皆さんは見たことがあるでしょうか。

アニメのクレヨンしんちゃんで、巨大な「お」を。
そう、話と話の間、CMに行くときの数秒のアイキャッチとして出る、あれです。

 

(こんな感じのやつ)

 

5歳児であるしんちゃんの、3倍はあろうかという体躯。

クレヨンしんちゃんでしか見たことのない、カラフルな模様と色使い。

 

特に説明もなく毎週登場するので、いつの間にか違和感を忘れ、当たり前のように受け入れている自分がいました。

でも、もし「あの『お』は何なのか」と聞かれたら、ちゃんと答えられる大人、何人いるでしょう。

 

なぜあんなに巨大なのか。

なぜあの空間に立っているのか。

なぜしんちゃんは近距離から「お」を認識し、読み上げることができるのか。

 

疑問は尽きることがありません。

 

ただ、現代社会に生きる一人の人間として、分かっていることもあります。

それは、あらゆるアニメは、大人が集まって制作するということです。

大人が集まって制作しているということは、ある程度進行のフォーマットがあり、それに従って動いているということです。

 

つまりどういうことか。

 

あの「お」の演出を企画立案した人がいて、「お」の演出に許可を出した人がいるということです。

どこかの異空間から湧き上がった「お」ではないということです。

出自のはっきりとした「お」です。

 

で、あれば!

やることは一つです。

その企画立案のプレゼンを頭の中で再現してみるのです。

 

こんな感じで。

 

「お」のプレゼン

こんにちは。

本日は、クレヨンしんちゃんのアイキャッチ案を出し合う会議と言うことで、私の方でも一つ、とっておきの案を用意して参りました。

 

それがこちら!

ひらがなの「お」を使うというものです。

「お」とは、まさにあの「お」です。

あの「あ」に少し似ていて、右上に点のついている、「お」で間違いありません。

 

ここだけ聞くと突飛な意見に聞こえるかもしれませんが、順を追って説明いたします。

最初は、クレヨンしんちゃんのアイキャッチを作るにあたっての前提条件からです。

 

クレヨンしんちゃんのアイキャッチですが、まず30分に3本のお話があるため、最低2回分のアイキャッチが必要となります。

いわゆるAパートBパートのアニメであれば1回で済むのですが、それよりも多くなっています。

 

さらに、クレヨンしんちゃんの視聴者層は幼児あるいは児童となります。

なので、なるべく分かりやすいアイキャッチを入れて、感覚的に「あ、お話が終わったんだな」と思わせる必要があります。

 

そして、中々難しいのが最後の前提条件。

毎週の放送に耐えるよう、シンプルながらもインパクトの強いアイキャッチにしなくてはなりません。

 

私は頭を抱えました。

そんなことができるのだろうか。

どのような素材を使えば、全ての条件が満たせるのだろうか。

 

夜風に当たるべく湖の近くのコテージを出て、水面に揺れる月をぼんやりと見ていたとき、ふと思ったのです。

そうだ!

ぴったりなもの、身近にあるじゃないか。

 

 

それが、「ひらがな」でした。

ひらがなをドンと画面に置こう。

自分の中で構想のパズルがカチッとはまったような感覚になりました。

 

では、なぜ「ひらがな」がいいと思ったのか。

抜擢の理由が3点あります。

 

 

1点目は、平安時代から約1200年も飽きられもせず使われてきたという事実です。

皆さんの中で、ひらがなに飽きたという人はいますか?

いないですよね。

 

なんせ1200年の使用に耐えてきたわけですから。

80年や100年くらいの人生で飽きるわけがありません。

もちろん、アニメのアイキャッチに毎週登場したっていいわけです。

 

2点目は、形のシンプルさです。

漢字に比べて、全体的に画数が少なく、簡単な形状になっています。

なおかつ50音以上もパターンがあるので、2回や3回のアイキャッチでパターンが出尽くしてしまうこともありません。

 

3点目は、子供の身近にあるという利点です。

幼児、児童にとって覚えたてのひらがなは、親しみ深い要素であるはずです。

いつも見ているひらがなが出れば、きっとアイキャッチの部分も好きになってくれます。

カンフー映画のように「終劇」と書かれてもピンと来ないですからね。

 

さて、ここでひらがなの説明は終わりました。

ではその中で、なぜ「お」なのかという点を話していきます。

 

私もね、色々試してきましたよ。

あらゆるひらがなをシミュレートしてね。

そうしたら、「お」に行き着いたんです。

 

「お」が一番いい。

なぜか。

消去法で残ったのが「お」だったのです。

 

 

「あ」は真っ先に消えました。

適当感が出ますからね。

オンラインのゲームやSNSで「あ」という名前の人と出会ったら「名前適当に付けたんだろうな」と思うでしょう。

それと同じです。

さらに、「あ」は「何かに気付いたときに出す声」でもあるので、意図しない雑味を持たせることになってしまいます。

 

「し」もあり得ません。

「死」を連想させて、縁起が良くないです。

例えひらがなの大部分が滅亡して「あ」と「し」だけ残ったとしても、「し」を選ぶことは回避したいです。

 

「みゃ」もいただけません。

媚びた可愛さのようなものを感じます。

クレヨンしんちゃんの世界にそんなものは似つかわしくないですからね。

即刻排除してしまっていいでしょう。

 

と、やっていったんです。

長くなるので全てを語ることは割愛しますが、試した結果、「お」が最適解。

これは間違いありません。

 

しかし、最適解と言っても「お」に全く問題がないわけではありません。

いくつかの解決すべき課題があります。

 

その一つが、フォントの種類の問題です。

クレヨンしんちゃんの世界に溶け込む書体が、現状で存在しません。

つまり、新たなフォントを作る必要が出てきます。

 

もう一つは、「お」のフォルムです。

非常に洗練されて美しいのですが、そのまま使うのではいまひとつインパクトに欠ける感じがします。

こちらもフォントに関連しているので、ド派手なフォルムの開発を望みます。

 

最後は、いくらインパクトが弱いといっても、3回続けて「お」ではさすがにくどいかもしれないという点です。

3本の話で2回アイキャッチを入れるなら、ギリギリ大丈夫なのですが。

3回「お」を続けた場合は、食傷気味になってしまいます。

そうなったら、何かしら変化をつける必要が出てきます。

 

もちろん、私なりに対処法は考えてまいりました。

 

 

まず、フォントの世界観の話です。

こちらは思い切ってカラフルに色づけしてみてはどうかという対処を考えています。

黒字から思い切って脱却することで、クレヨンしんちゃんの明るい世界観に合わせました。

フォントの形自体も、堅くなり過ぎないよう、ポップさを意識する方針がいいと思います。

 

インパクトの件は、文字を大きくすることで乗り越える予定です。

具体的には、しんちゃんの3倍程度の巨大な「お」を用意することで、強く印象に残るようにします。

 

そして3回続けるのに対しては、最後だけ渋々「じゃ」にすることも視野に入れています。

「じゃ」なら「お」の邪魔になりませんし、「ばいばい」といったメッセージにもなります。

なるべくなら、「じゃ」は入れずにアイキャッチ2回で済ませたいですがね。

この点は私の裁量ではどうしようもないので、ただ祈るばかりです。

 

もし3回入れるとなったら「お」にも変化が欲しいですよね。

だから、例えば最初が「お」で、2回目に「おお」として、最後に「じゃ」を持ってくるとか。

まあ、企画段階なので皮算用なんですけどね。

 

今言った中で、フォントの話。

これ、口頭だけではイメージが難しいと思ったので、サンプルを用意してきました。

こんな感じになります。

 

 

かなり大きいでしょう。

実際、右側の「お」が道にあったら怖いくらいです。

 

比べてみると、インパクトの違いが明確ですよね。

模様は、恐竜の卵をイメージしています。

ほら、子供って恐竜好きですからね。

 

最後にアイキャッチに「お」を採用するメリットをお伝えしておきます。

 

 

短い時間で効果的に話の切れ目を伝えられること。

「お」なら一文字言えばいいだけですからね。

最短の文字数です。

 

先ほども少し出ましたが「あ」や「し」のように意味を持たないため、変な勘ぐりを生むことがありません。

そういう字って意外と貴重なんですよ。

 

なにより普段から親しんでいる文字が出ることで、子供たちが喜びます。

特に小さい子は、「ぼく、この字知ってるよ」と一緒に観ているお父さんやお母さんに自慢できるでしょう。

そういうお茶の間の風景を想像できる点も、大きな魅力です。

 

なので私は、アイキャッチには断然「お」を推します。

 

 

以上で私のプレゼンを終わります。

ご清聴ありがとうございました。

 

 

まとめ

どうですか。

「お」を企画立案した人の情熱や、会議の風景が思い起こされたのではないでしょうか。

きっとこんな一日があったと思うんですよ。

そして「お」の案が採用に至ったと。

 

じゃあ、この案にゴーサインを出した人の心境はどうだったのか。

本当にプレゼンに心動かされたのか。

こっちも一生懸命思考のトレースを試みました。

 

そしたら…

 

 

そっちはよく分からなかったです。

 

 

(おしまい)