なぜそこにアラブ人。スマホゲームに飢えた「アラブの課金王」国境を越える。そこに「存在しないはずのアラブ人」が欧米のアプリストアをつかう真実。

2016年06月06日 |
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新興国のゲーム市場に詳しい、メディアクリエイトさんを取材しました。世界中のアプリストアに出現し、ゲームに課金していくアラブ人の謎とは?

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※株式会社メディアクリエイト チーフアナリスト 佐藤翔さん

<目次>
1、世界進出をはじめた「アラブのスマホゲーマー」たち。
2、石油王から生まれた「無職の課金王」も存在し得る。
3、中東の「ゲーム規制」はきびしくない。
4、ブラジルは通信料が高い。
5、ラテンアメリカで「ゲーム機」を遊べるのは富裕層だけ。
6、10分/数円であそべる、中南米の「アーケードゲーム型」エミュレーター。
7、アルゼンチンには「ビットコイン」で給与を支払う会社があるらしい。
8、中南米で未だに「公衆電話」がつかわれる謎。
9、ラテンアメリカに日本が進出するには。

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1、世界進出をはじめた「アラブのスマホゲーマー」たち

最近はアラブの人たちに「スマホゲーム関連での動き」はありますか?

最近、アメリカのAppStoreの「売上トップ50」に、アラビア語のゲームが入っているんです。これ不思議な現象だと思いませんか。

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不思議ですね。でもふつうに考えたら「アメリカ在住の、アラブ人が課金している」ですよね?

はい、最初はそう思っていました。ところが、それにしては金額が大きすぎる。これ、現地で調べてみたら、正解は別のところにありました。

実際、課金していたのは「アラブ人」ではあったのですが、彼らはアメリカにはいなかったんですよね。

えっ、どういうことですか?

正解は「アラブ人がアメリカのアプリストアに進出していた」という話だったんです。

つまり「アラブ諸国に住んでいながら、アメリカのAppStoreに、アクセスしているアラブ人」が、たくさんいたんですよね。

彼らはアメリカのアカウントをつくって、スマホゲームに課金していて。とくにサウジアラビアの人たちが多いようですね。

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どうしてわざわざそんなことするんですか? アラブにもAppStoreってありますよね。

まず理由としては「アラブのストアは、アプリが充実していない」というのがひとつです。

実際「アラブにはアプリを公開してない会社」って多いんですよ。タブーが多いイメージがあったり、アラビア語への翻訳が大変だったりで。

だから、アラブの人たちからすると「アメリカのAppStoreのほうが便利じゃないか」となってしまっているんですね。

なるほど、ほかにも理由はあるんでしょうか?

もうひとつは、アラブのお金持ちって、みんな英語できるんですよ。だから、アメリカ人向けにつくられた、英語のアプリでもつかえてしまう。

背景としては、サウジとかでは「国の補助金」をつかえば、ほとんどタダで留学にいけちゃうようなところがあって。

そのおかげで、半端ない数のアラブ人たちが、アメリカやカナダへ留学している。そして、彼らは英語をマスターして、アラブへ戻ってくると。

しかも、いまの時代ですから、欧米の友だちとFacebookやSnapchatでつながって、留学から戻ってきても、アメリカのトレンドが流れてきている。

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たしかに、それは納得ですね。

といった理由から、アラブユーザーが、アメリカのストア、つまり「英語圏で一番アプリが、充実していそうなストア」にアクセスしていると。

そして、そのアラブ人たちが「アラビア語のゲーム」に課金することで、アメリカの「トップ50」に、アラビア語のゲームが入ってきている。

もはや、ユーザーが「アプリストアの国境」を越えて、世界に進出する時代になってきた、ということですよね。現地にいながら、アカウントだけ国境を越えてくる、というか。

想定外でした、おもしろい現象ですね。

そうですね。実際に現地の人にも聞いてみたところ、サウジの半分くらいのユーザーは、サウジのアプリストアをつかってないらしいんですよ。

しかも、アメリカやイギリスのストアをつかうユーザーほど、課金額がとてつもなく高かったりするようなのです。

アラブのあるゲーム会社の人も「スマホゲーム売上の、約6割がアメリカであがっているけど、実態はその9割がサウジ人」と話していました。

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ということは、「サウジのストア」にアプリを出しても、最大でも「サウジユーザーの半分くらい」にしかリーチできない?

そういうことです。アラブのゲーム会社はこのことを知っていて、世界中のストアに「あえて、アラビア語のまま」でゲームを出しています。

これはローカライズをさぼっているわけではなくて、世界中にちらばった、課金力の高いアラブ人たちに、リーチするためだったんですね。

だから、日本からアラブ人向けにゲームだすときも、「アラビア語のまま」で世界中に公開したほうがいいです。アメリカのストアにはとくに。

なるほど。

あと、そうなってくると「国別のアプリストア市場規模」って、ズレている可能性も高いですよね。

「アメリカのストアで課金している」というアラブ人たちは、「アメリカの市場」としてカウントされてしまっているわけですから。

2、石油王から生まれた「無職の課金王」も存在し得る。

「スマホゲームに課金しているアラブ人」って、やっぱり社長とかなんですか?

お金に余裕があるのは間違いないですが、みんなが「金持ち社長」というわけではなくて。アラブには「富裕層ではない富裕層」が、たくさんいるんですよ。

どういうことですか?

わかりやすくいうと「石油王から生まれた、出来の悪い息子」とかです。そういう「無職なんだけど、お小遣いはある人」がいっぱいいる。

一家に一人、裕福な人がいるだけで、三世代とも裕福に暮らせている、という家族さえあります。だから「収入はゼロだけど、課金しまくっている」という人も多いでしょうね。

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なんでアラブ人は「スマホゲーム」をやるんですかね、ヒマなんでしょうか。

まず石油で高収入だけど、ナイトクラブのような娯楽もなく、エンタメも限られる(映画もない)、外は暑いしで。そうすると、スマホゲームに行き着くのだと思います。

アラブのゲーム市場は、水面下ではとんでもないことに、なりつつあるかもしれないですね。実際、アメリカのトップ50などに入ってくるくらい、市場はあるわけですし。

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※UAEの「Amir-Esmaeil Bozorgzadeh」さん調査による、アラブの課金データ。月50リヤル(約1,500円)以上、課金している人を対象(データ参照

3、中東の「ゲーム規制」はきびしくない。

中東って「タブー」があって、下手にゲームをだすと、地雷を踏みそうなイメージがあります。

その話なんですけど、アラブの「モバイルゲーム規制」って、実は厳しくないんですよ。これは強調しても、し過ぎることはないくらいに。

アラブでは「魔法とモンスターがNG」という噂がありますけど、これはよくある間違いなんです。

家庭用ゲームでは「規制」があったりもするのですが、それでも「モンハン」や「ファイアーエムブレム」は、ふつうに売られていますから。

どうして「きびしい」と勘違いしているんですかね?

おそらく「アラブとイランがごっちゃになっている」からだと思います。たしかにイランって厳しくて「魔法とモンスター」がアウトなんです。

これは宗教ではなくて、自国のゲームの保護をやっているからです。たとえば、この「Garshasp: The Monster Slayer」というゲームは、モンスターだけどOKなんですよね。

どうしてですか?

これは「ペルシアの神話」だから。つまり「地元の神話」という設定ならOKなんです。ところが「西洋ファンタジー」だとアウトです。

あとイランでは、ファンタジーはダメだけど、SFはOKなんです。だから「ハリーポッター」はダメだけど、「スーパーマン」はOK。(※「スーパーマン」はクリプトン星出身の宇宙人)

これは「異星人とかロボットがいるのは、しょうがないよね」というノリ。彼らの審査基準では、未来のことはあまりうるさく言わないんです。

だから、近代科学とかSFとかであれば大丈夫。おもしろいですよね。そういう「抜け道」のようなものも、あることはありますね。

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4、ブラジルは通信料が高い。

ラテンアメリカのほうでは「スマホゲーム」はどんな感じですか?

ラテンアメリカでは、アプリのダウンロードは伸びているのですが、課金はまだまだですね。そもそもダウンロードのハードルが高いんですよ。

たとえば、ブラジルでは通信料がすごく高くて。月のデータプランも、1GBあたり2~3,000円ほどかかるようです。しかも通信速度は、制限があって異常に遅い。

ここまで高いと、そう気軽につかえないですよね。日本人でいうと「年収100万円なのに、1GBに2~3,000円を払う」くらいの感覚ですから。

そのため、ブラジルではスマホをもっている人の68%が、wifiをつかうそうです。ここまで通信料が高いのは、税金がすごく高くて、安くサービスが提供できないからですね。

5、ラテンアメリカで「ゲーム機」を遊ぶのは富裕層

そうなるとみんな「ゲーム機」で遊んでいるんですか?

いえ、中南米では「ゲーム機」が、すごく高いんです、これは関税の影響で。たとえばアルゼンチンでは、PS4は10万円、XboxONEは11万円もします。

だから、アルゼンチンなどで家庭用ゲームを自宅で遊べるのは、富裕層中の富裕層だけ。これは中南米では、どの国でも同じような状況です。

ちなみに、メキシコで一番あそばれているのって「Xbox 360」で、二番目は未だに「初代Xbox」なんですよ。つまり、旧世代機のほうが人気がある。

どうしてかというと、安いからです。中古の「Xbox」がアメリカから、ガンガン密輸入されていて。それに街中で買った「違法コピーソフト」を入れて、あそんでいる人が多い。

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6、中南米のアーケードゲーム型エミュレーター

すると「お金がないラテンアメリカの人」は、どんなゲームで遊んでいるんでしょうか。

中南米の「低所得者層」には、ある形態のゲームがすごく遊ばれています。この写真を見てください、メキシコでこんなモノを見つけました。

これはエミュレーター機なんですよ。この中に、Xbox360などが入っていて。任天堂系のエミュレーターが入っている場合もあります。

このマシンに、数円分くらいのコインを入れると、10分くらい遊べるようになっているんですね。

まあ、めちゃくちゃ怪しいんですけど、家庭用のゲーム機が死ぬほど高いため、こうしたモノが「ゲーム機を買えない人の遊び」として浸透してしまっている。

このアーケードゲーム機は、メキシコ、ブラジル、中南米にはどこでもありますね。オタクショップや貧民街に、置いてあることが多いみたいです。

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※写真はメキシコで見つけたもの。現地では”Maquinita Multijuegos”(マルチゲーミングマシン)と呼ばれている。

7、アルゼンチンには「ビットコイン」で給与を支払う会社があるらしい。

ラテンアメリカって、まだまだ年収とかも高くないんですね。

そうですね。たとえばアルゼンチンって、財政が破綻したことが、何度もある国なんですね。ATMにはいつも行列ができているほどで。

そういえば、そんなアルゼンチンで、こういう広告を見つけました。これはゲーム会社の広告で、国立銀行の支店のそばに張ってあったものです。

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ここで「ビットコイン」が出てくるのが、世相を反映していますよね。つまり、アルゼンチンの通貨は、国民からまったく信用されていないと。

この広告を見ていると、「ビットコイン」のような仕組みは、こうした国から普及していくんだろうなと思えてきますよね。

8、中南米で未だに「公衆電話」がつかわれる謎。

アルゼンチンの人も、ふつうに「スマホ」はもっているんですよね?

もちろん、スマホは持っていますね。ところが、中南米は公衆電話がたくさん残っていて。スマホで電話帳をみて、公衆電話で電話するんです。

これは現地の人に聞いたら、「スマホの通話プランが切れた」もしくは「固定電話のほうが安い」という理由で、公衆電話をつかうそうです。

つまり、スマホ自体は普及しているんだけど、通信や料金の問題で、いまだに公衆電話の利便性が勝つことがあるんですね。

ちなみに、ブラジルでは「リオ五輪」にあわせて、公衆電話をWifiスポットにするらしいです。なので、これから通信環境はよくなると思います。

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9、ラテンアメリカに日本が進出するには。

ラテンアメリカで普及している「日本の何か」ってありますか?

ありますね。たとえば、ラテンアメリカでは「聖闘士星矢」が圧倒的な人気で、最近でも新作ゲームの現地語版が、発売されているほどです。

あと、メキシコでは「キング・オブ・ファイターズ(KOF)」が人気です。もともと、メキシコはプロレス好きな国ですが、格ゲーもすごい大好きで。

だから「KOF」の世界トーナメント戦をやると、なぜかメキシコの方から強い選手が、ガンガン出てくるそうですよ。

あとゲームではないのですが、メキシコでは「マルちゃん」のカップラーメンが人気。もう現地では「マルちゃんする」とかまでいうんですね。

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ラテンアメリカについて「日本のゲーム企業」が知っておくべきことは?

ラテンアメリカについて、知ってほしいのは「肌色が多くてもOK」ということです。現地で広告などを見ても、それをすごく実感しましたね。

あとは「アプリの課金」はまだまだですね。街中でも「歩きスマホ」を見ることも少ないですし、みんな電車内でもボーっとしています。

ちなみに、メキシコって地下鉄に「行商人」がいるんです。おっちゃんがラジカセを背負って、音楽をかけている。何してるかというと、CDを売っているんですね。

駅の人は黙認しているようですが、こういう行商人が4万人もいるらしい。ネットがつながらない地域ならではの、音楽の流通方法ですよね。

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編集後記

とにかく、アラブ人の課金パワーで、実際に「アメリカのAppStore売上50位」まできているのがスゴイ…。

メディアクリエイトさんでは「新興国ゲームビジネスレポート」の発刊などもされています、よりマニアックな情報が欲しい方はどうぞ。

先日も「ドバイのプロこじきは月収800万円」というニュースが話題になりましたが、一部のアラブ人のパワーは本当に想像がつきませんね。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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