でやっと「…腐れピエロの、脱腸天国?」といぶかしく思うだろう。
どうせそこに気持ちがこもっていないなら、ロボットが接客してもいい。
昔「じゃじゃまるポップコーン」というポップコーン販売機が近所にあった。忍者のキャラクターの形をしていて、一定の間隔でしゃべる。
「ぼく、じゃじゃまる。ぼくの中からおいしいポップコーンがたっくさん作れるよ! ポップコーンを食べると、元気モリモリ。おいしいじゃじゃまるポップコーンだよ!」
ポップコーンを食べて元気モリモリになるイメージは全くないが、とにかくじゃじゃまるはそれを20秒おきに繰り返していた。空虚だが、コンビニ店員のような嘘はない。
スピーカーが流すこの無限ループを聞きながら想像する。
世界が滅んだあとの瓦礫の中で、じゃじゃまるがポップコーンの販促をしている。もしも私が世界にひとり生き残って彼を見つけたら、きっとじゃじゃまるの前にずっと残るだろう。繰り返し流れる音声データに人の温もりを感じながら泣くだろう。機械だからこそ、そこに真実を見出すだろう。
機械の音は空っぽだから、勝手な感情を詰められる。
そういえば、Windowsはログインすると「ようこそ」という文字が表示される。無機質だが、それが逆に好きだった。
このまえ、ログインパスワードをうっかり間違えた。画面には一瞬「ようこそ」と出て、少し遅れて「パスワードが違います」と表示された。
ちょっと待て。
なんで「ようこそ」って言った?
機械だろお前は。パスワードが合ってるかちゃんと確認してから「ようこそ」って言え。
もしかして今までの「ようこそ」も全部そんな感じだったのかよ。いまPCの前に誰がいるかもわからないまま、とりあえず流れ作業的に言ってる「ようこそ」だったのか。
コンビニ店員的な処世術をOSが覚えないでくれ。
という内容のことをsiriに言ったら「すみません。よくわかりません」と返された。