シモダ拝啓 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン様
先日、期間限定で設置されていたホラーアトラクション「トラウマ３」に参加させていただいたシモダと申します。
非常に怖い体験をありがとうございました。まさか30分以上も出られないお化け屋敷がこの世に存在するなんて夢にも思いませんでした。
長い病院の廊下を歩いてると電気が消え、懐中電灯で前進していくときの没入感は凄まじいものがありました。最悪にグロテスクだった演出の数々は今も脳裏に焼きついています。
ただ、一点だけいいでしょうか。
本当に、ただ一点だけの「苦情」でございます。
腹を掻っ捌かれた患者が手術台に乗せられて「たすけ…て…」と呻いてるあの部屋でのことです。
案内役であるイカレた医療職員は「手を出せ」と命じ、その患者の臓器であった「腸」をアトラクション参加者の６名の手に端から持たせていくあの演出。
僕は最後尾にいたので、腸は左のほうから順番に持たされていきました。びろんと伸びていく腸。それぞれの手に置かれて腸は一本の線になってゆきます。
そして僕の一つ隣の人で腸の長さは限界がきました。
足りなかったんです。長さが。
６番目にいた僕にだけ、腸は届かなかったんです。
「嫌だなあ」「持ちたくないなぁ」
そんな風に思いながら僕は腸を待っていました。
触った瞬間のぬめりなどに驚かぬよう脳内でシミュレーションを行い、深呼吸をして悲鳴をあげぬ覚悟を決めたりもしておりました。
でも、腸は僕に届かなかった。
どうしても足りなかったんです。長さが。
ギブミーチョコレートをみんなでしたのに、なぜか僕だけ米兵からチョコレートを貰えなかった、そんな気分でした。
その瞬間、あんなに持ちたくなかった腸が、持ちたくてしょうがない腸へと変わりました。僕は、腸が持ちたかったんです。
でも、僕の手には腸は届きませんでした。
隣にいるお客さんまでしか腸の長さは足りてなかったのです。
隣の人の腸が羨ましい…。
僕の手には何もないのに、隣の人の手には腸がある。
僕は酷く落胆し、こんなに惨めなことが人生にはあるんだと悲しみに暮れました。
そんな僕を見かねてか、隣にいたお客さんが持っていた腸をぐっと伸ばし僕の手においてくれたのです。
腸を手に出来なかった格下の者へ、腸を自然な形で与えられた格上の者が与える慈悲。
その目は可哀想な者を見る目、でした。あんなにも惨めな思いは初めてでした。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンさん、どうか僕の犠牲を無駄にしないでください。
またいつか、誰かの手に腸を置くという話になったとき「すこし長めで作ろう」その一言だけは忘れないようにしてください。
どうか僕の悲しみが連鎖を生みませんように。
