Summer of Love!
気になるあの子の薄着姿に胸がドキドキ。
夏の日差しに弾けるその笑顔に目がクギづけ。
そんな人。ううん、そんな武将、あなたにはいますか? 僕にはいます。
そう。僕は今、武将に恋をしてるんです。
ジリジリと照りつける太陽の中、今日もこれから武将に会いに行くんです。
約束の時間にはちょっと遅れちゃったけど、いつも冷静沈着なあの武将のことだから、きっと怒ってはいないはず。
あっ!いたいた!待ってる待ってる!
おーーーーーーーい!
おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!
諸葛亮ーーーっ!!!
「ようやく到着ですか。遅いですねえ。何かの計略かと思いましたよ」
「ごめんごめん。諸葛亮に会うためにオシャレしてたら遅くなっちゃってさ」
「そのような甘言にはのりませんよ。実際には寝坊気味に起きて、慌てて髪型をセットしたから遅刻した、というところでしょう」
「ええっ!? な、なんでバレてるの…?」
「ここ。この頭の後ろのところに、寝癖が残っています」
「しょ、諸葛亮に隠し事はできないねぇ。これが知力100ってやつか…」
「本来なら軍規に照らし処罰するところですが、本日は5分以内の遅刻ですし大目にみて差し上げるとしましょう」
「あ、ありがとう…。代わりにほら、クレープおごるからっ!」
「今はまだおやつの時間には時期尚早かと。少し機を見られるのがよろしいでしょう」
「え…」
「…あ。いつもの助言のくせが出てしまいました。デートだというのに、申し訳ありません」
「いやいや! いい助言だったよ! お腹、まだ空いてないんだね」
「はい」
「やっぱり今日も持ってるんだね、それ」
「羽毛扇のことですか?」
「うん。やっぱそれ持ってると諸葛亮!って感じするよね。知的に見えるし、すごく似合ってるよ」
「それはありがとうございます。でもこれ、さっき駅前で配ってたのをもらっただけなんです」
「ええっ!? うちわはよく配ってるけど…羽毛扇を配るキャンペーンなんてあるんだ…」
「新しいマーケティング計略ですね。ふむ、興味深い。確かに今は壮年にも若者にも歴史好きは多いし、市場規模は限られているもののそこだけにフォーカスした広告を打つのは妙手と言えるかもしれません。過去の例に鑑みれば…」
「ちょっ、諸葛亮…?」
「…あ。 私、またこのような堅い話を…。せっかくのデートだというのにこんな会話、楽しくありませんよね」
「いや、そんなことないよ。俺、諸葛亮のそういう話聞くの好きだから。いろいろ勉強になるし」
「そうですか! それはよかったです! では続きを話させていただきますね。あ、まずは近代経営の均衡理論からお話いたしましょう」
「あー……あ! いやー! でもよかったよねー! 今日ちょっと暑いから、羽毛扇もらえてよかったよねー! あおげるしー!」
「それは確かにそうですね」
「(ホッ……)」
「ってか諸葛亮さ、夏なのにそんな格好してたら暑いに決まってるじゃん!」
「これは私が南蛮で採取した植物から新たに開発した風を通しやすい素材でできいますので、見た目ほど暑くはないのです」
「そ、そうなの…。なんでもできちゃうんだねぇ、諸葛亮は…」
「暑いですか? 暑い時は言ってくださいね」
「え? 諸葛亮、扇風機でも持ってるの?」
「いえ、東南の風を吹かせることもできますので」
「赤壁か!」
「ふふ」
「(ウケた…! 知力100にウケた…!)」
「それにしても、今日は素晴らしい晴天ですね」
「そうだね! これはもう絶好のデート日和…」
「今年は冷夏が心配されていましたが、この調子で暑さが続けば米の収穫も例年以上のものが期待できるでしょう。兵糧の心配なく戦略を練ることができそうです」
「あ、そっち…」
「今年は兵站を伸ばし、さらに人員を投入して戦線を拡大したいと考えております。そのためには領民の慰撫を中心とした拠点の内政と人材の育成が肝要。さらには兵の練度も保たねばなりません。ああ、新しい攻城兵器の開発にも着手せねば…」
「………」
「…あ。ごめんなさい、私また…」
「……なんか、軍師って忙しいんだね。俺のためにこうやって時間割いてもらうの、なんだか申し訳なくなってきたな…」
「い、いえ、ち、ちがうんです。そんなつもりでは…」
「諸葛亮ちょっと忙しそうだから、今日はさくっとご飯だけ食べて解散しよっか?」
「………」
「諸葛亮…?」
「…ほんとに、私ってダメですね。こういう時に小難しい話ばかりしてしまって…」
「いや、忙しいならしょうがないし、そんな気にする必要ないって!」
「こんなことなら、伏龍のままでいた方がよかったな…。それなら今よりずっとたくさん、あなたと遊べたのに…」
「諸葛亮…」
「………」
「なに言うてんねん!」
ガバッ
「なに言うてんねん…孔明…」
「!! どど、どうしたんですか、いきなりこんな近くに…それにいきなり字で…」
「俺、孔明が軍師やないと、困るねん…。軍師してる孔明が好きなんや…。お前が出師の表書いてくれんと、なんもわからんねん…」
「あ、は、はい。はい。書きます。出師の表いくらでも書きますから…。ちょっと、あの、ひ、人が見てますから…」
「…水魚の交わりも、してくれるか…?」
「!! (ドッキーン)」
「なあ。ええか? 孔明と水魚の交わりしてええか?」
「そそ、それはあの、じ、時期尚早…」
「今しかないねん。今すぐ孔明と水魚の交わりしたいねん。なあ、ええやろ?」
「…………」
「孔明…」
「…………ええで」
ちゅう…
「仲達!?」
「え」
「仲達!? 仲達きてんの!?」
「ちがうちがう。孔明、司馬懿仲達の“ちゅう”じゃない」
「どこ!? 仲達どこ!? 生ける仲達? 死せる仲達? どっち!? どっちきてんの!?」
「どっちとかないって。大丈夫、仲達きてないから。大丈夫だから」
…そんなこんなで、孔明とのチュウは一旦おあずけ。
神算鬼謀の孔明と付き合うのはこれから色々大変そうだけど、なんだか僕らはうまくやっていけそうだ。
何となく、そんな気がする。
な? 夏の太陽さん。
(おしまい)