「俺らほんとゲットーで生まれ育ったわけだからさ、マジ生きていくので精一杯だったかんよ」
「ほんとそれ。こんな生き方しか選択肢がなかったよな」
「おまえらに出会ったことだけは良い出来事だったけどな」
「おまえマジわかってるわマイメ~ン。よし、今からスロット行こうぜ」
「ハア? ここはどこなんだよ! このガリ勉モヤシ野郎! 出せよテメエ」
「はいはいはい、うるさい」
「あ?」
「うるさいのよ君、さっきから」
「俺は本当にクソみてぇな貧民街で生まれ育って苦渋を……」
「現代の日本に生まれて、便利の象徴であるコンビニの横で貧民街って言われてもな~。君が子供の頃、夏休みにチューペット吸ってた間も、アフリカの子供なんてバタバタ餓死してたからね。一回もチューペット吸うことなく死んでいくからね」
「チューペット食べることを吸うって表現するな」
「凍ったチューペット割るのを失敗してグニュってなったりするのも経験せず死んいくからね。そもそも物質が凍るっていう状態を知らずに死んでいくからね」
「そりゃ確かにアフリカの子供に比べりゃ裕福だったかもしれねぇ。でもそれだけじゃねぇんだ。危険だったんだ……。ストリートで育ったヤツらはその中を生き抜いてきたんだ」
「君らはまじめにやるのが面倒くさくてワルになって、勝手に危険に近づいてるだけでしょ? 『生き抜いてきた』って、イヤなら他の場所に行けばいいじゃん」
「とか言ってないでさ」
「それは無理に決まってんだろ」
「なんでよ」
「実家住みだから!」
「まず母ちゃんにおまえを見放すっていう選択肢を与えてやれよ」
「働きもしないで母ちゃんに迷惑かけて、それで家族は大事だリスペクトとか言ってんのかよ。そりゃそうだろうよ」
「金だけの問題じゃねぇよ! 家族や仲間は俺を支えてくれる大事な存在なんだよ! それの何が悪い!」
「でもおまえが殴ったり金巻き上げたりしてきた人たちにも、みんな家族がいて誰かの仲間なんだよバ~カ!」
「それは……知らん!」
「他人のことは知らんけど、自分の仲間と家族は大事なんだ~ってか。おまえらのその過剰な仲間意識は何なの。何かあったらすぐに仲間呼ぶだろ? マドハンドかよ」
「ま、まどはん……?」
「仲間呼んで集まったら、何すんの? 君らみたいなのが、一体何を話すことがあるっていうの?」
「それは……将来の夢とか人生の不安とか、そういうことだよ!」
「違うでしょ? 『俺も昔は』……? ほらほら、いつものやつ言ってみて。『俺も昔はワルダッタワー』でしょ?」
「え? まあ、確かに昔はワルかったけどよぉへへへ。今は俺も丸……」
「おまえだってNARUTOで回想シーンが入るたびに『知らんから!』って思ってただろ?『うちはイタチとの確執とかどうでもいいから』って。1億3500万部も発行された漫画の準主役の過去さえ、他人にとっちゃどうでもいいんだよ。おまえの過去編なんて興味持てるわけねーだろ」
「いや あそこ泣くとこだろ」
「そういうのをこっちに押し付けてくんなって。君らって他人のことバカにするくせに、押し付けるの好きだよね。田舎の駅前で車にスピーカー積んで音楽ドゥムドゥム鳴らしたり。そのイモい曲をDJきどりで紹介するのやめてほしいわ~。他人に押し付けないと死んじゃう病気なの?」
「そっ……それは俺らだけじゃねぇよ! バイクにスピーカーつけてるライダーだっているし、中学生が自転車のカゴにiPhone入れて音楽かけたりしてるじゃねぇかよ」
「あと君ら、見た目は怖そうだけど喋ってみたら意外と良いやつだった、みたいな評価のされ方やめろよ」
「な、なんでだよ? 俺らだって意外と気さくだし、たまには良い部分もあるんだぜ」
「ムカつくから。だからやめて。今後そういう評価を受けた時には辞退して」
「何を言ってんだこいつ」
「君らが理由もなくムカつくっていう理由で小突いてきた者たちがいただろう? 僕と彼らは、君がほんの少しでも良い評価を受けたらムカつくんだ。それであいこだから、今後良い評価は断って。ね?」
「君らには良い部分はないし、将来の夢も人生の不安もないから。いつか君らの嫁になるプーマのジャージ着てショッピングモール歩いてる女も同様だから。わかった? ん?」
「なぜ俺はこんな奴のためにこんなメに……。そうか、俺たちが今まで迷惑をかけてきたやつらも、きっとこんな気持ちだったんだろう」
「わかった、わかったよ……。あいつは言ってた。みんな家族がいて誰かの仲間なんだと。だからこそ俺は、生きなきゃいけないんだな。そして、仲間と母ちゃんに伝えなきゃいけない……そういうことなんだな? わかったよ、俺は……」
完