レンタルショップにひっそりと眠る、パクリタイトルの映画。ほとんどは日本の配給会社が勝手につけた邦題なのですが、中身も同じような二番煎じの退屈なものばかり……。
ただ、その中にも傑作は眠っているのです。その恵まれない名前のせいで手に取ってもらえない哀れな作品群から、選りすぐりのタイトルをいくつか紹介したいと思います。
あと一点。この記事の性質上、ひととおり紹介が済んだら「いかがでしたか?」という文言を使うことになります。うわこいつ「いかがでしたか?」なんて言ってるよ、どうしようもない田舎者だな、と思われるのだけは避けたい。こればかりは仕方ないのです。
目次
■『ナポレオン・ダイナマイト』…最初の邦題は『バス男』
■『悪魔の毒毒パーティ』…毒毒モンスターとは無関係
■『プリズン・フリーク』…刑務所に入りたくなるバカコメディ!
■『キャビン・イン・ザ・ウッズ』…『キャビン』とは全然違うけど面白い
■『ジーパーズ 恐怖の都市伝説』…ラストバトルが面白すぎる
■『SAWレイザー』…あまりオススメはできない怪作グロ映画
1.『ナポレオン・ダイナマイト』
言わずとしれた便乗タイトル映画の傑作です。
電車男との関連性はもちろん、この”バス男”がバスに乗る描写すら冒頭の数分だけという有様で、作品自体のクオリティの高さも相まって、この邦題には映画好きから多くの批判が。それを受け、配給元の20世紀FOXが原題そのままの「ナポレオン・ダイナマイト」という邦題に変え、DVDが再販売されるという事態にまでなりました。
この作品は、アメリカの田舎町に暮らす高校生、ナポレオン・ダイナマイト(本名)を中心に、個性的なキャラクターたちがオフビートな笑いを生み出すコメディ映画。本当に大したことは起こらず、ただただ変人が変なことをしたり変なことを言ったりするだけの映画ではあるのですが、そのキャラ描写にまったく嫌味がなく、なぜか終始爽やかに見ていられる不思議な作品です。簡単に言えば、キャラクターたちが誰のことも笑わせようとしておらず、ただ日々を生きているだけ。観終わったあとは、この登場人物たちが全員愛おしくてたまらなくなっていることは間違いないでしょう。
そんな内容の上、監督もキャストも日本ではまったく馴染みのない人たちなので、配給会社がなんとか手に取ってもらおうと頭をひねらせ、当時の流行りだった電車男に便乗するという決断に至った気持ちはよくわかります……。この世にあふれる便乗タイトルは、そんな働き者たちの努力の結晶なのです。
2.『悪魔の毒毒パーティ』
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのジェームズ・ガン監督を輩出したことでも有名な、ロイド・カウフマン率いるエログロB級映画製作会社トロマエンターテインメントの看板映画、悪魔の毒毒モンスターをご存知でしょうか。このシリーズは4作目まで制作され、2作目の『悪魔の毒毒モンスター 東京へ行く』はそのタイトル通り舞台は東京、若き関根勤も出演しているので、そちらも是非チェックしておきたいお下劣シリーズなのですが、こちらはトロマとはまったく無関係のゾンビホラーコメディです。
共通点とすれば、『悪魔の毒毒モンスター』では核廃棄物を浴びた主人公が醜い化け物になってしまうのに対し、今作では原子力発電所から流れ出た有害物質が街を汚染し墓に眠る死体がゾンビ化してしまうという点。同じく放射能が事の発端ですから、便乗したくなる気持ちはわからないでもないです。グロがいっぱいというのも嬉しい共通点。エロは皆無ですが……。
そして中身はこれも全編ゴキゲンな快作! 低予算ではありますが、ゾンビ映画としてのツボをしっかり押さえつつ、コメディとしてしっかり笑える作品になっています。何より登場人物が多いのがイイ。どうせなら、たくさん人が出てきてたくさん死んでくれたほうが観ごたえがありますよね。もちろん量より質ではありますが、それぞれがしっかり多種多様な死に方を見せてくれるので楽しいです。アツいシーンもあって、観れば必ず応援したくなるキャラがひとりは見つかるはず。あまり低予算映画を観慣れていない人も、B級風味をしっかりと感じられつつある程度満足できる、入門にちょうどいい作品ではないでしょうか。
3.『プリズン・フリーク』
2000年代海外ドラマの金字塔、プリズン・ブレイクの便乗作品は幾度となくリリースされてきましたが、この刑務所を舞台にしたコメディは『ブレイキング・バッド』のソール役でおなじみボブ・オデンカークが監督を務めた、下品で能天気、いかにもアメリカンなコメディ作品。ただめちゃくちゃおもしろい!!!
泥棒を繰り返し刑務所を行き来するクソ野郎ジョンは、少年時代「初めて自分に有罪判決を下した判事のせいでこんな人生なんだ」と逆恨みし、綿密な計画を立て判事に復讐しようとします。ですが、なんと判事は既に他界しており、ジョンはやり場のなくなってしまった怒りを、判事の息子である何の罪もないネルソンにぶつけることにします。そもそも判事にだって何の罪もないんですが。しかもその復讐というのが、「ネルソンを刑務所に入れ、堕ちていく姿を間近で見てやる」というもの。つまり、一緒に刑務所に入るわけなんです。受刑者たちからの洗礼を受けるネルソンの姿を笑うジョン。のはずが、なんとこれが徐々に、初めてのネルソンと常連のジョンの、刑務所を舞台にしたバディものの様相を見せていくんですよ!
おもしろそうでしょ。実際めちゃくちゃ面白いです。原題は『Let’s go to Prison』。そのゴキゲンなタイトルの通り、思わず刑務所いきて~と思ってしまう愉快な作品です。是非!
4.『キャビン・イン・ザ・ウッズ』
2012年に公開され、単純明快なホラー映画かと思わせながら、蓋を開けてみればその予測できないストーリーが映画ファンを翻弄した『キャビン』。「あなたの想像力なんて、たかが知れている」という強気なコピーも印象深いお祭り映画でしたが、それの便乗作品として当時リリースされたのがこの『キャビン・イン・ザ・ウッズ』です。少しややこしいんですが、『キャビン』の原題は『The Cabin in the woods』。つまり『キャビン・イン・ザ・ウッズ』は『キャビン』の原題そのままなんです。紛らわしいです。こういうことを平気でします。ちなみに『キャビン・イン・ザ・ウッズ』の原題は『Resolution』。断然こちらのタイトルのほうがクールで良いのですが、こんなに地味な映画を売り込むためには何かに便乗せざるを得なかったのでしょう。買わない私たちが悪いのです。
で、この映画なんですが、本家『キャビン』がかなり賑やかなバカ作品だったのに対し、こちらは終始めちゃくちゃ静かです。とにかく地味。盛り上がるようなアクションもなく、理詰めで事が進んでいく、典型的な低予算映画と言えます。音楽もほとんど無くって、全編人物の会話に終始。なのにかなりおもしろい!
主人公マイクのもとに、親友で薬物中毒者のクリスから意味不明な動画と地図が送られてくる。クリスの暮らす山小屋に出向いたマイクは、荒療治と言わんばかりに呂律の回っていないクリスを手錠で拘束し監禁。親友に薬物を断たせようとするが……。
スリラーにも、感動ドラマにも、コメディにもなりそうなあらすじですが、この映画はそのどれにも当てはまらないような奇妙な展開。先がまったく予測できないという点では、本家『キャビン』とも共通する部分かもしれません。山小屋が舞台なのも。
とにかく、ストーリーテリングが抜群にうまい。登場人物は基本的に2人だけで、低予算丸出しではありながらも、構図、カット割り、台詞回しにもセンスを感じさせ、単純に私の好みかもしれませんが、映画としては一級の完成度を誇っていると思います。ぼんやりとしたラストには賛否分かれるところでしょうが、私はある解釈をすることですんなり納得できました。終盤の展開についてじっくり語りたいところですがネタバレになってしまうので、是非観て考察してみてください。今ならAmazonプライムで観ることができます。
5.『ジーパーズ 恐怖の都市伝説』
『ジーパーズ・クリーパーズ』という映画をご存知でしょうか? 2001年のホラー映画。フランシス・フォード・コッポラが製作総指揮に名を連ねているこの傑作ホラーは、私の大好きな映画のひとつでもあります。それの便乗作品としてリリースされたのが『ジーパーズ 恐怖の都市伝説』。もっと有名どころに便乗すればいいだろとも思いますが、まあ何となく似てるかなと思う部分もなくはないので、正当な便乗と言えるかもしれません。正当な便乗などという言葉はありませんが……。
バカホラーコメディです。相当バカで、相当下品。あらすじも、男2人組が化け物に追いかけまわされるというだけです。無意味なスローモーション、つまらないギャグ、やたら気合の入ったグロと、これぞB級と言いたくなるようなくだらなさ。あとは監督の癖なのか、寄りの画がやたら多いのも気になります。結構ヤバいことが起こっているのに、開始1時間を過ぎても普通にメシを食っている危機感の無さも相まって、ぶっちゃけつまらない映画と言えてしまうかもしれません。
ただ、観てほしいのはラストバトルです。こんな映画にネタバレも糞もないので言ってしまいますが、ラスト、キチガイ一家と主人公がバトルを繰り広げるのですが、それがあまりに面白すぎるのです。観ながらずっと爆笑してました。このラストバトルだけでも、90分観る価値があると、まあ断言はできませんが、そう思います。マジですよ。本当におもしろいです。信じて観てほしいなあ。これもAmazonプライムで観られます。
6.『SAWレイザー』
言わずと知れたグログロシリーズ『SAW』の便乗作品は、本家も低予算というだけあって、これまで大量に乱発されてきました。中には面白いものもあるにはあるんですが、今回チョイスするのはこの『SAWレイザー』です。お気づきの方もいるとおり、『SAW』と、『ヘル・レイザー』を組み合わせたキメラタイトルとなっています。どちらかというと『ヘル・レイザー』のほうが近い感じ。
で、中身なんですが… 正直おもしろくはないです。私もちゃんと観ていたはずなんですが、わけわかんね~と話を追うのを諦めました。ざっくり言うと、主人公が死んだ妻を生き返らせるために地獄の門を開いてしまうというお話です。地獄の使者(?)の描写なんかは、ちょっと『ヘル・レイザー』っぽかったり。後半もう何が何やらわからなくなってしまいますけど。
それでも最後まで観た理由は、何と言ってもグロ描写。そして全体を覆うダークな空気感です。もちろんかなり安っぽく、粗い画質ではあるのですが、それがうまく作用して、観ちゃいけないモノを観ているような気になってくるんですよ。こうなったらもう映画の勝ちです。悔しいです。
ホラーやグロが苦手な方には決してオススメできませんが、そういうのに興味アリな方でしたら、一見の価値はあるんじゃないでしょうか。
いかがでしたか?
すごく真面目に映画を紹介してしまいましたが、レンタルショップにひっそりと眠っているパクリ映画の中にも、実は掘り出し物が眠っていることがあるのです。くだらねえ、と棚に戻してしまう前に、まあたまにはいいか、とレンタルしてみるのもロマンがありますよ!