なぜ、圧倒される文章に仕上がったのか?

 

改めて、例の文章を見てみましょう。

 

 

ご飯のおかわり一回無料!
+50円(税込)でごはんを
小チャーハンに変更できます!
(炒飯はおかわり不可)
白米でのおかわりは可能です

 

お気づきの方もいると思いますが、この文章を何度も読んでいると感じますよね。

 

この文章、継ぎ足しているのでは?

 

たしかに、一気に読み切るとただの圧倒的な文章ですが、ちゃんと文構造を見てみると・・・

 

新しい1文がそれぞれ今までの文章全体を補足(※ただし~~)する構造になっているんです。

伝わっていますでしょうか?

つまり、元々は「ご飯のおかわり一回無料!」だけ書いてあって、何かしらの事情で補足説明、補足説明を重ねていった末に、今の形に仕上がったのでは?という仮説が立てられるんです。

(上からテプラで貼って継ぎ足すタイプのお店もありますが、このお店は現在の完成形で改めて印刷し直しているということですよね)

 

よくある話ですが、我々ユーザが正確な説明を求めれば求めるほど、補足は長くなっていきます。

最初はシンプルに「容器も食べられるお菓子です!」だった文章が、

 

ユーザの声を受けて、

 

「お菓子全体を包んでいる外側のビニール包装は食べられませんよ」という(当たり前すぎる)注意書きを入れる羽目になり、

 

それでも尚ユーザの声は止まず、

 

最終的には、補足に補足を重ねた訳のわからない注意書きに。

「容器も食べられるお菓子!」だったはずが「容器(※1,※2)も食べられる(※3,※4,※5,※6)お菓子(※7,※8)!」になってしまう。

 

こんなことが、

このお店にもあったのかもしれません。

お客さん相手の商売ならではの苦悩や紆余曲折が、この文章の裏に隠されているのかもしれませんね。

 

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 すみません!ごはんおかわりで!

こっちも!

みんなよく食べるなあ

ねえあなた。ご飯のおかわり、一回だけ無料にしてあげるっていうのはどう?

それは良い!みんなにもっと食べてもらおう

 

お客さんを喜ばせたい。ここは、夫婦二人三脚で20年やってきたお店。

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この、+200円でデザート追加っていうのは、税込?税抜?

確認してきますね!

そりゃお前、税込だよ

お待たせしました!税込だそうです

チッ、それくらいメニューに書いてくれなきゃわからないよ?客だよ?

申し訳ありません…

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レバニラ炒め単品で、チャーハンつけてください

私は、肉野菜炒めの単品と、チャーハン

チャーハンを一緒に頼むお客さん、最近多いなあ

定食セットのご飯、チャーハンに変えても良いようにするっていうのはどう?

でも最近、物価上がってるからなあ。チャーハンは原価ギリギリだし…

じゃあこうしましょう!+50円(税込)で定食のごはんを小チャーハンに出来るサービス!

それくらいなら頑張れるな!でも「(税込)」は要らないんじゃない?

・・・

どうした?

(税込)」、書きましょう?

ただひたすら、お客さんを喜ばせたい。ここは、夫婦二人三脚で20年やってきたお店。

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すみません、チンジャオロース定食で、ごはんを小チャーハンに変更でお願いします

はい!ご注文ありがとうございます!

やっぱり、小チャーハン変更サービスは大成功だわ

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すみません、小チャーハンおかわりで

あっ、すみません。定食の小チャーハンはおかわりできないんです

ぁあんっ!?ここにご飯のおかわり一回無料!+50円(税込)でごはんを小チャーハンに変更できます!って書いとるやないけ!おかわりできるんやろ?

申し訳ありません…

チッ、もうええわ!

 

ここは、夫婦二人三脚で20年やってきたお店。明日も、お店は続いていく。

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すみません、お会計で

はい、いつもありがとうございます

この老紳士は、お店の常連客。豊かな口ひげをたくわえ、いつもパリッとした濃灰色のピンストライプスーツ。黒い革靴はぴかぴかに磨かれている。片手には、ジェントルマンにしか許されない黒檀のステッキ。どういうわけかこのお店を気に入っていただいたようで、週2でランチを食べに来る。その様子からして店の前に運転手付きのクラウンが横付けしても驚かないが、お会計を済ませるといつもステッキをたよりに住宅街の方へ歩いて帰っていく。

失礼ですが、

はい!?何か不備でもありましたか…?

女将はドキッとした。彼女は客からクレームを言われることにはもう慣れてしまっていたが、それでもこの「これからクレームを言われる瞬間」はいつも身体が硬直する。身体は硬直しているのに、脳はすさまじい回転を魅せ、一瞬であらゆるクレームの可能性を洗い出そうとする。レバニラ炒めに「もやしも入ってます」と書いていなかったことだろうか?それとも「お冷やとは水(H2O)のことです」という張り紙を張っていなかったことだろうか?

最近女将さんの顔色が良くない気がするのですが、何かありましたか?

え?

拍子抜けした。とりあえず、クレームではなさそうだ。

いえ、お気遣いいただいてすみません

このお店のレバニラはとても美味しいですね

老紳士は、女将に感想を伝えるというよりもまるで自分自身に言い聞かせるかのように、彼女とは目線を合わせずレジ横のコイントレーを見つめながら静かに語った。

私はね、このお店の粋な雰囲気が好きなんです。おしぼりはやわらかいし、お水のピッチャーも全テーブルにあるから、脚の悪い私でも簡単に水を注げる。いつも客のことを第一に考えている心意気が伝わってくる。

・・・

そうそう。ご飯のおかわり一回無料!が始まった時は、それは嬉しかった。私はもう歳なのでおかわりこそ出来ないが、自分の目に狂いがないことが分かったのでね…

・・・

いやいや、やはり年寄りの長話は良くないね。では失礼します

・・・あの!

(黙って振り返る)

また・・・また、お越しください!

 

そうよ。うちのお店は、うちのお店は…

 

ご飯のおかわり一回無料なのよ!

 

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===

 

みたいなね。

こういうことがあったのかもしれません。

(実際のお店は従業員の方が何人もいる大きめの店なんですけれども)

 

そうなんですよ。

もう一回、もう一回例の文章をちゃんと読むと、

 

最後の「白米でのおかわりは可能です」だけは『※ただし』じゃないんですよね。

 

どういうことかというと、

ではなく、

という流れになっているんです。

 

文構造としては「それでも、それでもうちの店はね、ごはんのおかわりができるんです!」と敢えて言い直している

つまり、「ご飯のおかわり一回無料!」という最初に掲げた旗にもう一度立ち戻っているんです。

 

なぜか?

それが、このお店の『誇り』だから—――

 

 

最初と最後でわざわざ同じことを言っているという文構造の裏には、こういうストーリーがあったんですよ。きっと。

そうやって考えると、「白米でのおかわりは可能です」という言い回し方にも、なんとなく納得感が湧いてきませんか。

 

 

 

よく見ると、右下の「チンジャオロース(豚)定食」もすごい。

 

チンジャオロースー【青椒肉絲】
《(中国語)》中国料理の一。牛肉または豚肉とピーマン・タケノコなどを細切りにして炒め、オイスターソースなどで味付けしたもの。

(goo辞書:デジタル大辞泉(小学館)より引用)

とあるように、定義上は牛肉でも豚肉でも良いみたいなんですが、そこを敢えて「(豚)」と書かざるを得ない理由があったのかもしれません。

うぉぉい!このチンジャオロース、牛肉とちゃうんかい!カネ返さんかい!

 

 

 

圧倒的な文章を作り出したのは、他でもない私たちなのかもしれません。

 

 

 

さて、

 

 

定食が届きましたので、いただきましょう。

僕は、+50円(税込)のルートを選択いたしました。

 

 

チャーハン、美味すぎる

 

これを+50円(税込)で食べさせてくれるのは、ちょっと粋すぎる。

 

 

レバニラ炒めも最高。

 

 

ごちそうさまでした。また来ます。

 

 

全ての客商売に、「白米でのおかわりは可能です」の祝福を。

 

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