リックェです。

 

突然ですが、本当のSFを読みたくはありませんか?

 

 

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

それならこれ!

短編集「あなたの人生の物語」です!!

 

2016年の映画「メッセージ」(こちらも記事書いてるので読んでね!)の原作である「あなたの人生の物語」を含む、短編集です。

1編は30分からせいぜい3時間くらいで読めちゃうので、ぜひ。

 

 

収録されているのは以下の8作品。

・バビロンの塔
・理解
・ゼロで割る
・あなたの人生の物語
・七十二文字
・人類科学の進化
・地獄とは神の不在なり
・顔の美醜について

 

どれもハズレ無しにおもしろいのですが、

後半4つを紹介させてください。

 

(前半4つはこちら)

【前編】短編集「あなたの人生の物語」がハズレなしだった

 

 

 

 

七十二文字

 

あらすじ
“命名師”は羊皮紙に書いた“名辞”で粘土人形を自動人形にして操る。
主人公は、自動人形を製造する自動人形を作り貧しい人達を救おうと考える。
一方で、人類はあと5世代で不妊になり絶滅することが明らかになるが……

 

 

 

キーワード

・ゴーレム

RPGではおなじみのゴーレムです。術者の命令を忠実に実行する人形ですが、もともとは旧約聖書のお話です。
作中では「72文字」のヘブル語の組み合わせを研究して、われわれが電話や自動車を使う社会に暮らしているように、この物語世界では自動人形(ゴーレム)を使う社会になったということですね。

 

 

見どころ

・ファンタジーでありSFである

この作品は「ファンタジー」であり「SF」なんですよ。まごうことなく。

 

名辞で粘土人形を操作するのは完全にファンタジーなんですが、名辞の仕組みを細かくガンガン突っ込んでくのは、ほら言語学大好き、作者テッド・チャンのお得意分野。

引用しますね。

 

彼が研究したのは名辞の統合と解析に関する最新技術だった。前者は一揃いの小名辞――核心部と喚起部――を混合し、一見すると無秩序に思える文字列で名辞を作り上げる方法、後者はそれぞれの名辞を、構成要素となる小名辞に分解する方法だ。

 

こういう作り込みがすごいから圧倒的な世界観ができあがるんだねぇ。この姿勢は完全にサイエンス。フィクションのサイエンスなんすわ。

 

ストーリーの話をしますね。

後半、生命の細胞に書き込む名辞“真辞”があきらかになります。そして主人公が研究していたのは、自動人形を製造する自動人形の名辞……?

 

となると、この話、どうなってくるんだ……?

ってな具合で最後まで、読みたくなっちゃいますよね。

後半1発目からでました超オススメ。

そうそう。ゴーレムはヘブライ語で「胎児」という意味なんだそうですよ?

ほらほら読めっ!

 

 

 

 

人類科学の進化

あらすじ

“DNT(デジタル・ニューラル・トランスファー)”を使う超人類と、使えない(使わない)人類のお話。科学上の発見や発明はDNTを通して共有されるようになった。DNTを使えない人間はその研究成果に触れることができない。
かくして、超人類の科学は進み、人類は後を追うように超人類科学のリバースエンジニアリング(分解して構造を理解する)超人類製品解釈学が生まれた。

 

 

 

キーワード

・DNT(デジタル・ニューラル・トランスファー)
作中、明確にどういう技術なのか示されてないけれど「言語を使わずに情報を直に理解できるかたちで脳に送信する技術」とかそんな感じっぽい。適合手術が必要で、適合手術は素質のある子どものときにしか行えない。

 

 

見どころ

デジタルデバイドの話だコレ。

 

これおもしろいのはさ、
「テクノロジーの恩恵を受けるのにその理解は必要ない」ってとこですよね。

 

研究者じゃなくてただの利用者なら、それで全然いい。

ちょうどテレビがどういう仕組で映るかわかってないけど楽しめるのと同じように、人類も駆動原理はわからんが超人類製品を使ってその恩恵をうけられるのと同じで。

 

そこで問題提起。「超人類製品解釈学」ここに何の意味があるんだ??

その答えがここに。そしてこれ5分くらいで読める軽いやつです。

 

 

 

 

地獄とは神の不在なり

 

あらすじ

“降臨”で妻をなくした主人公。彼がどうして神を愛すようになったのか。
妻は神を信じていたので天国に行った。主人公は妻を愛していたから妻を追って天国へ行きたい、でも、その妻を殺したのは天使の降臨。そんな神を信仰できるだろうか。苦悩する主人公。

 

舞台設定

以下の引用で、つかめると思います。

 

 

ありふれた降臨だった。たいていのものより規模は小さかったが、性質は異なっておらず、一部の人間に祝福をもたす一方、一部の人間には災厄をもたらした。今回、降臨した天使はナタナエルで、ダウンタウンの商店街に姿を表した。四つの奇跡的治癒が成就した――ふたりの人間の上皮性悪性腫瘍の除去、対麻痺患者の脊髄の再生、最近盲目になった人物の視覚の恢復。

 

<中略>

 

六十二名が医学的治療を受けた。被害総額は八百十万ドルと見積もられ、そのすべてが原因ゆえに保険会社の保障対象外とされた。

 

 

たぶん、現代(ダウンタウンとか保険会社とかドルとかいってるし)が舞台なんですが、それと同時に“降臨”も普通の様子です。天使は光や雷や火や風などと共に降臨し、あたりを破壊する模様。そのときに被害を受ける人がいる一方で祝福を授かるものもいて、それも普通だと思われている世界。

 

そして、これが重要なんですが、死んだ魂が天国へ昇る様子や、時折、ガラス張りのように地面が透けて地獄が見える(そこで生前と同じように泣いたり笑ったりして人々が暮らしている)ことから、天国と地獄が明確にあると知っている。

 

 

 

 

 

見どころ

・信仰のリアリティ

敬虔な人、神を憎む人、どっちでもない人、多種多様の登場人物。
今までの人生、ひどいこともなく幸運に恵まれていたと思うから「信仰している」という描写。すごくないですか?なんとなくわかる感。テッド・チャン、日常の観察眼やばすぎるでしょう。
そんな観察眼持った人が描く、人が信仰に目覚める経緯、信仰を捨てる経緯。おもしろそうじゃないですか?

 

・とにかく天使の降臨がたまらん

まあね、信仰とか細かいことはいいんです。
いきなり現れるん天使。そして周りのものを壊して消える。はた迷惑。
ほぼ自然災害なんですけど、降臨シーンカッコいいったらないですね。
劇中いろんな天使が現れるんで楽しみにしていてください。

 

 

 

 

 

顔の美醜について

あらすじ
“美醜失認処置「カリー」”をめぐる話。カリーを行った人間は顔の美醜の判断がつかなくなる。
(人の顔の区別自体や、音楽や絵画の美醜の感覚には影響しない)

カリー導入の学生運動が起こった大学の話ではじめて自分のカリーを外した女の子や、イケメン、フツメン、ブサメン、化粧品メーカーの策略やら、インタビューの体裁をとっている。

 

 

見どころ

カリー手術を受けると、美人かブスか見分けられなくなります。そのカリーをみんなで受けよう運動の投票前のドタバタを描いたやつです。

 

ことに美人とかブスとかの話になると、みんなしゃべりたがる感じ、おもしろいね。

きれいな景色を見たいってのと、きれいな顔を見たいっていうのは、同列には語れないが、いい匂いの香水嗅ぎたいとか、きれいな声を聞きたいとかも、じゃあダメなんじゃないのか?とかね。

 

考えること意外と多い。
さてあなたは、カリーを受けたいですか?

 

 

 

 

僕は、自分以外は全員カリーしてくれって思うタイプの人間さ。

 

 

 

 

 

いかがだったでしょうか

これが本当のSFってもんだぜ!