第33回「それはまるでフェスの時間割のように
  

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OP/いとしいご主人様 ED/悲しみのラブレター
唄/森の子町子

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みくのしんpresents『仕事に行く直前の悲痛な叫びコンテスト』

仕事やバイトに行く直前、家を出るのが嫌すぎてつい出てしまう雄叫び!
その瞬間のあなたの声を録音して送ってください!

宛先は kamamicu@gmail.com まで!

 

その他、ご意見ご感想ありましたらこちらからお願いします!ピュオイピュオイ!!

 


 

 

 

 

 

 

 

 

貴方は龍で私はデグー。彼氏はゴーレム、優しいゴーレム。

 

「オレ…お前…スキ…」

 

デグーな私は約3年前、優しいゴーレムに告白された。

その頃の私は誰を好きとか嫌いとか駆け引きがどうとか、そんな煩わしい色んな事がもう嫌になって婚活を始めていた。

婚活と言っても身の回りにいるちょっと気になる方とデートに行ったり、結婚相手としてどうか見る位のもの。今となってはデグーの私が何様なんだと思う。

ただ、私は安定が欲しかった。家に帰れば誰かに「おかえり」と言われたいし、言ってあげたかった。本当にそれだけ。

自分で言うのもあれだが私はモテる。
周りの女子がオレンジレンジを聴いて盛り上がってる頃にAKIRAを読破しこの世の全てをわかったような顔で男の子とゲラゲラ喋ってた。
今で言うオタサーの姫なのかもしれんがそういう訳では断じて無い事だけは言いたい。マジで。時をかける少女の真琴みたいな感じを想像して欲しい。マジでそれだからさ。アニメの方ね。

脱線したけどそもそもが人懐っこい性格で人から好かれやすいというのが大きかった。
だからこそ友人の状態から好きになると相手に気づかれにくいし、自分から好きになった相手と付き合えたことがない。
うん、コレは完全にモテるっていう表現は違うな。すまんこ。

まぁそんな私が幾つかの恋愛を乗り越えて、次に付き合う相手は結婚を前提で考えよう。なんて思っている時に告白されたのが優しいゴーレムだった。

 

「一緒…住モ……オ……」

 

ゴーレムに告白された事がある人なら「あるある」とわかってくれると思うが、偏見とかは置いといてゴーレムはマジの人見知りなのだ。
だもんで告白なんかする時は勇気を死ぬほど振り絞ったんだと思う。なのでモジモジが激しくて、告白してる時のゴーレムの足元は擦れた岩のクズがすごいのだ。

 

「ありがと」

 

出会いは昔働いていた職場だった。彼はゴーレム課に属していたので知り合うことはなかったのだが、会社の避難訓練でたまたま知り合って、積極的に(めっちゃ遠回しで)デートに誘われ5回目の今、告白されたのだ。

 

「デグーな私で良ければ…よろしくお願いしま…あ!わかったからわかったから!喜んでもらえるのは嬉しいけど体が擦れて岩が落ちまくってるから!!落ち着いて!」

 

女子はおろか男友達だってろくに作れず、優しいゴーレムはいわゆるコミュ障だった。
そのくせデートに誘って会うたんびにめちゃくちゃなアタック(物理ではなく気持ちの)と、私がいるだけで喜んでくれている事が手に取るようにわかって嬉しかった。、

なにより「一緒…ダト…楽…シイ」なんて目の前で言うもんで私もまんざらでもなかった。まぁ、相も変わらず岩のクズを落としていたけど。

 

「でも優しいゴーレムさん…一つお願いがあるの。次付き合うのは結婚する人としか付き合わないと決めているの…それでも…あ!あーあ!!!わかったからわかったから!岩がすごいなアスベストがよぉ!」

 

そう、伝えた。今思えば何様なんだなんて思うかもしれないけど、こちとら恋する乙女最前線。自分の見てる景色がセピアに見えてるようじゃ恋なんてできないぜ?

でも彼は、それでもいいとうなずき。体を揺らし、手をたたきながら喜んだ。隣で農作業しているおじいに「よそでやれ」と怒られた。

稼ぎが特別あるわけでもないしイケメンでもない。だけどこの人なら一緒にいれる。そう思って付き合うことにした。

その頃は普通の恋人ように毎日が楽しかったし姿形が違うお互いを知っていく事が何より楽しかった。
私はゴーレムの首根っこに掴んで散歩するのが大好きで、「景色…見エ…ル?」なんて言われながら、適当に「うん」と言い、彼の背中の大きさやぬくもり、優しさを感じるだけで幸せだった。

ただ、そんな良い関係が悪い意味で続きすぎた。

来月で付き合って3年になろうとしている私達は、いつの間にか熟年夫婦の様な距離感で生活してる。

仲が悪いわけでは無い。なんだろうか。多分、完全に知りすぎた。
私にその感覚はわからないけど、よく妹がいる男の子が妹の裸を見ても一切興奮しないのと同じだと思う。そのくらいの域にまで達してしまったのだ。もう優しいゴーレムは家族なのだ。

変わり映えのしない平和な毎日を、これが一番の幸せだと肯定するように作った笑顔でおどけて見せて、仕事に行った彼を見送った後は、決まって石のような表情でカップ麺をすすっていた。

 

結婚てこんなもんなんだな。
まだしてないけどわかったよ。
だからといって別れる理由なんてありゃしないさ。
だったらどうする?ここで子供でも作るか?
はぁ…最悪。

それでもカップ麺を食べ切れる私はきっと悲劇のヒロインには向いてない。いや、何が悲劇だ?幸せだろーがばかちんが。

 

そんな毎日が続いていたとある梅雨の日。

 

「今さ、昔の仲良しメンバーで飲んでるんだけどデグーもどう!?(^o^)ノシ」

ザーザー雨も降ってんのにご苦労なこった。どうせ雨の日特典とレディースデイのW恩恵だけを受けに行くだけの耳くそ飲み会に違いない。

「龍も来てるよ~!!」

え?龍も?

龍というのは昔の知り合いで、ついこないだまでバンドマンとして頑張っていたがその夢を諦め、今は㈲ドラゴンズドリームの社員として頑張っているらしい。㈲ドラゴンズドリームが何なのかは全く知らん。

 

ともかく龍がいるなら…言ってもいいかとお気に入りの長靴を靴箱の奥の方から取り出して、「やっぱこの靴好きだな-」とニマニマしながら家を出た。

いやぁ~龍かぁ~懐かしいな~。よく泥酔して吐いてる時に「滅びのバーストストリーム~」って隣で叫んでイジってたな~。今日もあんのかな~

と、あんなに億劫だった飲み会が急に楽しみになり小走りでお店に向かった。その癖店についたら着いたで遠くに飲んでいるみんなを目撃したのに見つけてない素振りをして「お~い!コッチコッチ~」を待っていた。そう、私は楽しんでいた。

ルンルンで席に着くとベタなリアクションがドロドロとふじいあきらのトランプマジックのように口から溢れ出た。

 

「あれ?もしかして…龍…?」

「あ、デグー久しぶり。元気してました?」

 

ニコっとサラっと龍は笑った。

私はその瞬間、音速に恋をした。綺麗な翡翠の衣を身に纏った素敵な龍に、恋をした。比喩表現ではなく目の前に火花が散ったし、まわりに花が咲いた。コレは本当。

私の周りだけ時間が止まっているの???ねぇ?まって!!心拍数が爆上がり!!!ネズミの寿命舐めないでよね!!死んじゃうよん~~~~!!!!

 

私は頭がパッパラパーか。

 

久しぶりに会った龍は昔のように地味でパッとしない見た目ではなく、髪を切って、セットして、体もちょっと引き締まって、そしてー…そしてー…角もなんだか光ってた。

そこからちょこんと龍の横を陣取って、龍と目があっては頬を赤く染め、両手でホットワインをちびちび飲んだ。

 

 

あぁ…
かっっっっっっっっっっっっっっこいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!

 

いや!可愛さもあるよ!!もちろんね!!あの頃の良さもあるの!でも!なんか大人になったーーーって言うか!!えー!!こんなに龍らしくなる~???みたいなっ!!!例えて言うと?えー!!!う~ん…例え・る・な・ら~~……あ!わかりやすく言うと遊戯王カードのワイバーンからエメラルドドラゴンになったくらい変わった!!うん!!それくらい変わった!!え?ワイバーンは鳥獣族?いやん!んもうっ!!なんでもいいわ!あーーーーかっこいいいいいいいいいいいいい~~~~!!!!!!

 

「楽しかったですね」

 

「はっ!」

気付いたら会は終わっていて、私は龍と連絡先を交換した。

「また飲みにでも行きましょう。久しぶりに会えて嬉しかった。それじゃ」

そう言うとバサッと大きな翼を広げて豪快に帰っていた。

こんなにキュンキュンしてるのは私がネズミでデグーだから?

 

後日、気づいたらその日の彼の写ってる写真を見返しながら会いたいなーって思ってる自分がいた。
その時から龍は私の生活の潤いだし、ご褒美だった。

たまに会って、一緒に話して、ときめいて、楽しむ位で良かった。
友達同士で遊びに行くだけ、そういう風に見せてたし、それ以上を望んでも何も返ってこないって分かってた。
けど、そんな状況に苦しさも感じてた。何回2人で会ったかは覚えてない。何故なら期待しては諦めてを繰り返してたから。

いつの間にかに龍も私の誘いにたくさん答えてくれるようになり、連絡もいっぱいするようになった。

ある日のデート。いや、私がデートと思ってただけか。

 

朝からマチュピチュに行って、その場でお昼を食べ、その後は下北沢で古着を見ながら落ち着いた後、帰るよー。みたいな空気が出てた。

私は帰りたくないの一心で、その場で隠れて小さいゲボを吐き散らし、お腹減らない?なんて無茶苦茶な理由で飲み屋に誘った。

「いいよ。じゃあココが良いかな」

ただ、龍が選んだ店は定食屋だけどお酒も飲めるよ?みたいなお店。

…帰りたいんだよね…わかっっっっってる、マジで。私も疲れたよ。マチュピチュも遠かったしさ。途中のサンマルクカフェで落ち着いた辺りからわかってた。

でも…まだ…一緒にいたいじゃん!!!!!もう話も途中尽きてたのは知っていたけどさ!!!っておい!!!そうこうしてる内に普通に定食頼んでんじゃん!!!!

 

 

お酒…頼んでよ…

ダラダラ…しようよ。

 

 

「初めて行ったけどマチュピチュって遠かったね。羽、疲れちゃったよ(笑)」

誘った癖に話題も出さず、一分一秒一緒にいたいだけ。それなのに何でそんなに優しいのか。

頼んだ定食が減っていくのを見ている時間が何でこんなに悲しいものなのか。

あぁ…何で…もうこんなに食べ進んで…あぁ…

 

「…龍、さ。このお店デザート美味しいらしいよ」

「んー…今日はいいや。また今度にしよう」

 

完全に手元から離れていくのを感じる。あぁ、龍が離れていく…

店を出ると私は思わず想いの丈を伝えてしまった。

 

龍は、やさしく「ありがとう」と「ごめんなさい」の二言をだけを放ってゆっくり歩いて帰っていった。龍の背中が見えなくなって程なく。寝ている人を起こさないで帰るようにしてっゆっくりと飛んで行った。

 

 

今年の冬は寒いのね…死んじゃうよ…あっという間に夜に消えてく龍を見送り放心状態の私が家に帰ると

 

 

「オカエリ…!!生肉…アル!!!!!」

 

 

いつものような作り笑顔が出来ない私はこのゴーレムと今後どうしていけば良いのだろう。

もしさっき、龍と付き合えることになったらゴーレムは?

 

多分私はこの関係がどうなっても被害者の顔して生きていく。

そう思うと、気が滅入る。

 

bye!!