パチパチパチッ

 

パチパチパチッ

 

今回の主役は、焚き火に心を奪われた二人のハンドメイド職人です。

 

f:id:tmmt1989:20170228221750j:plain

こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。

全国的な盛り上がりを見せるハンドメイド作家たちのマーケット需要。手作りのアイテムを販売するECサイト/アプリ「minne(ミンネ)」「creema(クリーマ)」などなど、作り手の顔が見える良い商品を買う機会が増えていますよね。

 

一方で、技術を磨き続けてきたクラフトマンシップ全開の職人から意外な声が聞こえてきました。

 

「40歳以降も現在のままこだわった製品を作り続けられるかわからない」

「単純に肩が上がらなくなってきた」

「利益とこだわりの追求のバランスがむずかしい」

 

ピュアなものづくり精神と素材にこだわった美意識。その2つを兼ね備えているにも関わらず、なぜこのような悩みに陥るのか……? どうしても知りたかったので、二人のハンドメイド作家を焚き火に誘って、炎を見ながら赤裸々な想いを吐露してもらいました

 

 

●一人目の職人:福田昌彦(HITOHARI)

一人目は北海道・札幌を拠点にして旅行・アウトドアに役立つかっこいい製品を作っている「HITOHARI」の福田昌彦(ふくだ・まさひこ)さん

年齢は38歳です。

 

自身のキャンパー精神を反映した使い勝手の良いプロダクトの数々は、福田さんにしか作れないものばかり。一目惚れして以来、すでに5個くらい購入しています。ポーチもバックパックも機能性がしっかり備わっていて愛用したくなるんだよな〜〜。

 

私も愛用している衣類をまとめるためのPACKは使い勝手最高です。

 

●二人目の職人:木村真也(ONDWORKSHOP)

二人目は過去のジモコロの記事に登場している長野市OND WORK SHOP」の木村真也(きむら・しんや)さん。

革ベルトのセミオーダーを軸に、愛着のある服飾雑貨を作っています。

年齢は36歳。躁鬱のアル中でもある。

 

OND WORK SHOPの店内には様々な革細工が所狭しと並んでいます。木村さんは、直接、顔を合わせてのオーダー以外は受け付けないというこだわりっぷり。過去の取材以来、友だち付き合いを続けているのですが、これまで累計15個は彼の作品を購入! 

友人・知人20人以上にオーダーさせているので、ズブズブな関係ともいえます。

 

フルオーダーの財布は「柿」をテーマに作ってもらいました。最高!

 

かたや北海道、かたや長野という全く違う土地でものづくりをしているにも関わらず、どことなく雰囲気が似ている二人の髭面の職人…。

前述の悩みは一体どんな理由から生まれたのか? 

 

世の中でほぼ語られていない”クラフトマンの葛藤”を掘り下げたいと思います!

クラフトマンは繊細な生き物である

「わっ、焚き火だ…心が奪われる…」

「やっぱり火を見てると落ち着きますよね…」

「焚き火を見ながら語り合うと、心の本音まで迫れると思ってこの場を用意しました。おふたりは独立して何年目ですか?」

「HITOHARIとしてはじめてからは12年目ですね。それまでも細々とモノはつくっていましたね」

「僕はOND WORK SHOPを立ち上げてから4年目です。高校卒業後、手を動かすのが好きだし、ただ面白そうだから浅草のベルト屋さんに就職。大量生産のベルト製作に疑問を抱いて、4年前に長野へ戻ってきたんですけど…紆余曲折あってお店を構えることにしました」

「アル中のヒモ生活が続きすぎたら、当時の彼女に泣かれて一念発起したんですよね」

「そうそう。あのときはダメだったなぁ…。お店オープン直後は友だちが心配して買いに来てくれて。それだけで売り上げが成り立ってる部分があったんですよ。街の人に認知してもらえるようになったのは2年くらい経ってから」

「2年!結構、時間がかかるものなんですね」

「ここ2年で利益面が軌道に乗ってきた感じですね。しかし、よく最初の2年は持ったよなぁ…。たぶん何も考えてなかったんだと思うんですけど」

考えてたらできないですよね。この仕事は事業計画とか出すと、絶対採算が合わないんですよ。どこかで勢いがないとできない気がします」

「え、クラフトマンってそんな衝動で動いてるんですか?」

「うーん。どちらかというと、センシティブな人が多い感じはなんとなくしますよね」

「ピュアな人が多い印象です。自分でいうのも変なんですけど。僕は社会に出たら、ストレスで死んじゃう気がします

 

「僕も社会に出たらストレス感じる方だな。今もストレスで毎日お酒飲んでるし、会社員時代に鬱にもなってるし

「鬱はね、いつでもなれますからね(笑)」

「早速、焚き火の効果が出てきた。なぜ精神的にやられちゃうんでしょうか?」

「ビジネスとものづくりの間の葛藤が苦しいんですよね」

「つくればつくるほどにどうしてもゴミが出てしまう。仕方ないんですけど、それがすごくストレスにもなりますね」

「環境のことはわかるなあ。実際につくってると、端切れの量がわかるから、ゴミのことにすごく敏感になる気がする。なんでこんなにゴミが出るんだろうって…ゴミなんて出したくないのに…」

「環境問題とものづくり精神がワンセットなんですね」

 

「そんなことを考えているうちにお酒に溺れていくんです」

 

「めちゃめちゃかっこいい顔で、ダメなこと言ってるなぁ」

「僕は以前アウトドアの仕事もやっていて、自然環境に関心があったので余計なのかもしれません。一時期、使えなくなったゴムボートの生地でバッグをつくってたんですけど」

「地球に優しい取り組みですね」

「そう思うじゃないですか。でもなかなかゴムボートってダメにならないんですよ。注文が入るうちに、使えるボートを潰そうとしている自分に気がついて。ユーズドの物を使ってまた何かをつくるって、ちょっとどこかで間違えると消費を早めちゃうんですよね」

「繊細がゆえに考えすぎちゃうんですよね…」

「そうかもしれません…あっ、」

 

「すいません、もうお酒ないんですか?」

 

※今回の対談では、繊細なふたりが話しやすいようにお酒を用意しています。

 

一点もの VS プロダクト 

イベント出店時のHITOHARIの商品一覧

 

「木村さんは基本オーダーメイドでやってるんですよね?」

「はい。僕の場合は素材がウシさんやシカさんといった生き物なので。長く使ってもらうことに意味があるんじゃないかなと思って取り組んでいます」

「素材が生き物の人はそうかもしれないですね。うちは帆布を使ってるんでそこは少し感覚が違うかも」

「オーダーメイドは、その人が心から欲しいと思って、理想を考えながらつくるじゃないですか。お気に入りで一生使ってもらえるんだろうなということが、想像できるんですよね」

「たしかに一点モノは長く使いたいですね」

「だけど、それって初めてつくるものだから、長く使った時にどこが壊れやすいかわからないんですよね」

 

「そうなんですよね。ものをつくる中で一番手間がかかるのって、最初の型をつくること。スケッチして、紙とかで試作して、サイズを合わせる。そこから本番と同じ材料でつくって、使って見て、直して…という過程を経て販売します。オーダーメイドは一人ひとりのお客にその工程が発生するんですよ」

「そうなんだよなあ」

「でも量産品ならそれが最初の一回で済む。完全なオーダーメイドで売るのは値段も高くなる上に、納期もかかるし、完成度も低くなりがちだなって」

「うん。だから僕も最近セミオーダーって形が一番いいのかなと思ってます。完成度の高いもので、素材や色を変えながらその人に向けてつくることができる」

「木村さんと少し考え方が違うんですけど、うちはそもそもオーダー自体を受けてないですね。昔はよく友達とかに頼まれたらやってたんですけど、あんまりいいことがないというか。3年くらい待たせたこともあって、罪悪感がやばかったです」

「わかるーーー!」

「声でかっ。木村さんも1年以上待たせてる友人がいますもんね」

「結局顔合わせるたびに『ごめんね』みたいな」

「わかるーーー!」

「すごく短期間で、その人に合ったものをつくれば、確かにそれはそれでありだなと思うんですよ。今は帆布を使って量産してますけど、昔は裾上げの端切れで一点ものをつくっていたんですね。

それが大変すぎたっていう反動もあるんですけど、今は自分の時間を大切にしたい。理想の暮らし方を実現するためには量産寄りの方がいいのかなと」

 

 

「僕も暮らしを大事にしたいんですけど、そこのバランス感覚がぐちゃぐちゃになって今モヤモヤしてます。新しいことをしたいという気持ちはあるんですけど、お客さん一人一人に向き合ってものをつくりたい気持ちもある。そこは葛藤かもしれないですね」

「一人一人に向き合いたい気持ちはあるんですけど、結局自分が使いたいものをつくる以上の情熱を注げないんですよね。自分が道具として使いたいものをいまだにつくってますけど」

「それってすごく大事な気がします。自分が使いたいとか自分が欲しいものをつくるってこと。僕も自分の中にあるものを素直に出してつくることを大事にしたいです」

「二人ともスタイルは違えど、クラフトマンとしての欲求/苦悩は同じなんですね。ライター編集者も、自分の欲求が根底にある企画やりたいもんなぁ…」

美しさを求めるのは人間の本能なのかもしれない

 

「ほかに製作の上でこだわりはありますか?」
「古いものを大事にしたい気持ちは強いです。今も残っているものは、作り手が大好きだから…というすごく単純な理由でつくられている気がして」

「装飾品とかって生きていく上で、必要なさそうだけど、大昔の遺跡の中から出てきたりして面白いですよね。美しいかどうかって人間にとって意外と必要なのかもしれません」

「ほほう。そこは意識したことがなかったなあ」

「例えば、都市にあるマンションやアパートの部屋って画一的であまり美しくない気がするんですよ。そういうところで過ごしたら、自分がおかしくなる気がして…。人間は自然の中にある、整ってないものに触れた方が健やかに生きていけるんじゃないかなって考えています」

「自然から得られる情報は大きいですよね。福田さんも普段は自然に囲まれて暮らしているんですか?」

 

View this post on Instagram

グッドモーニング

A post shared by 福田昌彦 (@hitohari_fukuda) on

「そうですね。はじめてお店を立ち上げたときは、窓から十勝岳連峰がすごく見えて、抜群のロケーションだったんですよ。自転車で河川敷を40分ほど走って通っていました」

「それはいいですねー」

「そうなんですよ。住んでるとその景色が日常になってたんですけど、札幌でお店を構えたときは、窓が一個もないし、通勤も街中を通る。目から入ってくる景色って、こんなにもメンタルに影響するんだと思いましたね」

「僕も長野市に住んでるんですけど、松本方面に行くとアルプスが見えるので長野人なのにテンション上がるなぁ。やっぱりものをつくる上で自然のロケーションはすごく大事だと思いますね」

「東京にも職人さんがいますけど、そのあたりの感覚はやっぱり違うんですかね?」

「根本にある感覚が違うかもしれません。都会で育った人は技術を会得することに、ものすごく重きをおいている気がする」

「うーん。どうなんでしょう。僕は横浜出身なんですけど、ものづくりのきっかけが北海道での自転車旅行なんですよね」

 

福田さんの自転車で北海道を旅行した時の様子。寝袋をくくりつけている。その後も何度かアップデートしたそう

 

「わー、めちゃめちゃ重装備ですね」

「キャンプ場で荷物をくくりつけているうちに昼になっちゃうような有様でした。もっと優れた道具があれば、本来の目的である旅をより楽しめるのかもな…と当時思ったんですよね」

「なるほど」

「そして、この後に山岳部に入ったんですね。最初は安い道具で登ってたんですけど、使い心地がイマイチですごく疲れてしまう。そのときに高い商品には意味があるんだと気づいて、道具に興味を持ち始めました。今は服飾雑貨が多いんですけど、根っこには自分が欲しい道具をつくっている感覚がありますね」

「それってすごく本質的ですよね。前の会社で僕を10年間育ててくれた先輩から『本質をちゃんと考えろ』って言われ続けていました」

「本質?」

「そう、意味がわかんないじゃないですか。でも物事には理由が全部あるし、そこを考えていかないとダメだよって。『なんで会社で働かないといけないか』にも理由があるはずだからそこを突き詰めろって」

「ほうほう」

「そこを考え抜くクセをつけたら、いろんなことに無理する必要がないことに気づいてすごく楽になりました。お酒を飲みすぎた翌日は、営業開始時間を遅らせても仕方ないかな〜とか」

「たしかによく営業時間ぶっちぎってる」

「いや〜、話せば話すほど木村さんってピュアですよね」

 

『天空の城 ラピュタ』と『耳をすませば』が僕の根本にありますから…

「宮崎駿に怒られろ」

「あれ、もうお酒がない!!」

体はボロボロでも、どうしても続けたい

「二人ともめちゃくちゃストイックな感じがするんですけど、年齢的にも身体に違和感ないですか? 怪我とか病気とか」

「僕は今年の春から肩が上がらなくなってきましたね…。病院に行ったら四十肩かもしれませんと言われました」

「ああ、やっぱり」

「他にもすぐに体調が悪くなってきたんですよね。風邪を引くとかじゃなくて、熱も上がらないし、目の奥が重い。熱をあげる体力すらないってことなんですよね(笑)。だから、ストレッチしたり、食べ物も色々試してるんですけど、なかなか解決しないんですよ」

 

「わかります。僕はここ半年くらい、ずっと左手が痺れてるんですよ。だから病院に通ってて。年々衰えは感じますよね。背中とか肩はいつもバキバキ」

「バキバキになりますよね。健康診断は怖くていけないです」

「ですよね。健康診断は行くんですけど、人間ドックは怖いんですよ」

「怖い…?」

何かがあったときに、せっかく積み上げてきたものが終わる感じがして。奥さんが心配するなあってのもありますけど」

「誰かを雇ったりとかは考えないんですか?」

「うちはたまたま優秀なスタッフが働いてくれてるんですけど、いなくなったらやばいかもしれないですね…」

 

「僕は一生、誰かを雇うことはしないと思うんですよね。自分の世界観だけでものをつくりたい」

「左手が痺れてても?」

左手が痺れてても、右手だけでつくれる手段も見つけられると思うんですよ。『片手でつくるときは、口を使えばいいのかな』とかよく考えてます。仕事とプライベートを分けてないので、生きてる限りは続けたいですね」

「ただ、こだわりを頑なに守ると続けられないことってあると思うんです。だから自分のやりたいことを貫いて廃業するか、ちょっと妥協して続けるかの二択があるなら、僕は妥協してでも続けたい

今までのお客さんのためにも。その中で余裕があれば本当につくりたいものをつくればいいと思ってます。そこのせめぎ合いは常にありますけどね」

おわりに

価値観の多様化が進む時代の中で、物事を見極める必要な要素として「美意識」があると思っています。それは全国のこだわり抜いた人々を取材してきた過程で教えてもらったことです。

手を動かし続けて、頭でしっかり考え抜いて、誰かの希望に寄り添い続ける職人たち。

クラフトマンの美意識に触れて、モノの価値と製作の感情を知ることは生きるヒントになるのではないでしょうか。

この記事きっかけで二人の職人に興味を持ったら、ぜひ一度お店を訪ねてみてください。単純に想いの込もった製品を買う。そして機能性に価値を見出して愛用する。そこから見えてくるものがきっとあるはずです。

 

それではまた!

 

 

取材協力:「HITOHARI」(札幌)、OND WORK SHOP(長野)

ライティング協力:しんたく

写真:小林直博