宮城県仙台市にある人気スーパー「主婦の店さいち」。たった80坪の個人店である。
しかし「1日25000個のおはぎを販売」「総菜弁当販売ロス0%」など、個人店では考えられない実績が話題だ。メディアでも多く取り上げられ、大手スーパーや食品メーカーが視察に訪れるという…凄まじい店。
私も東北で暮らしていた時に、名物のおはぎを買うためによく行った。
秋保名物さいちのおはぎ。最後の晩餐にしたいほど美味しい
やがて、私は東北を離れる日が訪れ、「主婦の店さいち」のファンとして、記念にこちらの本を購入。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」
「主婦の店さいち総菜弁当全集」2012/4/1発行,日本食糧新聞社
さいちの名物のお惣菜を集めた、いたって真面目な書籍……。
と思いきや……?
お総菜やお弁当を説明するためのキャッチコピー・説明文にもかかわらず、
が、ややお強め。
その結果、美味しさが一向に伝わらない場面も…。
たとえばコチラ。
パンなのにすし詰め状態
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p95より引用
昇太師匠が「座布団1枚」と言うかどうかはわからないが、ウケを狙ったキャッチコピー。コピーライターのどや顔が目に浮かぶようである…。右下の見どころをみても、「見どころ」なだけに、肝心の味はよくわからない。
このように、「主婦の店さいち総菜弁当全集」では、自我が強い独創的なキャッチコピーを堪能できる。ちなみに全部で100ページ以上あるのだが、毎ページ楽しめる素晴らしい作品だ。
ここからは、本書の中で特に秀逸だと感じたキャッチコピー・説明文を紹介したい。グルメライターの皆さんにも、ぜひ参考にしてもらえると思う(多分)。
うまいことを言おうとして「?」シリーズ
グルメレポで比喩を使うことは多いが、本書はかなり独創的。ときに、うまいこと言おうとしたのに伝わらず「?」となってしまうことも。
まずはコチラ。
能あるコロッケはカニを隠す(クリーミーコロッケ)
能あるコロッケはカニを隠す
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p92より引用
クリーミーコロッケはカニ肉入りにもかかわらず、商品名にカニが入っていないということが言いたい。
でもカニは表示したほうが親切では?
はらこめし「楷書のような丁寧な盛り付け」
楷書のような丁寧な盛り付け
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p36より引用
イクラやサケの盛り付けが丁寧で、一筆一筆を正確に書く楷書のようだとのこと。グルメ本に突然「楷書」という文字が出てこられても、まさかフォントのことだと思うまい。
その一方…専務のコメントは
ヌルヌルではなくプリプリでドンドン
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p68より引用
専務コメントはほぼ擬音。俄然わかりやすい。
ポークハムカツ「豚のしっぽよりハムの口」
豚のしっぽよりハムの口
見どころ:(略)「鶏口牛後の諺」の通り、豚カツのキリよりハムカツのピンの方が勝るのだ。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p68より引用
WHAT?
比喩の大渋滞。読み手の読解力を試される一文である。
メイン食材に一切触れないパターン
メイン食材そっちのけで、パッケージや脇役ばかり褒めちぎるパターン。
凡人とは異なる視点を提供してくれる、ライターには非常に参考になるコメントである。
見事なバランのメークアップ術(鮭弁当)
鮭、ホタテの煮物、唐揚げとおいしそうな食材が並ぶにもかかわらず…まさかのバラン押し。
見どころ:左側のバランは淡い色のサケ塩焼きを白飯に同化しないように分離し、主役にふさわしい存在感を創出している。またギザギザが波に見え、サケが泳いでいるような躍動感がある。(以下略)
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p32より引用
鮭に躍動感をプラスするなら、バランをお試しあれ!
主役を作り出すブラックカーペット(ひじき弁当)
主役を作り出すブラックカーペット
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p54より引用
主役であるヒジキ煮の下に敷かれた海苔(ブラックカーペット)を大絶賛。
一方で主役のヒジキ煮は……。
見どころ:
(略)影が薄く、いつも日の当たらない存在だったヒジキ煮が、この弁当の中ではりりしく「ヒジキ弁当」の主役として輝いている。だがそれは残念ながらヒジキの実力ではない。白いご飯に敷かれた海苔のおかげなのだ。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p54より引用
ヒジキ煮に残酷な現実をつきつける。毒舌コメントも時には必要か。
小さなちりめんで大きな効用(ふきの煮物)
小さなちりめんで大きな効用
見どころ:(略)食物繊維くらいしか取り柄のないフキにカルシウムが加わって栄養的にもよくなっている
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p85より引用
こちらもメイン食材のフキではなく、ちりめんじゃこについて解説。そして無慈悲にフキをディス。
せめて、フキに対する優しい言葉はないかと探したが……。
専務コメント:
(天然物のフキは)皮をむくのが大変で、たまにやめたくなる時もありますが、季節感を提供するのが礼儀作法だと思ってがんばってます。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p85より引用
……専務が言うなら仕方ない。
まだまだある!独特すぎるキャッチコピー
気になるキャッチコピーを一挙ご紹介。
最後まで絶頂感が続く 均等面状具材(おかかおにぎり)
最後まで絶頂感が続く 均等面状具材
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p78より引用
おふくろの味である「おかかおにぎり」と「絶頂感」の異色コラボ。さらに「均等面状具材」というパワーワード。
「均等面状具材」? それはなんや。おにぎり業界で使われる専門用語もしれないとググったところ、特にそうでもない様子。つまり造語。
科学的根拠のある安定感(ハンバーグ弁当)
科学的根拠のある安定感
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p49より引用
いやいや……ハンバーグ弁当の科学的根拠って何?
ミンチ肉とつなぎの割合か、あるいはソースの甘みと酸味のバランスと思いきや……。
「パセリ・卵焼き・プチトマト」の配置が信号機と一緒
ということらしい。
よく弁当を見ると、さして一列に並んではいない。
ふりかけの希望の星(鮭フレーク弁当)
ふりかけの希望の星
見どころ:脇役でも頑張れば主役になれることを世に示したことは、ふりかけや漬物にとっても大きな目標となるだろう。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p81より引用
鮭フレーク=ふりかけ界のムロツヨシ。
日本人の日本人による日本人のためのナムル(ナムル)
日本人の日本人による日本人のためのナムル
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p53より引用
©リンカーン
長方形と二等辺三角形のバランスが絶妙(サバの焼魚)
長方形と二等辺三角形のバランスが絶妙
見どころ:一見右上が空いているようにみえるが、これくらいの空間は必要で、蓋をしめて表示シールを貼ればちょうどよい。これほど見事な置き方はおそらくないだろう。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」p55より引用
焼きサバを詰めたら大体こうなる。
プロとアマチュアの違いが一目瞭然(さつまいも)
見どころ:この“さつまいも”はアルミホイルで包み、ビニール袋に入れ、袋の端をきれいに縛っているのだ。清潔感があり、どこでも持ち運びでき、とってもおしゃれ。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」 p97より引用
タピオカの次はさつまいもが来るかもしれない。
「主婦の店さいち総菜弁当全集」ぜひご参考に
今回ご紹介した「主婦の店 さいち 総菜弁当全集」は、お店のこだわりや真心が感じられる素晴らしい一冊。そして解説文もまた、やや自我が強めとはいえ、お店へのリスペクトを表しながら、味わい深く仕上げている。
コピーの付け方、お惣菜の盛り付け方、バランの使い方など、みなさんの生活に役立つ一冊であろう。