『僕らは今日も爪を研ぐ』とは―
今まさに、マンガ家として爪を研いでいる真っ最中の男、カメントツ。そんな彼が、同じく爪を研いでいる若き獅子や、研ぎすぎてウルヴァリンみたいになっている同業の漫画家に会いにいく対談企画である。
さてさて、今回のお相手は……?
こんにちは、仮面がトレードマークの漫画家ライター、カメントツです。
普段はこんなマンガなどを書いています
今日は『僕らは今日も爪を研ぐ』と題して、マンガ家の先生に会いに行き、同業ならではのあるあるや、悩み、夢なんかを語り合えれば……なんて思ってます。
第1回となる今回は、『FLIP-FLAP』『ラブロマ』などの作品で知られるとよ田みのる先生に会いにきました!
とよ田みのる
1971年生まれ。東京出身。
2000年、『レオニズ』にてアフタヌーン夏の四季賞で佳作を受賞。2002年に『ラブロマ』にてデビュー。2010年に結婚。現在は娘とのほのぼのした日常を綴った育児マンガ、『最近の赤さん』を連載中。
個人サイト:FUNUKE LABEL Twitter: @poo1007
先生の自宅兼仕事場。先生の仕事机には液晶ペンタブが。ティッシュも使いやすい場所にセットしてあるぞ!
『友達100人できるかな』(アフタヌーンKC)の生原稿!
1980年にタイムリープした小学校教師が宇宙人の地球侵略を阻止する「愛の証明」のために友達を100人作らなければならない…という話。設定がSFなのに舞台が昭和なのがノスタルジックで良いんですよね~。
マンガ家の最前線?「WEB」について
「こんにちは! とよ田先生とはちょくちょく飲んでますから、あらためてお話を聞くとなると変な感じですけど……今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。どういう企画なのこれ?」
「僕が同業の漫画家に会いに行ってダベる、というユルい企画です。第一回ということで、マンガ家として大先輩であり、エッセイというジャンルでも作品を描いてるとよ田さんに話を聞きたいなと」
「カメントツくんもエッセイマンガが多いもんね。いいですよ、なんでも聞いてください」
「まずお聞きしたいのが、マンガ家のポジションについてです。今の時代、WEBの登場によってマンガ家のポジションがすごく多様化してきてますよね? 僕はWEB出身なので今後もネットで描く機会は多いと思うんですが、紙媒体でもやっていきたいと思っていて。とよ田さんそのあたりどうお考えですか?」
「俺はたまたま最初に雑誌でやってて、後発でネットをやり始めたんですよね。だから雑誌がメインっていう気持ちが残ってます。WEBのほうはそこまでがっつかないで気楽にやろうと思ってますね」
「とよ田さんネットの使い方がすごく上手いですよね。Twitterも頻繁に更新してる。ぼく自身はWEB出身マンガ家って自負があるんでネットはすごく好きなんですが、一方で、マンガという文化にとって、ネットはどんな影響を与えるんだろうと考えてしまうこともあります」
「そうだね。kindleでも本を出してるけど、こうすることで書店さんの売り上げを減らしているのかなと思うと後ろめたさはある。完全肯定はできないよね。でも、良いところもいっぱいあるんだよね。紙の本より絶版になる確率が低いし」
「確かに! 価値のあるマンガが消えてなくならないというのは、それだけで意味があると思います。今の解像度ならカラーも見開きページもちゃんと読めるし。ただ、マンガ家の中には『ネットにはマンガを載せない』っていうこだわりを持ってる方もいますよね」
「人それぞれこだわりはあると思うんだけど、実際WEBの波は来てるし、今後無視することは絶対にできないでしょう。俺はもうちょい器用に行ってもいいんじゃないのと思っています」
机の隣には有名マンガ家からのメッセージが……!
エッセイマンガを描くということ
「実は今悩んでるんです。描いてるマンガがエッセイ系なんですけど、どの方向に描けばいいのかなって。僕はなんとなく『良い話』にまとめようとするところがあるんです」
「あぁ、変にまとめちゃうと小ぢんまりした作品になっちゃうよね。しかも人を泣かせる方向に持っていくのって、意外と楽だから」
「そうなんです。安易にお涙頂戴系やってていいのかしらっていう不安はあります。でも……そういう話って伸びやすいんですよ!」
「わかる! 良い話って伸びやすい! こないだ、ウチの娘に胎内記憶(2~3歳くらいの子供は母親の胎内にいた時のことを記憶しているという説がある)ってやつを聞いてね、おもしろかったからマンガにしたんだけど……」
最近の娘さん83 #最近の赤さん pic.twitter.com/rL0T4diUIy
— とよ田みのる (@poo1007) 2016年9月17日
「あー! 見ました! めっちゃいい話でしたね!」
「みんなそう言ってくれるの。『感動しました』って。でも俺の中ではオカルトっぽい意味で描いたんですよね」
「え、そうだったんですね。でもせっかくみんな『感動しました』って言ってるんだから、もうその方向で行ったほうが……」
「だよね。これもう良い話で通すしかないなって」
「エッセイマンガの難しいとこですよね。どこを切ってどこを膨らませるか。そしてそれを読者がどう受け取ってくれるのか」
とよ田先生のヒット作『最近の赤さん』の主人公・娘さん。
「とよ田さんは子育てエッセイマンガとして『最近の赤さん』を描いてらっしゃいますよね。同じエッセイマンガ家としてどうしても聞きたいことがあったんですけど」
「え、なんですか。怖いんだけど」
「マンガのネタとして娘さんを描くということについてです。娘さんをマンガにすることは、最初はメチャクチャ楽しいと思うんですけど、いつしかネタを探す目で娘さんを見ちゃうようになったりしないですか?」
「身内をネタにするっていうのは、そういう危険をはらんでるよね。ネタの素材として見ちゃうっていう。それは俺も最初から思っていて、『最近の赤さん』に関しては、無理におもしろくしたり膨らませたりっていうよりは、娘へのラブレターのつもりで描いてる」
「へぇ! ラブレターですか!」
「そう。ラブレターだから好きなことしか描かない、と決めてます。ビジネスにつながる必要はないんですよ」
「めちゃめちゃ良い話だ……SNSでシェアしたい」
「ね? 良い話ってウケるでしょ」
初めてマンガを描いたのは25歳?
「とよ田さんがマンガを描き始めたのって何歳ぐらいのときですか?」
「25歳の時ですね」
「結構遅いデビューなんですね。僕は28歳でデビューしたんでもっと遅いんですけど。一体25歳の時に何があったんですか?」
「いや、何もなかったんです。大学を卒業して、やることないな~ってのらりくらりしてたら『そういえば俺はマンガ家になりたかったんだ』って思い出して、初めての作品を描いたんです」
「突然~! 対談なんだからもうちょっと過去にこんなエピソードがあって、といった話を聞きたかったんですが」
「ごめん、ないのよね~。ほんと突然、子供の頃の夢を急に思い出した。それまでちゃんとマンガを描いたこともなかったのに」
「でもマンガ家になる人って、意外とドラマチックな出来事なんてないですよね。突然の天啓めいた気付きというか、それこそ『あ、マンガ描こっと』みたいなスタートが多い気がします」
「あと遊びすぎて、今さらまともな社会に戻るのも厳しいかなっていうのもあった」
「うん、そういう人も多い気がします」
部屋の中でひときわ目を引くレトロおもちゃ。資料用に買い始めたものがいつのまにか増えてしまったそう。
「25歳までマンガをちゃんと描いたことはなかったんですよね? ということは、どこかの先生のところにアシスタントで入ったりしたんですか?」
「いや、アシスタント経験はないんですよ。自分で一人でマンガ描いて、投稿して、を繰り返して。28歳で初めて佳作を取って、30歳の時に初めてマンガが雑誌に載ったの。で、載った漫画が連載されたりして、まあずっとひとりでマンガ描いてたな」
「僕は28歳デビューなんで、がんばればとよ田さんと同じようになれるってこと……?」
「全然いけるよ! まだまだこれから!」
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