くそっ……

 

全然だめだ………

 

先人達の技術にまるで届かねえ

 

何年の時間を費やしてきたと思ってやがる…

 

駆け出しの頃からコツコツコツコツ……

これ一筋に賭けてやってきたんだ

 

工房の暑さに倒れかけた夏も

寒さに手がかじかんだ冬も

 

自分の手腕を信じてきた

 

くっ、良くなるビジョンが、思い浮かばない……

 

一体これ以上どうすればいいんだ

 

 

 

 

この、折り紙の箱みたいなやつ

 

確立はされてるんだ

やり方は!

 

だが、今は亡き師匠や大師匠達の、折り紙の箱みたいなやつと比べると…

 

感じてしまう

絶対的な差を……

 

力量という名の、飛び越えられない崖

 

とびうおという名の、水面を飛び跳ねる魚

 

ごましおという名の、ごまとしおが混じった調味料

 

感じてしまうんだ…

 

もちろん手は打ったさ

試行錯誤は職人の義務だと思う

 

 

色を変えてみた

ド派手なショッキングピンクさ

 

品評会に出したら、お偉方は何て言うかな!!!

 

はは…

 

でもだめだった

 

これだけの荒療治を以ってしても

至らないんだ

 

ブレイクスルーには!

 

 

あるときは別の形にしてみた

そうだ、パクッたんだ

 

臆面もなく

別の流派のやり方を!!

 

少しでも刺激が欲しかったんだ

 

煮詰まった空気に、風穴を開けようと

 

終わりかけたブームに、ようやく乗っかろうと

 

かさついた肌に、潤いを与えようと

 

苦しかった

 

 

反転させても、だめ

 

 

お湯に浸しても、だめ

 

 

そして、ついに

試してしまったんだ…

 

心の中で、ずっと押し留めていた方法を……!

 

よくないのは分かっていた

 

でも、一縷でも望みがあるのなら

そこに縋りたいと思うくらいには、消耗していた

 

 

 

顔を描いてしまった

 

作ってみて、すぐに気が付いた

 

安易

 

安易 オブ 安易

 

安易が安易を呼ぶ、安易サスペンス劇場

 

ベッドの下ですぐに見つかる 凶器

 

部屋で寝ていたというだけの アリバイ

 

指紋の付きまくった ドアノブ

 

ここから、作品は混迷を極めていく

 

 

鶴を作った

違う

 

 

亀を作った

違う

 

 

「HAKO」と書いた

何でだ

 

 

やがて折ることすら忘れ…

 

 

誰か…

 

 

形ってなんだっけ……

 

 

積み重ねてきた基礎が、急速に変質していく

 

 

はっ!

 

 

 

 

わあああああああああああ

 

 

 

 

すみません、師匠

私はここまでのようです

 

偉大なあなたのような、境地には至りませんでした

 

中学を卒業たてで、予備知識もなく飛び込んだ私に、あらん限りの技術を教えようとしてくれましたよね

ときには冗談を交えながら、職人としての心得を叩き込んでくれましたよね

 

冬場の夕方になると師匠が作ってくれたぜんざい、おいしかったです

 

私なりに、期待に応えようと、努力はしてきたつもりです

 

でも…

 

それでも……

 

あなたの立てた、折り紙の箱みたいなやつの金字塔、その継承はかないませんでした

 

 

 

………ん?

 

そうか、そうすればよかったのか

 

そうだよ!確かにそれはまだ試してないな!!!

あっ、これ絶対うまくいく

 

パズルのピースが、繋がっていく!

 

アトムのポーズが、連なっていく!!

 

シャネルのマークが、塞がっていく!!!

 

 

 

 

できた!!!!

 

 

 

 

 

キラのやつ使えば最高になるんだ

 

 

 

(おしまい)