ブルゾンちえみのキャリアウーマンネタは、お茶の間に強いインパクトを残した。
と同時に、もう一つの贈り物を私達に与えた。
「大きく間を取った後に短いフレーズを言うと面白い」ということを人々に広く気付かせたのだ。
これにより会話に革命が起きた。

私は確かに目撃した。
ギャルが意識的に間を取ったのだ。

あれは土曜日の夕方だった。
用事は忘れてしまったけど、私は山の手線の外回りに乗っていた。
吊り革に体重を預けてボーっとしていたら、新宿で大勢の人が乗ってきた。
その中で、たまたま自分の斜め前の空いている座席に、ギャルっぽい若い女性二人が座ったのだ。

ギャル達は、たわいもない話をしていた。
バイト先の人間関係がどうの、ババアになったら嫌だの、といった話題だ。
女性二人組によくあるパターンで、主導権を持ったギャルと聞き役のギャルが明確だった。

私は、「ふーん」と思いながら聞いている。
新大久保を過ぎた。
まだたわいもない。

高田馬場を過ぎた。
会話が途切れた。

脈絡の一切ない
「・・・ディズニー行こうねー」
「うんー」
の一往復。

このディズニーの一往復は何なんだろうな。
他のギャル達の会話でも、数回聞いたことがある。
「じゃあどのアトラクション乗る?」とか具体的に話が進んだりはしない。
不快な思いをさせずに会話の間を埋めるための、彼女らなりの作法なのだろうか。

そして目白を過ぎた辺りで、化粧品の話になった。
主導権を持ったギャルが
「ねえ、肌きれいじゃない?」と切り出す。
これは、相手を褒めているように見せて、自分を褒め返してもらうための呼び水である。
聞き役のギャルは心得たもので、
「えーそうかな。あんたこそ何か肌の調子よくない?」と返す。
そこで主導権ギャルはこう言う。
「実はさ、薬局とかで買えるのに、高級化粧品とほとんど同じ成分の化粧品あるって知ってる?」
聞き役ギャルは食いつく。
「えー何々?そんなんあるの?」
主導権ギャルはたっぷりと間を取って
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ニベア」
と答えた。

バッシィィィィと間のハマる音がした。
絶妙。
最高に綺麗な静寂の破り方だ。
私は、電撃に打たれたタコのように痺れた。

そして心の中で彼女らに詫びた。
ちょっと下に見てたかもしれません。すみません。
脊髄で話してるなあと思ってすみません。

池袋に着いて私は電車を下りた。
まだ衝撃の余韻が残っている。
ホームから降りる階段の途中で、噛み締めるように呟いてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ニベア」
前を歩いていた数人が、私の方を怪訝な顔で振り返った。

 

 

 

 

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