みなさんこんにちは! ライターのモンゴルナイフです。

先日、ジモコロ編集部にこんなお便りが届きました。

 


ジモコロ編集部さま

 

私の地元、東京の府中に昔ながらの市場があるのですが
そこで「夢応援」という企画があります。

 

 

私の息子(小2)が年少の頃からお寿司屋さんになりたい
という夢を掲げていたので応募したところ、当選となりました。

ここの市場は鮮度もよく安いのですが
アクセスが悪いからか、いかんせん盛り上がりに欠けています。

地元を盛り上げたいという気持ちもあります。
取材に来ていただけませんでしょうか?


 

夢を忘れて久しい、カラッカラに乾いた大人の私なので、このメールを読んだ瞬間は興味がゼロでした。

が、「お寿司が食べられるかもしれないから取材に行ってきて」と上司に言われたので、食欲を満たすために取材へ向かうことにしました。

 

自分は小学生くらいから精神の年齢が変わっていない……つまり見た目は大人、中身は子どもなので、どうも子どもを自分と対等に見てしまうフシがあります。

 

結果、子どもと話していると最終的に激しいケンカをしてしまうので、かなり不安です。

少しでも少年と仲良くなれたらいいのですが……。

 

新宿から約50分 府中市場へ

素晴らしい秋晴れの中、JR府中本町駅から徒歩15分の場所にある府中市場大東京綜合卸売センター)にやってきました!

 

会場の前にしっかり夢が貼り出されていました

 

こちらの方々が「“寿司職人になるのが夢”という息子に、お寿司屋さんになってもらい、市場のマグロでお寿司を握ってほしい、そしてそれを食べたい!」という一石二鳥の夢を持ったお父さんと、そのファミリーです。

 

夢がカムトゥルー予定の少年、怜(れい)くんです。好きなお寿司のネタはマグロだそう。

かなり緊張している様子ですが、板前さんの服を着ると本当にお寿司屋さんに見えますね。

 

怜くんを全面的にバックアップしてくれるのが、東京都稲城市にある「ヨロシク寿司」の大将の目黒さんです。

 

目黒さんは「すしの技術大全」という、お寿司のいろはが記された本を出版している、お寿司全知全能の職人さんです。

この本はサイン入りで怜くんに贈られました。

 

目黒さんの他にも地元(国分寺)のお寿司屋さん「嶋寿司」の平嶋さんと「三松本店」の永峯さんが、怜くんの夢を応援するべくサポートしてくれます。

私のOL時代の新人研修より手厚いな……!

「ところで怜くんは、なんで寿司職人になりたいんですか?」

スシローでマグロ食べたら、なりたくなった!」

「へえ!スシローったら子供に夢も与えていたのか~」

 

買い出しをしよう

お寿司屋さんはおすしを握るだけではなく、仕入れも大切な仕事の一つ。まずはネタの仕入れに繰り出します。

 

この府中市場では、お寿司屋さんで使うものが全部揃うそうです。まさに最強の冷蔵庫。

規模も大きいしその周辺の熱気が異様に高い!

 

「怜くん、まずはマグロを買ってみようか」

「うん! すいません、マグロをください!」

 

あいよ!

ほええぇ~~~~!めっちゃデカっ!

 

「ここが赤身でその下が中トロ」

「へえ~」

 

「そしてこの一番の白っぽいところが大トロだよ」

「おいしそう!」

「うわああああああ! おいしそうだけど、安物しか食べたことがないから、本物のマグロを知るのが怖い! 戻れなくなりそう……」

 

他にもアジやいくらなどの寿司ネタを買いだしました。アジはふっくらしていて目が澄んでいるものを選ぶと脂が乗っていて美味しいそうですよ!

今から自分を食べるニンゲンを、澄んだ目でみつめているのか……と思うとちょっと複雑な気持ちです。

 

全然関係ないんですが、ラーメン屋によくある「お水を入れるピッチャー」を見つけました。

値段は2,387円絶妙に高いのか安いのかわからない。

 

下ごしらえ

「それじゃあお寿司のネタを切って行こうね」

 

「できるかなぁ……」

「大丈夫だよ、いざとなったらプロの先生がどうにかしてくれるよ」

 

普段、私たちがお寿司屋さんに行ったら、当たり前のように全部切れた状態でケースの中に並んでいますよね。

この塊を子どもが切っていくなんて、果てしない気持ちです。

 

包丁を斜めに入れて自分の方に引くんだよ」

「引く……? う~ん、なんか押しちゃう」

「なんでよ?」

 

「あの~、そもそもなぜ斜めに切るんですか?」

「垂直に切ったらネタが小さくなっちゃうんだよね。斜めに切ったらネタの面積が大きくなるし、あと見た目が良くなる

「なるほど。怜くん頼む、めっちゃ斜めに切って企画外に大きいマグロが乗ったお寿司をお姉さんに食べさせて~

「え~どうしよう。押して切っていいなら、できるかもしれない」

「なんでよ?」

 

引いて切るのが難しいと言っていた怜くんですが、徐々にコツを掴んで包丁さばきが上達していきました。黙々と作業して、マグロの赤身(画面左)を全部切り遂げましたよ!

ちなみにそれ以外は先生が切りました。おいしそうですね

 

「なんだろう、子どもの成長って一瞬なんですね、あ~泣きそ」

「次は、アジの下ごしらえをしようか。アジは難しいから先生がやってる様子を見て覚えてね」

「はい!」

「見て覚えて便乗して成長するぞ~~~!」

 

 

 

しかし……

すいません、アジの下ごしらえを甘く見ていたんですけど、やることが多かっただけではなく、目黒さんの手さばきが華麗かつ早すぎて肉眼で追いきれませんでした

 

この目がとらえた下ごしらえだけでも、こんなに手順を踏んでいました。

 

・鱗を取る
・血合いを処理したあと塩水で洗う
・普通の三枚おろしと違うお寿司用の型におろす(ハート型みたいでした)
・ピンセットで小骨を抜く
・塩を裏と表にかけて余分な水分を抜く
・穀物のお酢を配合した酢水につける
・皮を剥がす

 

「なにこれ絶対できない……アジ好きだからバンバンお寿司屋さんで注文していたけど、こんな工程を経て私の口の中に届いていたなんて!」

 

「怜くんアジ食べたことある?」

「ん~~~~~わかんない!」

「アジってね最高なんだよ、お姉さんいつでも光っていたいから光り物ばっかり食べてるんだよ」

「もっとわかんない」

 

寝てしまった妹さん

 

「じゃあ握りの練習もしてみようか!」

「やった~!」

「シャリを握る手付きってかっこいいですよね」

「シャリを握るときは上から指で押すよりも、下から上に向かって押すイメージだね」

「思っていたのと逆だった!ピースみたいな指でグイグイ押すのかと思ってました」

 

「上の指はシャリを軽く支えて形を整える程度なんだよ」

バスケのワンハンドシュートのフォームも、左手は添えるだけ……それに似ていますね!?」

「? はい、そう……ですかね」

「怜くんならわかるよね~?」

 

「見てみて、できた~!」

「聞けし」

 

いよいよ寿司を握る

「ようし!お寿司を握っていこうか! ここからが、夢応援の本番だからね」

「やった!」

「そうだ息子の握った寿司が食べたいっていうお父さんの夢が今回の趣旨でしたね。 すっかり忘れていました」

 

お寿司を握るまでの工程で2時間近く経過していましたが、怜くんは飽きたり疲れる様子が全くなく、本当にお寿司が好きなんだと伝わってきました。

 

目黒さんに手伝ってもらいながら、1つ目のお寿司が完成!

 

「できた!」

「わ、ちゃんとお寿司だ!」

「おぉ!初めてにしては上手にできたね!」

「わ~楽しい!」

 

ここからは怜くん一人で家族全員分のお寿司を握ることに。握れば握るほど、上手になってきた頃、ちょっとしたアクシデントが……

 

ポチャ

 

シャリを握るときに手につける手酢(お米のお酢+お水を足したもの)の容れ物に、シャリを落としてしまいました。

 

「この現象を『手酢シュート』と呼ぶのはいかがでしょうか?」

「……」

 

私が会場を変な雰囲気にしてしまいましたが、怜くんは黙々と握り続けます。

 

見守る家族。お母さんの優しい眼差しが素敵ですね

 

ちょっと慣れてきた?

 

たまに いびつ なものがあるのもご愛嬌

 

そしてついに……

 

お寿司完成!

 

記念に家族で写真を……おや?

 

お父さん、ちょっと泣きそうになってます? 

 

泣きそうになってるんでしょ!!!!

 

と見せかけて、なぜか私が泣いていました

 

長い時間、たどたどしい手付きで家族のためにお寿司を作っていた怜くん。その姿に、周りの大人がみんな涙ぐんでいました。

 

「さあ、お父さん。怜くんの握ったお寿司食べてみてください!」

「いただきます」

「ああ~お父さんがドリカムする……!」

 

「どう~?」

「(もぐもぐ)」

 

 

「ゲホッ!ワサビ強すぎるよ

「え!あははは!」

「でもすごく美味しいよ。ありがとう……!」

「泣きそうなのをワサビのせいにしてる……」

 

家族で試食。お母さんも……

 

妹ちゃんも、大人が食べる一人前をぺろりと食べてました。いいなぁ……

 

自分で作ったものはやっぱりおいしく感じますよね。怜くんも満足してました!

食材もかなり高級ですし。

 

「怜くんが握ったお寿司、私にも一貫食べさせてほしいな~」

「え~~~~~~」

「お願い、ひとつだけでいいから……!」

「いいよ!じゃあこれ!あーん」

「あ~~~~~ん」

 

「ひ~ん、これガリじゃんっ!」

 

「あははははは!」

「すごく笑うじゃないの……」

 

「怜くん、すごく長い時間作業して大変だったけど、お寿司屋さんになる夢は変わらず……?」

「うん!絶対お寿司屋さんになりたい!

「怜くんのお店が開店したら、取材させてくださいね!」

「うん!!またガリあげるね!

「そんな~!小学生にいじられる中年~~~!」

「あはははは!」

 

余談ですが、最初は少年と仲良くなれるのか心配でしたが、終わる頃にはばっちり仲良くなりました。

これは、私が怜くんにスティーブン・セガールの動きを指導している様子です。

 

なぜ #府中市場夢応援キャンペーン を始めたの?

  

こちらの方は今回の府中市場夢応援キャンペーンの仕掛け人、宮沢さんです!

宮沢さんは事業協同組合の販売促進事業部長を務めていて、この府中市場で夫婦そろってまぐろ丼とカレーの店「のんしゃらん食堂」を経営しているそうです。

 

「このイベントって今回が第一回目だと聞いたのですが、どうして府中市場で夢を叶えるイベントをしようと思ったんですか?」

「府中市場は50年以上の歴史ある市場なのですが、最近どうも活気がいまひとつないのかなと思っていまして」

「確かに市場に行こう!ってなったら豊洲(築地から移転した市場)に行ってしまうかもしれません」

「この市場を盛り上げたいとずっと思っていて、内部で企画を考えてもみんなネタ切れで……」

「市場の人はものを売るのが専門ですしね」

「そうなんです。そのときに、それなら外に向けて、しかも今までにない客層(=若年層)に向けて企画を募集してみよう!となったんです」

「そういう流れでTwitterで募集が始まったんですね」

お客さまの視点から見て、新しい市場の活用方法が見つけられると思ったんですよね。実際に企画が動き出したら、市場の人たちがとても喜んでくれたんです」

「確かに、今日もたくさん他の市場の店員さんが入れ代わり立ち代わり応援に来てくださっていますね」

 

「あと、この市場の中にはプロの方が出入りしているんですよね」

「目黒さんもこの市場からお寿司のネタを仕入れているとおっしゃってましたね」

「そうなんですよ。そのプロの方々の力を借りながら夢を実現できるというのが市場の魅力だと思います」

「もちはもち屋!」

「市場の歴史が長いので、お寿司屋さんとかずっと取引されてい方が、府中市場を盛り上げるキャンペーンなら協力しますよと言ってくれたことがすごく嬉しかったしびっくりしましたね」

「ほろろ……また来年も絶対やってください!応募するので!!!!」

「ぜひ!」

 

府中市場のなか

府中市場は、お店の種類が多岐に渡るので歩いていると目が楽しくなります。知らない商品で溢れかえっているため異国のドン・キホーテという感じがしてきますよ。

 

中華食材のお店、何に使う調味料かわからないものがたくさんありました。

ナチュラルにきのことか謎の植物が干してあったりして。

 

ここはお酒コーナーのようです。

 

おやおや?こちらにもお酒のコーナー。

 

なんとここにもお酒のコーナー!!!!

 

世界中のお酒が売っているので、旅行してるような気持ちになりますね。

 

あと、お肉屋さんも活気がありました。

 

近寄ってみたら国産牛肉が半額になっていました。

今日の夕食はすき焼きじゃ~!

 

市場内はかなり広く途中で歩き疲れる可能性もあるのですが、休憩できる場所やお食事処がたくさんあるので脚力に自信のない方でも安心です!

 

府中市場(大東京綜合卸売センター)

〒183-0025
東京都府中市矢崎町4-1

JR南武線・武蔵野線「府中本町駅」より徒歩15分
京王線「府中駅」よりタクシーで10分/徒歩25分
西武多摩川線「是政駅」より徒歩15分

無料駐車場800台

 

子どもの夢に最初は全く興味がありませんでしたが、怜くんの成長を間近で感じて途中から我が子かと錯覚して、完成したお寿司を見たときには涙してしまいました。

本当に自分の我が子が夢を叶えたら、嬉しさの雄叫びをあげちゃうなと思いました。

参加した人や通りかかった人にも府中市場っていいなと思ってもらえる優しい雰囲気で、良きイベントだったと改めて思いました。

 

府中市場夢応援キャンペーンよ永久(とわ)に続け……!

 

府中市場は、古くてかなり混沌としている市場だけど、何も考えず探検気分で歩いてもおもしろいし、専門店が多いのでこだわりの食材や調味料を探しに行くのも良いですね。

 

そんな府中市場では、10月27日(土)にHALLOWEEN真っ昼間市というイベントを開催するそうです。

市場でハロウィーン!?と驚いているのですが市場ならではの催し物が多数あるそうです。

個人的に先着100名限定の「しじみすくい取り大会」の様子が気がかりなので見に行くかもしれません!

 

(おしまい)