突然だが皆さんはフォアグラを食べたことはあるだろうか。

恥ずかしながら30歳になるまでフォアグラを食ったことなく、ある結婚式で出てきたフォアグラを一口食べて「フォアグラ、うめーーー!」などと声に出すほどに感激してしまい「あらまあ、あの人ったら、フォアグラ初めてなのかしら」などと大失笑されたのが俺であるが、そこまで恥をかかされておきながら、俺が食ったのは実はフォアグラではなくフォアグラの上にチョコンと乗っていた、ただフォアグラから出ているエキスにあやかっていただけのダイコンだと知ったときのショックは相当なものであった。フォアグラは三大珍味として幼少のころより名前だけは知っていた憧れの存在。だからこそ、フォアグラという名前に舞い上がり、自分を見失い前掛りになったところをロングボールを放り込まれ抜け出したダイコンにカウンターを食らった格好。

それにしてもあのダイコンが美味かったのは事実である。そしてフォアグラのエキスを浴びただけのダイコンですらコレってことは、そのエキスの源であるフォアグラ本体って一体なんなんや、世界を照らす太陽かいななどと俺がうろたえたのはお察しのとおりで「あの人叫んだりしたクセに、どうやらダイコン食っただけらしいわよ」という話が同じテーブルの中で嘲笑とともに共有されるのもそっちのけでむしろ俺はもはや食べ物とは思えない物凄いオーラを放ちながら「お前に俺が食えんのか」とでも言いたげに俺を試してくるその存在感に負けないようしばし「ゴクリ」と声に出し、フォアグラと睨めっこをしていた次第であるが、結論から言うとどう考えてもその後満を持して食べたフォアグラよりも、先に食べたダイコンの方が断然美味かったのである。

と言うような一連の話、これを一人で抱えていてもモヤモヤするのでこの話を仲の良い友人の一人にしてみたものの「お前さあ、そうでも思わないと辛いからじゃないの」と一笑に付されたわけだが、もっと辛いのは俺にはそういう他愛も無い話を気軽に出来る友人が一人もいないため、今の友人とのくだりが完全に俺の作り話であるという点である。まあそんなことはどうでもいいんだけど、フォアグラとダイコン。お互いを補いあい、時に高めあう、そういう関係ってとってもいいなと俺は思う。

 

 

 

 

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