「いやぁ~驚いたよ。急にメンフクロウの鳴き声で叫ぶから」

 

「…あ、あの……ごめんなさい」

 

「大丈夫だよ^^こちらこそビックリさせてごめんね!」

 

なんか……

普通に話が通じるタイプだった。

 

私の心臓はまだドクドクしてるのに
“それ”はなんだかよく遊びに来る友達みたいな落ち着き。

私は、勇気をしぼって聞いてみる。

「えっと、あなたは一体……?」

“それ”は小さく肩をすくめた。

「海賊版の玩具には、日本じゃ認可されてない物質が混入している場合があってね」

「はい…」

「で、偶然にもその“いろいろ”が化学反応して、”ボク”という人格が生まれたらしい」

「…はぁ」

“それ”はあくまで真面目な顔で続ける。

「それでさ。君があんまり悲しそうにしてたから、
とりあえず戻ってきたんだ。心配で」

 

「……」

静かな間が落ちる。

“それ”は声のトーンをほんの少しだけ柔らかくして言った。

 

「……聞かせてくれないかな?ボクでよければ」

 

「……」

 

「……本物がよかった」

声に出した瞬間、目の奥が熱くなった。

 

「みんなみたいに、かわいくて……
 堂々としてて……
 きらきらしてて……
 “本物だ”って言える何かが、欲しかったの

言葉が止まらなかった。

「みんなみたいに習い事にも塾にも行きたかった!本当は私だって制服の可愛い私立中に行きたかった!」

 

“それ”は黙って聞いていた。

「私も……本物になりたかった……」

涙がぽたぽた床に落ちた。

 

 

 

 

ぽん。

 

突然、頭の上にやわらかい手が置かれた。

手の重さは驚くほど軽くて、

そのくせ、胸の奥のほうまで届くような温度があった。

 

「……よくがんばったんだね」

 

“それ”は静かに言った。

 

「確かにボクは”偽物”だ」

「でも君は
偽物でも本物でもない」

 

「…え?」

 

「君は、君なんだ。
はじめからずっと、この世界にひとつだけの存在」

「”本物”を真似る必要なんてないんだ」

 

その言葉を聞いて、私の中で、ずっと重かった何かが、
少しだけ軽くなるのを感じた。

私は涙をぬぐって、
胸の奥からしぼり出すように言った。

 

「…………ありがとう」

“それ”は、ふわっと笑ったように見えた。

 

「どういたしまして」

気づけば私は腕を伸ばしていた。

“それ”も同じように手を広げて、

やわらかい体を私に預けてくる。

 

ぎゅう……

 

抱きしめると、不思議なくらいあたたかった。

 

いつのまにか涙は止まっていた。

 


 

 

まぶたを開ける。

私は自分のベッドに寝ていた。

夢……だったの?

そう思いながら身じろぎすると、
枕もとに何かが転がっている気配がした。

そっと顔を向ける。

——そこに、

“あの人形”が置かれていた。

そのまま、投げ捨てたなんて出来事が
最初からなかったかのように。

 

でも。

捨てる前に感じた不気味さは

もうどこにも感じなかった。

 

 

人形を膝に抱え、
小さく息をつく。

そのとき——

 

コン、コン。

 

突然、ドアがノックされた。

「……えっ」

心臓が一瞬跳ねる。

夢の余韻がまだ抜けきっていないから、

その音がやけに大きく響いた。

 

「……あのね、入ってもいい?」

 

母の声だった。

どこか少しだけ、弱々しい。

私は返事もできないまま、
人形を少し抱きしめる。

ドアがゆっくり開き、
母が顔をのぞかせる。

目が少し赤い。
きっと、泣いたんだ。

「……ごめんね」

手をもじもじさせながら続けた。

「すごく楽しみにしてたのに……
あんな変なの渡しちゃって……
ほんとに、ごめんね」

動揺と不器用さと愛情がごちゃ混ぜになった声。

「あの……それは返品して、でもメルカリで買うのはやっぱり駄目だから、道行く人のカバンから、注意を引いてるうちにママが……」

「……」

私は、そっと首を横に振った。

母は、少し驚いた様子で聞いてきた。

「え?…それでいいの……?」

「ううん。
”この子”がいいの」

「……そう、なの……?」

 

「ママ、ありがとう」

その言葉に、母は小さく息をのんだ。

そして、
震える手で、自分の顔をそっと押さえた。
一瞬だけ、泣きそうな顔をして——

ぱっ、と明るい声を出した。

「よし!じゃあみんなでご飯食べよっか!」

それはもう、いつもの母だった。

私は人形を抱えたまま、

「うん!」

と立ち上がる。

 

人形の瞳が、

光を受けて、きらりと小さく揺れた気がした。

 

おわり