申し訳ない事をしたっていうか、些細なことだけど無責任だったな。なんて思い出ってある。

 

高校に進学したあの日。知り合いが一人も居ない中で、僕は月並みに緊張していた。

 

僕が受かった高校は「都立ハイパーミラクルおバカ高校」と言われても文句の言えぬ程のバカ高で、

となると勝手なイメージでなんとなく怖い人達が多い気がして、入学早々「早く友達を作らねば!」なんてあくせくしてた。

 

入学式当日の事だ。その日は式の後に身体測定や、校内見学等、色々な行事があり、クラスに戻っては保健室に行ったりと、移動がとにかく多かった。

 

その時、既にコミュ力がグンバツの奴らはすぐに和気あいあいと教室移動を楽しんで、完全に他から頭抜けている様な状況だった。

 

「まずい」

 

多分、僕以外のクラスメートもそう思ってたはずだ。

 

「このままじゃ一人になる」

 

体育の準備体操の鬼門、「二人組を作ってくださーい問題」。友達作りレースはもうこの時から始まっている。ここでいち早く友人を作らねば完全にあぶれる。

 

気づけば周りのメートもここぞとばかりに話しかけ、あっという間に僕は孤立した。

僕は負けを認め、先頭に行く訳にもいかずノロノロ動く列の最後尾に着くことにした。

すると、トボトボと歩く僕より先にレースから外れた者が一人。僕はすかさず、

 

「みんな歩くの遅いね!」

 

と、声をかけた。そいつは少し驚きながら

 

「そうだね」

 

と、答えてくれた。

 

「えーと君の名前は?」

 

「中町…えーっと」

 

「あ!僕?僕はみくのしん!兄弟家族みんな普通なんだけど、僕だけ名前変じゃない?アハハハ」

 

「うん」

 

中町くんは色白で小柄、天然パーマで物静かな感じの子で、当時の僕は多分こんな感じで激ウザだった。しかし、この程度のカードしか切れない空っぽの僕には、それが精一杯だった。

 

「僕は中学の時吹奏楽部だったんだけど、中町くんは何部だった?」

 

「帰宅部」

 

「そっか」

 

地味な地雷だって踏むが気にしない。

 

「…あ!じゃあゲームは?みんなするんでしょ?ドラクエとか!中町くんはやってる?」

 

「うん」

 

「おお!僕Ⅳだけやった事あるんだけど、アレ難しくてダメね。トルネコの所でお金貯められなくて詰んじゃったよ…あれ無理じゃない?」

 

「Ⅳだけやったこと無い」

 

「そっか」

 

ごめん、無理だった。

二人の会話は盛り上がらず、何度か言葉を投げたが返ってくる言葉は全てゴロだけで、それから会話をする事は徐々に減っていった。

僕は次第に友達も増え、はしゃぎながらお昼を食べたりしていたが、不意に目に入る中町くんは教室の隅で一人、本を読んでいてなんだか寂しそうだった。

 

二学期に入ると中町くんは学校に来なくなり、ある日担任から転校する事が決まったとクラスに報告してきた。

いじめは無かった。ただ、クラスとの相性がよくなかったのかも知れない。

その日の放課後、何故か担任に呼び出され、中町くんから僕に伝言があるとの事で話を聞くと。「あの時話しかけてくれたのが嬉しかった。ありがとう」と言う内容だった。

 

僕は何とも言えぬ気持ちになり、その日は歩いて家に帰り、いつもより遅い時間に床についた。

 

中町くん、今頃どうしてるのかな。

 

 

 

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