土曜日。ボウリング場はかなり賑わっていた。
レンタル靴を持って指定された7番レーンへ向かう。
隣の8番レーンには大学のサークルの集まりだろうか、20歳くらいの男女6人のグループがいた。
男3・女3でボウリングって、理想の組み合わせで最高の遊戯かよ。
こっちは男が3人。
負けじゃん。
いいなぁ……。
いや、人数構成では負けてるけど、成績はどうなんだ?おい!
ボウリングは成績がすべてなんだよ!
8番レーンのスコアモニタをちらと見ると、成績よりも先に目に飛び込んできた文字があった。
「よしだ」「かおりん」といった普通のプレイヤー名に紛れ、「ゴリラ」がいた。
すごいストレート。
小学生でももうちょっとひねったあだ名つけると思うけど。
その大学生グループをそっと見たが、ゴリラっぽい見た目の男はいなかった。
ゴリラって、誰?
見た目じゃなくて、内なるゴリラってこと??
何それ?
すると、ちょうど8番レーンのモニタに
「ゴリラさん 投球してください」との表示が。
ゴリラの番!
だが、前に出てきたのはごくごく普通の女子大生だった。
え?
待て待て待て待て!
この人がゴリラ!?
どこがゴリラなんだよ!
ゴリラ要素ゼロだろ!
混乱。
彼女がなぜゴリラと名乗っているのかを考えた。
◆ ゴリラに育てられた説
◆ ゴリラを飼っている説
◆ 本名説
◆ ゴリラを殺めてしまったので、その贖罪のため説
◆ “エリカ”と書いていたのだが、スタッフが見間違えて“ゴリラ”と入力してしまった説
そんなわけない仮説ばかり浮かんでくる。
なぜだ、ゴリラよ。
そんなゴリラはオレンジ色のボールを取り、レーンに向かって歩き出した。
◆ 四足歩行説
二足歩行だった。
待てよ。ゴリラなんだから凄まじいパワフル投球をぶちかますのではないか?
◆ パワータイプ説
特に構えなどもしないまま歩いたゴリラは、レーンにボールを放り投げた。
ズドン!!という重い音が響く。
想像していたパワフル投球じゃなかったけど、ゴリラの理由、これか??
と思ったが、後ろで投球を見ていた他のメンバーが特に騒いでいなかったので違うだろう。
ボールはのろのろとレーンを転がっていく。
手持ち無沙汰そうにモジモジするゴリラ。
やがてピンに当たり、貧血になった生徒のようにバラバラ……と倒れだした。
なんだこれ。
ボウリングの爽快な部分を全て削ぎ落としたみたいなやつ。
しかもストライクだった。
ストライクを獲得したゴリラは、キャッキャ言って小躍りしたあと、
仲間たちのほうへ向かっていった。
◆ 興奮すると胸をドコドコ叩くから説
説立証ならず。
ゴリラと大学生たちがハイタッチしようとしている。
もしかして!
◆ 握力がヤバイ説
危ない!!ゴリラとハイタッチをするな!
そのまま手を握られて骨砕かれるぞ!!
超普通のハイタッチだった。
しょうもない妄想をして集中力の欠けていた自分は、言うまでもなく散々な成績だった。
これを書くときに、彼女がゴリラと名乗っていた理由をもう一度考えてみたが、やっぱりわからなかった。
ゴリラさん、あなたはなぜゴリラなの?