「行ってみたい。あのお寿司屋さんに…」
気になってる女性からのライン、倒置法だった。
そこは新鮮で食べごたえのあるネタと手頃なお値段が評判の回転寿司屋さんで、目玉は毎日ランダムに販売される本日のイチオシ商品。マグロの握り3種が200円だったりするらしい。
金さえ無いが、自分の生を1、2日削る事でトントンに出来ると判断し、快く「うん! 行こう! お寿司楽しみ~~~!!(寿司の絵文字)」と返事をした。
当日。
お店に到着。お寿司屋独特の良い匂いに包まれながらカウンターへ腰を掛ける。
「いい店だ」
回転寿司の中でもランクの高いお店というのがその雰囲気でわかった。
しかし、それ故怖い。お会計が。
ただ、悟られてはいけない。財布の中身!
「本日のおすすめアジだって!」 とか言って女の子の視線をそらし、じっくりメニューを見る。
ペラッ
やはりそうか。このお店、100円のお皿から600円近いお皿まであるタイプ。
この時に重要なのは男の余裕を見せながら100円皿と120円皿のネタを丸暗記し、その中でわりかし価値が曖昧なものを頼むこと。
100円皿の色が白なので偏りがバレそうなもんだが、その場を盛り上げれば大丈夫。
「おいし~!」
「うまままま~!!」
「(笑)」
その日はご覧の通り、かなり楽しい時間を過ごしていた… はずだった。
カランカラン!
店内に鳴り響くベルの音。これは一体?
「只今から 子持ち昆布 のお寿司を限定販売いたします!」
噂に聞いていた本日のイチオシ商品だ。まぁ、子持ち昆布は別に今度でこれはスルー…ん?
あ!
お皿白じゃん!
シャリの上には正月かと思う程の量の数の子が乗っかている。これで100円!? お腹溜まりそう! うわ! めっちゃ食べたい!
そして子持ち昆布… なんか通っぽい!
「すみません! そのお寿司ください!」
「あい 何皿?」
「じゃあ4皿で!」
「今最後の5皿なんだよねー」
「じゃあ5で!」
完勝か…
「ちょっと! 頼みすぎ~! 私1皿しか食べないからね!」からの4皿僕でお腹は満たされ笑いも取れる。
この時、完全に安堵していた。
「はい、子持ちお待ち」
手にとるその瞬間まで…
「え!?」
思わず声が出た。
この子持ち昆布…銀の皿だが?
落ち着け。「あざす~」なんて受け取りながら辺りを見回す… 見つけた、お皿の番付表。銀の皿は… 400…Yen?
5×400=2000円
「はい子持ち。一皿ずつでごめんね(笑)」
う、うわあああああああ!!
これ以上受け取りたくないのにそれを断ることも出来ずに受け取るしか無いこの悪夢…
消えるっ…!2000円!
歪む歪む…! 握る握る…!
「はい あと 2皿 ね」
限りなく続く射精のような… この感覚。
「あ… ああぁ…」
それに追い打ちをかけるように
「銀のお皿だ! じゃあ私もー…赤貝で!」
「!」
「冷凍と生どっち?」
「じゃあ生で!(黒のお皿。500円)」
「生でぇ~!?!?」
・・・
その後はもうどうでも良くなりお寿司はもちろん茶碗蒸しに揚げ物。そしてプリンも食べた。
もちろんお会計は僕が済ましたがその後その子は普通に帰ったし、家に帰ったらナスが腐ってた。