はじめまして。ライターのEmaと申します。日中はウェブライターとして活動しながら、2人の子どもの母をしています。
子どもの誕生とともに絵本を読む機会が増え、「大人になってから読む絵本も面白い」という発見があったため、この場を借りてみなさんに共有させていただきます!
▼作品概要
作者 得田之久
出版年 1974年
昆虫たちは、それぞれすむにふさわしい場所をもっています。身近な昆虫を中心に、彼らがどんな場所にすんでいるのか、美しい絵で紹介します。作者が新しい図鑑に挑戦した野心作。
「昆虫 ちいさななかまたち」は昆虫図鑑と絵本の中間のような作品です。ページをめくるたび、美しい虫たちが数多く登場します。ストーリー仕立てになっているので、虫たちの世界観に入りやすくなっています。 大人も知らない知識が得られるので、親子で楽しめますよ!
と…ここまでは、普通の絵本の紹介なのですが今回注目したいのは、巻末にある「さくいんとかいせつ」です。
たとえば、p7にアカシジミというチョウが登場するんですが「アカシジミってどんな生き物だろう?」と興味を持ったら、ア行にある「アカシジミ」の項目をチェック。すると次のような情報が得られます。
■ アカシジミ(シジミチョウ科)
ギリシャ神話の西風の神ゼフィルスと呼ばれるシジミチョウの仲間。年1回6月から7月にかけ、雑木林に発生する。幼虫の食樹は、クヌギ、コナラ、開帳約40ミリ。
-「昆虫 ちいさななかまたち」7,9Pより引用
なるほど~ですね。このように作品に登場した昆虫の情報が詳しく書かれています。
しかし、なかには
虫関係なくない?
と突っ込みたくなるものもしばしば。
たとえば、スズメバチ。
-「昆虫 ちいさななかまたち」P23 より引用
作品を見た子どもとこんなやり取りをしました。
子「おかあさん、スズメバチってどんな虫なの?」
私「良い質問だね!よし、索引で詳しく見てみようね」
■スズメバチ(スズメバチ科)
この蜂に腕を刺されたとき見る見るうちに腫れ上がりシャツを切らねばならないほどであった。体長約40ミリ。-「昆虫 ちいさななかまたち」P23 より引用
?
解説、というよりも、作者と虫との思い出がつづられているものが多く、結果的に索引を読めば読むほど昆虫界の巨匠、得田先生に詳しくなれます。
ということで、あまりにも自由すぎる索引を4つご紹介します。
『昆虫 ちいさななかまたち』の自由すぎる解説
まずは、虫の解説のはずが虫以外の情報が大部分を占めちゃった…というものです。
たとえば、こちら。
■ベニシジミ(シジミチョウ科)
俗にいうスカンポ(スイバ)は、新しい茎を折ってしゃぶると酸味があっておいしい。このスイバやギシギシが幼虫の食草。かわいいチョウだ。開帳約35ミリ。
-「昆虫 ちいさななかまたち」P12,27 より引用
ベニシジミを調べたはずが、スイバの味や別名をインプットされるという。
「あれ? スカンポの説明文になってる!!」
と思われたのか、
「かわいいチョウだ」
とフォローしています。
まるで散々人の悪口を言った後に付け足す「でも悪い人じゃないよね」と似てます。
つづいては、夏の定番、ミンミンゼミ。
■ミンミンゼミ(セミ科)
子どもの頃、かくれんぼをしていて、松の根もとに隠れているうち寝てしまった。突然耳もとでこのセミが鳴きだし、びっくりしてとび起きたら、おにに見つかってしまった。体長約60ミリ。
-「昆虫 ちいさななかまたち」P21 より引用
あれ、これって昆虫の本じゃなくて夏休みの日記だっけ?
ミンミンゼミは体長60ミリということしかわからない上に、かくれんぼ中に寝ちゃって日が暮れると危険なのでよい子のみなさんは気を付けましょう。
つづいては、まさかの疑問形。昆虫界の巨匠、得田先生でもわからないことはたくさんあるようです。
■ヒグラシ(セミ科)
このセミの最盛期は真夏なのに、鳴き声を聞くと夏の終わりを感じてしまうのはどうしてだろう。体長約45ミリ。
-「昆虫 ちいさななかまたち」P20 より引用
問いかけで終わる解説は初めて見ました。こっちはもっと知らないよ!
最後に、一番衝撃を受けた解説を紹介します。
■ベニコメツキ(コメツキムシ科)
ときどき見かけるがこの成虫たちが何を食べどのような生活をしているのかは、さっぱりわからない。体長約13ミリ。-「昆虫 ちいさななかまたち」P32 より引用
時々見かけているにもかかわらず、ですよ。ある意味、すがすがしい気持ちになれる、名解説といえるでしょう。
ちなみにインターネットで調べたところ、ベニコメツキについて詳しいことはやっぱりよくわかりませんでした。あまりにも気になったのでつい調べてしまいました。出過ぎた真似をしてすみません。
と、このように、オリジナリティにあふれた「さくいんとかいせつ」をご紹介しました。まだまだごく一部。少しでも興味を持った方がいれば、ぜひ実際の作品をご覧いただきたいと思います。
あとがきより、作品に込めた作者のこだわり
普通、図鑑の解説は客観的な情報を掲載するものですが、こちらの作品は真逆。昆虫をこよなく愛する作者の主観的な情報がつまっています。
ちなみにあとがきにはこうあります。(あとがきの文章も実に読み応えのあるものでした)
図鑑が断片的な知識だけをあたえるということに、ウェイトをおきすぎているせいではないだろうか。
わたしはここに、ひじょうに独断的な解釈をもってこの図鑑を制作した。
-「昆虫 ちいさななかまたち」あとがきより引用
また、知的な世界とは縁遠い悪童たちも引き付ける作品にしたい、ともつづっています。
1974年の出版から現在まで、「昆虫 ちいさななかまたち」が長く愛されている理由は、作者の作品への強いこだわりと虫への愛情があったからでしょう。
今回は索引についてご紹介しましたが、もちろん本編もすばらしいです。構成、構図、ストーリー、いずれもほかの図鑑や絵本にはない、「どきどき」「わくわく」が詰まった作品です。
ちなみに「昆虫 ちいさななかまたち」には続編「昆虫Ⅱ そのくらしをみよう」があります。こちらは書店で取り扱いがなかったため、図書館の地下書庫から発掘してもらいました。
気になる索引をチェックしましたら、各虫たちの生息地域、見られる季節が加わりちゃんと解説になっていました。
しかし、得田先生らしいコメントはひきつづき楽しめますよ!