そろそろ寝ようかなと思い、部屋の電気を消して横になり目を瞑ってはみたものの、やけにムシムシする夜で、わたしはなかなか寝付けなかった。明日は朝が早いから、しっかり睡眠をとらなければいけないのにと思えば思うほど、さらにムシムシしてくる気がした。服を脱いだり、部屋の窓を開けてみたが効果はなかった。

 

こうなったらもう、ムシムシの元を断つしかない。とわたしは思い体を起こした。ムシムシの原因を見つけ出し、ムシムシさせないようにするのだ。

 

わたしは部屋の電気をつけ、ムシムシの元を探した。箪笥の引出しの中身をひっくり返したり、床に散らばった本や雑誌をどけながら部屋の中をうろついているうちに、苛立ちのせいもあるかもしれないが、ムシムシ感はさらに増した。どこだ。ムシムシの元は一体どこにあるんだ。そして本棚の前を通り過ぎたとき、ムシムシ度数はついにピークに達した。それで気づいた。これだ!

 

本棚の上には、ラジオがあった。ムシムシの原因はこれだったのだ。

ラジオの前面に、丸い小さな穴がたくさん空いた箇所がある。ここからムシムシが出てくるのだ。そうに違いない。絶対そうだ。

わたしはガムテープを何重にも貼ってラジオのスピーカー部分を塞いだ。

 

よし、これでようやく眠れるぞ。わたしは部屋の電気を消してまた横になり、目を瞑ってみた。ところが、やはりまだムシムシする気がする。気がするどころか、さっきよりもっとムシムシしているとさえ言える。こらえきれなくなり飛び起きて、わたしはまたムシムシの元を探した。

 

次にあやしいのは、電話だ。電話の受話器にも小さな穴がたくさん空いた部分がある。

そこからきっとムシムシが出てくるのだ。そうに違いない。わたしは受話器の受話部分をガムテープで塞いだ。そして、電気を消してまた横になり、また目を瞑ってみたが、
やっぱりダメだった。さっきの二倍、ムシムシした。

 

それからテレビ、パソコンから目覚まし時計まで、あらゆる機器のスピーカー部分を
塞いでみたが、それでもムシムシはおさまらなかった。

 

いったい、どうなっているんだ。どこからこのムシムシは出てくるんだ。むせ返る程のムシムシ感のせいで、呼吸すらまともにできなくなってきていた。呼吸?

自分の呼吸に意識を向けたことで、わたしはようやく気付いた。

口だ。自分の口からムシムシが出てきているのだ。

 

ついにムシムシの元をつきとめたわたしは、口や鼻で二度と息ができないように、ガムテープで自分の顔をぐるぐる巻きにして、そのままベッドに倒れ込んだ。

 

はじめは苦しかったが、しばらくすると嘘みたいにきれいさっぱりムシムシを感じなくなり、やがて何も感じなくなった。そうしてやっとムシムシから解放され、同時に生の呪縛からも解放され、ようやくわたしは寝ることが、もとい、死ぬことができた。

 

あ、間違えた!

 

 

(青木誠一郎(紳士)の日記)