僕が中学生の頃、実家の団地に叔父(父親の兄)が訪ねてきました。バイクを買ったから、ツーリングがてら寄ってみたとのことでした。父は叔父を家に入れ、麦茶を飲みながら「兄貴と会うの久しぶりやな~」とか「今年のタイガースは~」みたいな話をして盛り上がっていました。
30分くらい経って、叔父は「久々に弟の顔が見れてよかった。バイク買って正解やったわ」みたいなことを言って帰っていきました。
が、5分ほどで青い顔をして戻ってきました。
説明が遅れましたが、僕の実家の団地はとにかくハチャメチャにガラが悪かったのです。
巨大な団地自体に不良少年がたくさん住んでおり(当時『ビー・バップ・ハイスクール』という不良マンガが大流行していた)、さらに一階に公園があったせいで、そこが周辺の不良や暴走族の溜まり場になっていたからです。
バイクが盗まれるなんて本当に日常茶飯事の、修羅の国だったんです。
家族総出で、血眼になって叔父のバイクを探したんですが、結局見つかりませんでした。
叔父は怒りの矛先を父に向け、「おまえの家に来たせいで新車のバイクが盗まれた!」と激昂。父も「自分が盗んだわけじゃないのに、なんでそんなに責められなきゃいけないんだ」と返し、あわや一触即発という状態でした。
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あれ以来一度も連絡を取っていなかった叔父から、突然電話がかかってきました。
「今、お前らの団地の下に来てるから、下りてきてくれ」
父と二人で一階に下りてみると、そこには新しいバイクに乗った叔父の姿が……
「保険がおりるっちゅうから、バイクを買い直したんや!」と満面の笑みを浮かべる叔父。父も「良かったなぁ、ワシもあれから気になってたんよ」と笑顔で応え、叔父を家に入れて麦茶を飲みながら話し始めました。
「こないだは、おまえが盗んだわけでもないのに怒ってしまって……すまんかったな」
「いや、ワシのほうこそ兄貴の気持ちを考えとらんかった」
30分くらいして叔父が帰る時、「これからも……時々来てエエか?」と恥ずかしそうに呟き、父は「当たり前や。ワシら、血を分けた兄弟やないか……」と、目に涙をためながら応えていました。
叔父はにっこり笑って帰っていきました。
が、5分ほどで青い顔をして戻ってきました。
叔父のバイクは再び盗まれたんです。
家族総出で、血眼になって叔父のバイクを探したところ、今回は奇跡的に発見することができました。
近所のドブ川で
ほぼ全体がヘドロに水没していたバイクは、前輪を支えるフロントフォークが曲がり、ガソリンタンクがベッコリへこんで、見るも無残な姿になっていました。
叔父は―
と呟いて帰っていきました。
そしてそれ以降、ほんとに叔父がうちの家に来ることはありませんでした。
完