「やめろー! やめるんや~!!!」
それは、花じいでした。
誰やねんという声が物理レベルで聞こえてきたので紹介しますと、花じいというのは、近所の公園に住みついていたホームレスです。
よく公園の花をムシャムシャ食っていたのでそう呼ばれていました。
「やめろぉぉぉ~!!!!」
なぜか花じいは山上くんにしがみついてケンカを止めようとしてくれたのです。
突然見知らぬホームレスに抱きつかれた山上くんは軽くパニックになっていました。
(山上くんの家はこの近所ではないので花じいのことは知らないのです)
「なっ、なんだこいつ…!」
「やぁめぇろぉぉぉ~!」
「テメェぶっ殺……うっ!? なんだこのニオイ!?」
離れた場所に立っている僕のところまで、花じい独特の変なニオイがしていました。
お風呂には入らないけど主食は花という、今まで培ってきたスメル概念が一気に破壊されるニオイでした。
「離せっ! くっせぇ! 離せコラ!」
「ハア、ハア、もうええ! 今度会ったとき憶えとけや!」
山上くんは去っていきました。
松ちゃんは鼻血は出ていましたが思ったほどひどいケガではなく、ホッとしました。
それにしても、と僕は思いました。
どうして花じいは僕らを助けてくれたのでしょうか。
当時の僕はホームレスなんて社会のゴミだと思って心の底でバカにしていました。
近所でも、頭がおかしいジジイがいるから近寄っちゃダメと言われていました。
でもそんな花じいが無関係の中学生を助けてくれて、自分はというと大事な友だちが殴られているのに怖くて何もできなかった…。
本当にゴミなのはどっちなんだろう?
ホームレスの花じいの方が、僕らよりよっぽど大事なものをもっているじゃないか。
「あのさ、花じい、ありが…」
ダッ
「やめろぉぉ~~~」