私は『ギャル医者あやっぺ』や『宇宙になった黒ギャル』など、ギャルが出てくる漫画をよく描くので、「ギャルのお知り合いが多いんですか」と聞かれることが多い。
いない。いないのだけど、私はたった一度だけギャルとまともに会話をしたことがあって、そのときのわずかな記憶をたよりにギャルのキャラクターをつくっていると答えている
今回はその、ギャルと交わしたたった一度だけの会話についてお話ししよう。
それは私の中学時代までさかのぼる。
私の通っていた中学は、その地域では有名なヤンキー校であった。窓ガラスは割られ、トイレの床にはたばこの吸い殻やコンドームが落ちていた。シンナーを吸っている生徒もいた。特に私の学年は極悪世代と呼ばれ、男子の8割くらいはヤンキーだったし、女子もほとんどギャルだった。
その中で私は見た目も地味で、無口だったため、誰にも絡まれることなく、うまいこと生きられていた。このまま不良たちと関わることなく人生を終えるはずだった。
しかしそれは突然おとずれた。
スキー合宿のときだった。消灯し、先生たちの見回りが甘くなっていた深夜2時ごろ、私の部屋にギャルが入ってきた。もちろん目当ては私ではなく、同じ部屋にいたヤンキーの男たちである。
寝たふりをしていてもよかったのだが、スキー合宿という稀有な状況に少し私もテンションが上がっていたので、気づけばヤンキーたちの会話の輪に混ざっていた。いや、正確には混ざれてはいなかったが。
消灯後の部屋の行き来は禁止だったため、いけないことをしている感じがたまらなかった。それまでギャルどころか地味な女子とすらもまともな会話をしたことがなかった私が、いけない空間で、いけない格好(薄着)をしているギャルを目の前にしている。
「これ誰のー?」
ギャルが、私の飲んでいた缶のウーロン茶を手に取った。
おれの、と答える間もなく
「もらうねー」
と言って私の口をつけたウーロン茶をごくごくと飲みだした。まだ開けて間もなかったが、全部飲まれた。
間接キス、といえば聞こえは良いが、女子に免疫が全くなかった少年にとって、自分の体液の一部がギャルの体内に入っていき、血となり肉となるさまは衝撃であった
ヤンキーの一人が「それ大久保のだよ」と言った。
大久保とは私の本名である。
するとギャルは消灯時間とは思えないバカでかい声で
「えーーーー!!大久保との子ども妊娠しちゃうじゃん!!!!!」と叫んだ。
私が拍子抜けしていると
「ごめん・・・ウチ・・・大久保の子ども育てられるかわかんないから、妊娠したらおろすね。」と真顔で言われた。
私は「わかった」とだけ答えた
以上が私の人生の中で唯一の、ギャルとの会話である。
そのとき私の中ではっきりと、ギャルに目覚めた音がしたのがわかった。
その音は今もなお、鳴りやまない。