「みはし」という上野にある老舗のあんみつ屋にハマっている。

 

これまでみはしのあんみつを約500杯ぐらい食べ続けている。食べても食べても感動が終わらないから大変だ。

 

みはしの魅力を上げるとキリがないが、中でもトッピングの自由度はたまらないポイントだ。

あんこ、白玉、干し杏、ソフトクリーム、季節のフルーツやアイス……具材の組み合わせは無限と言ってもいい。

そして、具材をどのようにチョイスするかで食の好みや甘味に対する姿勢、もっと言えば人間性なんかも浮き彫りになってしまう。

 

 

私は、人がみはしのあんみつと向き合っている姿が好きだ。

特にみはしのあんみつを経験したことのない「初みはし」のフレッシュな反応は格別である。その様子を見てるだけで大変スプーンが進む。

「なんなんだこの人は」と思われようと、とにかく私は人の初みはしが見たい。

 

というわけで、初みはしを見せてもらうべくオモコロライターのみなさんにもお声をかけさせていただいた。

 

 

 

みはし上野本店前で待ち合わせ

 

待ち合わせ場所に向かうと、すでに鬼谷さんが待っていた。

鬼谷さんは半年前にソロで初みはしを済ませており、今日はセカンドみはしとのことだ。

人とあんみつを食べるのは初めてのようで、少し緊張している様子だ。

 

 

息を切らせてやってきたのは、BIGSUNさんと、はらつかうさん。

2人ともピチピチの初みはしだ。

「はぁはぁ……! 目がかすんでメニューが見えない……!」

上野の国立科学博物館から駆けつけてくれたので、息が切れているようだ。

しかし呼吸が乱れた状態でみはしのメニューを見るのは危険である。

 

みはしの豊富なメニューを前にしたら目移りしてしまい、目を回す可能性があるのだ。

メニューを見る時は、脳に十分な酸素を送りこみ、意識を集中しなくてはならない。

 

「わ~~どうしよう」

「迷うけど……フルーツクリームあんみつにします」

「いいですね、私もフルーツクリームあんみつに……」

 

「苺のあんみつもありますよ」

2人が別紙メニューの苺あんみつを見逃している気配がしたので提案してみた。

「あ!これ!! 苺クリームあんみつに変えます」

「そうだ、苺だ! 私も苺クリームあんみつにします!」

「2人とも苺クリームあんみつでOKですか?」

 

「トッピングもありますが……」

 

ハッとする2人。初みはしの傾向として、緊張から視界が狭まってしまうことがよくある。(私がうっとり見てるせいで気を焦らせていたのだとしたら本当に申し訳ない)。

みはしでは気になるものがあれば是非心のままにトッピングをしてみてほしい。

「白玉トッピングしたいです」

「白玉いいな~羨ましくなるかな~……」

「入れちゃおうよ」

「私も白玉追加します!」

「あ~~私、抹茶アイスもトッピングしたい」

「そうなると、抹茶アイスにソフトクリーム、苺、白玉でけっこう乗りますね。ボリューム的に大丈夫ですか!?」

「大丈夫です! いけます!」

 

即答だった。なんて頼もしいのか。

きっとBIGSUNさんには甘党の直感が備わっている。

無限のようなトッピングの組み合わせから、自分の求めるものを導きだせるのだろう。素直で潔く、気持ちがいい。

 

「鬼谷さんはメニュー見なくて大丈夫ですか?」

「はい、暗記してます」

 「!?」

 

沈黙を貫いていた鬼谷さんが口を開いた。

落ち着いた声のトーンが、むしろ場に緊張を与えた。

 

2杯いこうと思っています

突然の告白。今まで数々の人をみはしに連れ込んできたが、2杯いく人はいなかった。

驚く私たちを気にすることなく、鬼谷さんはニュースを読み上げるアナウンサーのように淡々と語り始めた。

「元々、あんみつという食べ物に苦手意識がありました」

「え……あんみつ嫌いだったんですか……?」

 

「いや、嫌いとかじゃなくて、恐れというか。

あんみつの具材同士のマリアージュを楽しみきれるのか、自分はあんみつの味を取り逃がすんじゃないかという恐怖というんですかね。

あんみつに入っているものが、僕の食生活には馴染みが薄くて味の想像がつきにくいというのもあるんですが」

「なるほど、たしかに寒天系のスイーツってなかなか食べる機会がないかもしれない」

 

▲半年前に済ませた鬼谷さんの初みはしは「白玉クリームあんみつ(粒あんに変更)」

「それで、初みはしを念頭に置いて、次はどういう組み合わせならベストを尽くせるのかを考えてきました」

 

「手書きメモが出てきた……!」

「考えをまとめたくて……。
いろいろあるんですが、特に注意したいのがソフトクリームです。
ソフトクリームってあんみつの中でもかなり力を持っていると思うんです」

「たしかにあのクリーミーさはあんみつの中でも存在感がありますね。
ソフトクリームをいろんな具材と絡めるのがもう最高……」

 

※イメージ図

「そこなんです、ソフトクリームは溶けて混ざるんです。誰とでも仲良くできる万能選手なんですが、一度混ざったらソフトクリームの味にすべてが染まってしまって元に戻らない」

 

「つまりソフトクリームは不可逆を発生する装置なんです……」

「我々はソフトクリームに主導権を握られたままでいいのか……」

「ソフトクリームの侵略をそのまま受け入れていいのか……!?」

 

過熱するソフトクリームへの思いから印を結ぶ手が止まらない鬼谷さん。

ちなみにソフトクリームのことは好きらしい。

 

 

「そこで僕は考えました。ソフトクリームを豆かんという広いフィールドに任せてみるのはどうかと」

「なるほど、豆と寒天と蜜だけのシンプルな構成なら、ソフトクリームの強い影響を受け流せる」

「さらにそこへ無垢な白玉を合わせれば、完璧な1杯になると予想しています」

 

 

「もうひとつのほうのあんみつは、気になるフルーツや杏などを盛り合わせたフレッシュさを打ち出したあんみつにして、趣旨の違う2杯を食べるという結論に達しました」

「なるほど……」

 

 

鬼谷さんが熱い議論を展開している間、たぶん息が止まっていた初みはしの2人

 

 

「それにしても、豆かんをベースにするという考えはすごいですね。あんみつに気を取られて豆かんの存在ってけっこう気づきにくいんですよね」

「あ、でも私はあんみつより豆かんが一番好きです」

「こんな近くにもうひとり豆かんに気づきし者が!」

 

※イメージ図

豆かんとは寒天と豆に黒蜜をかけたもの。豆(赤えんどう豆)は、ほくほくした食感で、ほんのり感じる塩気が黒蜜やあんこの甘みを引き立てる。

「スーパーでパックのあんみつって売ってるじゃないですか。あれを家族で食べる時に、豆好きの私にみんなが豆を分けてくれます」

「豆から感じる家族愛」

「ちなみに、はらちゃんは普段甘いものって食べるんですか?」

「実はあんまり食べないです。甘いものを食べるんだったらカツカレー食べるっていう感じで」

「あ、それ私も同じです」

「そうなんですか!?」

「いや、はらちゃんと逆バージョンなんですけど、カツカレーを食べるなら甘いものを食べたいって思ってるので、そのお気持ちよく分かります」

「でもみはしのあんみつはずっと気になってて、絶対食べようと思ってました!」

 

カツカレー派のはらつかうさんが、みはしのあんみつを食べたらどんな反応をするのか楽しみだ。

 

 

>>次ページ:実際にあんみつを食べる<<