私には子供の頃から続けている、趣味というか習慣のようなものがあります。「架空の人の名前を考える」というものです。

思えば小学生の頃くらいから私は「人名」に興味がありました。テレビでアニメや戦隊ものの番組を見るときも、本編よりOP・EDのスタッフロールを見ることの方が楽しみだった記憶があります。いかにも異端っぽいエピソードで恐縮ですがこればっかりは事実なので仕方ない。

なぜ当時の自分が人の名前に惹かれていたのかというと、そこから「この世界は確かに存在しているのだ」ということが感じられたからではないかと思います。自分の人生には何の関係もない、生まれてから死ぬまで一度もすれ違うことすらないような人にも名前があり、そこには何かしらの由来や親の願いがこもっていると思うと、この世界の底知れないディティールの細かさに身震いするような気持ちになりました。子供の頃の私にとって、人の名前を知ることは「世の中」そのものに触れることと同等だったのです。

しかしそこから人名についての専門的な勉強を始めるといったことはなく、相変わらずテレビ番組のスタッフロールをぼんやり眺め続けるだけの凡童(ぼんどう)でしかなかった私ですが、自分なりに真面目に名前と向き合おうと思い立ったのが中学校に入学した頃のこと。そして、「架空の人名」を考えてはノートに書くということを始めたのです。

 

押入れの中を探ったところ、3冊のノートが見つかりました。

 

 

これらのノートには、私が中学生から高校生にかけて考えた架空の人名が記録されています(確かもう1冊あったはずなのですが紛失してしまいました)。

中身に触れる前にまずはビジュアル面に関しての説明をしておくと、一番左のノートが緑色に塗られているのは中学生のときの私がかっこいいと思って絵の具を塗ったからです。真ん中のノートの表紙には、この場ではとてもお見せできないほどつまらない文章が書いてあったのでモザイクをかけました。まあ、表紙はどうでもいいのであまり気にしないでください。

改めて、この3冊のノートには私が中学1年生から高校2年生にかけての約5年間で作った名前が網羅されています。うち1冊は途中までしか埋まっていないので、実質ノート2冊半(厳密には2冊と24ページ)にわたり架空の人名が書かれているわけです。

5年もかけて2冊半かよと思われるかもしれませんが、30枚綴りのノート1ページにつき80個の名前が書いてあるため、ここには11520個の架空の人名が記録されているということです。これは多分すごいことなので、みんなも私のことをすごいと思った方がいいと思います。

 

 

ノートの中身を見ていきましょう。こちらは、私が名前を作り始めて1冊目のノートの1ページ目。今見ると誤字があったりあからさまに有名人の姓や名をパクっていたりしてこそばゆい気分になりますが、ここから全てが始まったと思うと感慨深いものがあります。

私は架空の人名を記録するにあたり、名前20個で1グループという単位を作って、ノート1ページにつき4グループを記入する、というテンプレートを設けていました。各グループ内の名前は50音順に並んでいます。上に記されたアルファベットはグループ名で、Zまでいったら次はA2、B2……と数字が増えていくという塩梅です。

なぜ1グループ20個なのかというと、私の通っていた中学校の1クラスあたりの男子の数がだいたい20人で、それを参考にしたからだと記憶しています。言い忘れていましたが、私が作る人名は基本的に全て男性の名前です。なぜか女性の名前はあまり思いつかないんですよね……

今思えばこの「20個1グループ」という形式のおかげで、単調な作業になりがちな名前作りにメリハリが生まれ、長く続けることができたのかもしれません。

 

というかそんなことより……

 

 

1人目の名前、「安土 謙仁(あづち けんじん)」!???!?!!?!??!?!?

 

当時の自分が何を思って初っ端からこんな戦国武将みたいな名前を作ったのかわかりませんが、1人目だからといってプレーンな名前に甘んじないその気概には我ながら称賛を贈りたくなります。

ちなみにノートにあったメモによると、名前作りを始めたのが2011年5月で、2冊目のノートを使い終わったのが2012年8月とのこと。つまり私はおよそ1年半で9600個の名前を作ったことになります。私は中学生の頃、放課後や休日に家で何をしていたかの記憶がすっぽり抜け落ちているのですが、おそらくずっと名前を考えていたのでしょう。みなさんは中学生のとき何をしていましたか?

 

このように、本腰を入れて名前作りに取り組んでいたのは学生時代(というか中学生時代)の話ですが、今でも私は手持ち無沙汰なときに落書き感覚でノートに架空の人名を書きつける癖があります。

 

 

そこで、保管してあった最近のノート(2017年〜2023年に使用したもの、用途は学校の授業や記事のメモなど)を見返してみたところ、新たに2025個の名前を発掘。学生時代に作ったものと合わせると、13545個となりました。

これだけ大量の名前を作っていたとなると、やはり気になることがあります。そう、私が今までに作った架空の人名の中で、どれが一番の傑作かということです。日頃は「名前に貴賎なし」の精神をモットーとしている私ですが、13545個の中の頂点が誰なのか知りたくないと言ったら嘘になります。

というわけでこの記事では、13545個の名前を全て見直した上で最も「良い名前」であると思った10個をランキング形式で発表したいと思います。なお、何をもって「良い」とするかは完全に私の独断と偏見によるものであり、客観的な指標(現実での名前の人気度や字画の良さなど)はまるきり度外視しているということをあらかじめご了承ください。

それと一応、ベスト10の発表に進む前に以下の点をご確認いただければと思います。

・先ほども少し言いましたが、私は人名や命名についての専門的な知識は一切ない素人です。そのため、この記事に取り上げている名前にも何かしらの至らぬ点があるかもしれませんが、ご容赦いただければと思います。

・私は名前を作る上で、自分の知っている人物(実在の人間・架空のキャラクターを問わず)のフルネームをそのまま拝借することはありません。そのため、この記事で紹介されている名前と同姓同名の(あるいはそれに近い)人物が存在したとしても、それは偶然ということでお願いします。

・ベスト10に選ばれた名前にはそれぞれ私の品評が添えられていますが、これはあくまで「架空の人名」という創作物に対する意見であり、実在の名前や人物に向けられたものではないということをご理解ください。例えば、「佐藤太郎」という名前を「ありきたりで退屈な名前」と評していたとしても、それは自らの名前作りのセンスのなさを嘆いているだけで、実在する佐藤太郎さんの名前が退屈だと言っているわけでは断じてありません。

現実の名前はそもそも良し悪しを他と比べるようなものでもないですし、由来や名付け親の願いなどが宿っているので見かけ上の印象が全てではありません。しかし、架空の人名は一個の創作物に過ぎないため、表層的な要素を取り上げて好き勝手にあれこれ言うことも見逃していただければと思います。

長くなってしまいましたが、一言でまとめると「私を責めないでください」ということです。それではいよいよ次のページからベスト10を発表! 1/13545に輝くのは誰だ!?!?

 

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